考えども…
とんでもない強化がなされた今の地龍のHP、防御力を持ってして、俺達の攻撃は大きなダメージを与える事は出来ないだろう。
しかし、完全にダメージがゼロという事では無い、ならば俺達に出来る事は、恐らく備わっているHPの自然回復を上回る早さで僅かずつでも断続的に攻撃を加え、ダメージを蓄積させていく事だ。
〈攻めろ!〉
その合図に合わせ、予め準備を進めていた攻撃を放つ。
【万物の創造神】で造り出した極限まで圧力をかけ、圧縮した超重量のタングステン製の夢鎗、その数百。
そのすべてに【超念動力】で高速回転を加え、さらに【嵐纏い】で不可視の鋭利な風の刃を纏わせ超高速で同時に叩き込む。
「嵐刃恋矢っ!!」
「面白そうじゃの、どれ、合わせてみようかの…… はっ!! これは共同作業なのじゃっ!! よ、よし【焔獄咆哮】っ!!」
俺が放った嵐刃恋矢のいくつかにルケが放った深紫の【焔獄咆哮】がぶつかり乱回転する嵐に巻き込まれるように鎗を覆う。
「あっ! ユメも!! 【舞矢】!! よっつ!!」
深紫に燃える嵐刃恋矢と地龍の間にユメの【舞矢】が割り込むように展開され四本の鎗が倍速まで加速する。
ーーーーーーーーーっ!!
先行した四本の鎗はその長さの半分程まで突き刺さり、風の刃が肉を抉り、傷口を焼き焦がす、追従する残りの鎗が雨のように地龍に殺到するも浅く突き刺さるのみで、もがき暴れる動きによってすぐに振り落とされてしまった。
「ユリちゃん! 私達も行こっ!!」
「はい、合わせます!」
「【抜刀術】……―残光―!!」
「【黒薊】。」
ミュスカの白夜刀―紫陽花―が鞘から抜き去られた瞬間にその長さを伸ばし、ユリが発動した【黒薊】により刀身が漆黒へと色を変える、恐らくミュスカのこの一太刀には他にも複数の強化が仕込まれていることだろう。
ほぼ水平に振り抜かれた一太刀、ミュスカの最速の攻撃、【残光】が地龍を捉え胴を五十センチ近く切り裂き、さらにその傷口へユリの【黒薊】によって生み出された闇が注射器で何かを投与されるかのように潜り込む。
表現し難い地龍の叫びが響く中、遂にユリの攻撃が炸裂する。
紫陽花が抜き去られた傷口から突如としていくつもの黒い影のような刺が肉を抉り突き出した、それはまるで咲き誇る薊の花のような形状だった。
「ミュスカとおねーちゃんすごーーいっ!!」
「ユメ、油断してはいけませんよ、攻撃の手を緩めず攻撃しましょう。」
「うんっ!!」
更なる追撃へと皆が動き出そうとした時、地龍が叫び声と共に、紫の玉を吐き出した、その玉はバチバチと紫電を放電しながら高速でジグザグに上空、つまりこちらへ近づき途中でピタリと止まる、そして更に放電の激しさを増していく。
「なんだあれは…… みんな気を付けろ! 何が起こるか分からない!! ……ぐっ!?」
なんだこれっ、あの玉に引き寄せられる……!!
〈みんな俺に掴まれっ!!〉
俺の声に反応しみんなが俺にしがみつく。
【超念動力】っ!!
謎の引き寄せる力は周り全てに作用し、大量に降り積もっていた砂が舞い上がり、水を張った容器の底に開けた穴に吸い込まれるように玉を中心に渦を巻きながら吹き荒ぶ。
くぅっ!! 均衡を保つので精一杯だっ……!! これは【紫電砂嵐】かっ?
「うっ…… そらっ…!! 大丈夫っ……?」
〈……ギリギリだっ!! 早くあの玉をどうにかしないとまずいっ!!〉
「っ!! そら様っ!! ブレスの予備動作が始まりましたっ!!」
なっ!! くそっ! 今かよっ!!
どうするっ、今のあいつのブレスの攻撃範囲からしてあの玉の方向へ移動しても巻き込まれる! かといって【絶界】でもあのブレスを防ぎきる事はもう出来ないっ……。
考えろっ! 考えろっ!! どうすればっ……!!
意図的に【碧雷渡】と【女神の瞳】による時間経過の引き延ばしを起こし、ほんの僅かでも思考に時間を割く。
……あっ、【瞬身】でいいじゃんっ!! いや、焦ると判断力ってやっぱり落ちるんだな。
いやぁ、びっくりしたー、おっと、早いとこ移動しないと危ないな。
「【瞬身】っ!! …………はっ? はっ!?」
な、なんで発動しないんだっ!?
「っ!! そら様もう間に合いませんっ!! 私がっ!!」
引き延ばされた時間の中でユリがゆっくりと俺の前に飛び出す。
"ユリちゃん! 約束したのに…… ダメっ……"
ミュスカの悲鳴のような叫びが聞こえる。
ユリの向こう側で光が溢れる。
放たれたブレスが迫り来る中で、ユリが此方を小さく振り返り何かを呟いた気がした……。
助けないと! 助けないとっ!! 助けな…… いとっ!!
気付けば体が勝手に動いていた。
先程まで動けなかったのに動いていた。
ユリを掴み引き寄せる。
ユリは驚いた顔をした後、泣きそうな顔をした。
体にしがみついていた全員を抱き寄せる。
皆が何かを叫んでいた。
全員を抱えるように丸くなりブレスに背を向ける。
どうすれば皆を守れるか、それだけを考えていた。
考えていた。
考えていた。
そしてブレスに飲み込まれた。