再会は悪夢と共に
「あれは!! 【エアキューブ】! 間に合えっ!!」
ガギンっ!!
硬いものがぶつかり合う音が響いた。
紙一重でゴーレムの振り下ろしを女の子を包むように展開された透明な箱が阻む。
あとほんの少しでも遅れていたらあそこで俯いている女の子は助からなかっただろう。
よく見ると女の子は傷だらけで所々から血が出ていて、左腕は紫色に変色し腫れているのが見てとれる。
「とにかくあいつをどうにかするか。 【武具創造】! 夢鎗!!」
まだすこし距離があるな、遂に名付けたあれで仕留めるか。
「夢鎗 ―恋矢―!!」
【武具創造】によって生み出されたいつもより大きな夢鎗が螺旋回転しながら物凄い速度で射出された。
元々はただの【投げ槍】であるが、そこに【念動力】によって回転運動を加えた新技である。
螺旋の回転運動により軸がぶれること無く、空気の壁を穿ちその鎗は音を引き連れて進む。
俺の声に反応したのだろう、ゴーレムが振り返るがもう遅い。
次の瞬間、ゴーレムの上半身は消失していた。
なぜか…… いや、今は女の子の回復が先だ。
「【ウォーターライフ】!」
念のためにまだエアキューブは残したままだが、【ウォーターライフ】が中で発動出来て良かった。
暖かな光が弾け癒しの雨粒が落ちる、触れた所から水面に波紋が広がるように瞬く間に治っていく。
汚れや血液はそこに無かったかのように流され消えていった。
体の痛みが消えてようやく気が付いたのか俯いてた女の子が顔を上げた……
「し…紫羅……?」
い、いや待て、おちつけ俺。
紫羅な訳がない、髪の色も違うし、少しだけ背も高い気がする。
そもそも紫羅は前の世界で生きているはずだ。
紫羅であるはずがない。
…でも。
何でだろう、涙が止まらないのは……。
「そ…ら…? 君が助けてくれたの?」
「っ!? そうだよ! 俺だ空至だっ!! やっぱり紫羅なんだな!?」
「ははは、キューキュー言ってかわいい。 そんなわけないよね。 そらって言うのはね私のお気に入りのぬいぐるみなの。 それと… 大好きな人の名前… でも角とかちょっと違うし似てるだけだよね。 この透明な箱みたいなのも傷を治したのも君がやってくれたの? 」
「言葉が通じないのかっ? ユメっどうにかならないか!?」
〈んとね、ますたぁはいままもののことばでおはなししてるの。 だからいまはおはなしできないの。 ごめんなさい。〉
「いや、わるい。 ユメのせいじゃいないよ。 ありがとう。」
「んー、何て言ってるかわからないけど助けてくれてありがとう。 この透明の箱消せるかな?」
取り敢えず意思の疎通は保留にするしかない。
「【武具創造】、夢鎗、もうひとつ夢鎗、【念動力】、そして【悪食】付与!! いけっ。」
【エアキューブ】を解除する前に集まってきつつある邪魔者共をまとめて消し飛ばす。
その光景に紫羅が目を丸くしている。
相変わらずかわいい。
そして【エアキューブ】を解除した。
よろよろと立ち上がりこちらに紫羅が歩いてくる、俺も怖がらせないようにゆっくりと近づき見上げる。
そっと手を伸ばしてくる。
大人しくしていると優しく撫でられ、そして抱き抱えられた。
俺の顔にだけ雨が降る。
怖かっただろう。
痛かっただろう。
辛かっただろう。
心細かっただろう。
優しく頬ずりをしてやる。
涙を拭う指があれば。
頭を撫でる手があれば。
優しい言葉をかける声があれば。
抱き締める腕があれば。
震えて嗚咽を漏らす紫羅に俺が出来ること。
「【五秒の悪夢を体現せし者】」
■
なんて私は無力なんだろう。
絶対に渦の頂点にたどり着くなんて言っておいてこれだ。
国を出てエルフ族に繁栄を?
何様のつもりなんだろう。
籠の鳥? 違う、これじゃ井の中の蛙じゃない。
自分が情けなくてしょうがない。
今だってカタツムリの魔物に勝手にぬいぐるみのそらとソラ君を重ねてすがり泣いている。
情けない……。
『どうせ紫羅の事だから情けないとかおもってるんでしょ?』
えっ?
目を開けると白い空間にソラ君が立っていた。
ソラ君っ!!
っ!? 声が出ない! なんで……。
『辛かっただろ。 痛かっただろ。 苦しかっただろ。 横にいれなくてごめん。 守ってやれなくてごめん。』
そう言うとソラ君は私を抱き締めてくれた。
声は出ないのに涙は止まらない。
『無理するなっていっても紫羅も無理するんだろなぁ…』
当たり前だよ。
ソラ君にまた会う為だもん。
『そらを頼るといいよ。 時間だ… 愛してるよ紫羅、 またね…』
「まってっ!! ソラ君っ!!」
気が付くとその姿はなくカタツムリだけがそこにいるのだった。
果してそれは妄想だったのか、現実を突き付ける悪夢だったのか……
「……無理するな? あなたの部長を嘗めないで。」
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