砂山に紛れし一粒の砂金
「何か来ますっ! 【絶界】をっ!」
ユリの警告の直後にルケが瞬時に俺が入る大きさの【絶界】を展開した瞬間、数えきれない飛ぶ斬撃が飛来する。
これは…… 【風雷刃】か……?
雷を伴う風の刃が【絶界】の壁に衝突し、内包した電荷が光となり放出される。
ここまではブレスのみがこの高度まで届く攻撃だったが、この【風雷刃】とあといくつがここまで影響をもたらすかは分からない、一つ言えるのは、もはや上空とて安全域では無くなった事、であれば俺達の行動は一つである。
〈みんな! この攻撃が止んだら攻めるよ! ……絶対に全員で勝つ! ……行くぞっ!!〉
「うんっ!! 勝とうっ! そらっ!!」
「ぶっころーすっ♪」
「相変わらず物騒じゃの…… じゃが右に同じなのじゃっ!!」
「皆様の背中は私が守ります。」
地龍の攻撃が止むと同時にルケが【絶界】を解除する、それに合わせるように俺達は一気に急降下を開始する。
雲を掻い潜るように高速で落下していると、ふと異変に気が付く、先程まで白かった雲が瞬く間に暗雲へと変化していくのだ。
〈気を付けろっ!! 何か来るぞっ!!〉
所々で閃光が煌めき、轟音と共に縦横無尽に雷が降り注ぐ。
っ!! あっぶなっ!! 俺とルケは【精霊化】を展開したままだから多分当たっても大丈夫だ…… 問題は残りの三人、致命傷にはならないだろうけどダメージは免れない……。
〈ミュスカ! ユメ! ユリ! 三人は俺の真後ろについて! ルケはその後ろで皆を守って!〉
「むっ? 心得たっ!!」
ユメとミュスカが俺の真後ろにつき、追従する形となる。
「そら様、落雷程度なら流せますので私に側面はお任せください。」
流す…… あの黒いオーラでか? ユリが出来ると言うなら大丈夫か。
「よし、任せた!! スピードを上げるよ!!」
高度が下がるにつれて雷雲は密度を増し、それに伴い雷も更に増えていく、それこそ雨のように降り注ぐ。
ん? 雨のように…… なるほど、これが【泣き虫の雷命】か、ずいぶんと泣き虫な空だこと……。
正面からの落雷を敢えて受け、サイドからの落雷をユリが流す、後方からはルケが防ぎ、弾丸のように真っ直ぐに地龍へと突き進む。
受けてばかりだと不利だ、無効化されるかもしれないけど、このまま一撃叩き込む!
「疑似ブレスっ!!」
精霊魔法による高熱のブレスが地龍を覆い尽くす。
ーーーーーーーーっ!!
ん? 効いてる? 【砂化】で無効化されるかと思ったけど…… そうかっ、魔法とスキルの癒着で【砂化】が失われたのか!!
好機とばかりに追撃を打ち込もうと再び魔法を構築していると、地龍に変化が現れる。
目で見える程にオーラが高まり、集約されていく。
更にそこから地龍と俺達の間に急速に何かが構築されていくのがわかる。
〈なんだ…… あれ……〉
それは一言で言うなら門。
砂で出来たような一対の二つの龍があしらわれた巨大な門である。
「恐らくあれは【怒りの龍徒召還門】でしょうか……」
いつしか落雷は止み、黒い雲が広がるのみとなった空で一度降下を止め浮遊する。
やはりユリをもってしてもここまでぐちゃぐちゃに癒着したスキルとも魔法とも知れないあれらは、引き起こされる事象から該当するものを推測するくらいしか出来ないのだろう。
〈またあの地竜がたくさん出てくるのか……?〉
「うーん、なんか違うかもー!」
俺の予想に対してユメの疑問が呈された直後、それまで大きな動きを見せなかった地龍が動いた。
明らかに最初よりも格段に増した速度で空へ舞い上がる。
どうやら地龍は門を目指しているようだ。
物凄い速さで地龍は門をくぐる、そしてそれと同時にここに来て更に地龍に変化が訪れた。
「は? デカくなった!?」
その大きさは今までの約二倍、それに伴い地龍から感じる圧も明らかに増しているのがわかる。
まだ強化されるのかよ。
しかし俺の心の声は次に起きる事で上書きされる事になる。
地龍が、カッと眩い赤い光を放った直後地龍は再び空中でもがき始め、体がボコボコと脈動し、到るところに変化が訪れる。
更に体は発達し、爪や牙は太く長く、そして脚が所々で突き出すように増え、それに追従するように背中から翼が肉を掻き分けるように生えていく。
いい加減にしろよ…… 強化され過ぎでしょこれ。
「そう言うことですか…… 厄介な。」
〈ユリ、なにかわかった? どゆことあれ。〉
「はい、まず【怒りの龍徒召還門】、これは潜った者を龍徒化し強化を施すもの、更に今の変化は【龍徒強化化化】によるものでしょう、ふざけた名前ですが、文字のまま龍徒を強化するものでしょう、しかしその強化域は従来より三倍ほどに膨れ上がっているようです。 ……正直ステータス的には勝てる見込みがありません……。」
マジか……。
〈絶対に勝てない?〉
「……いえ、可能性はゼロではありません、しかし例えるならば、あの積もり積もった砂粒の中からたった一粒の砂金を見付ける程に難しいと言っても過言ではありません。」
ほぅ、そりゃたしかにキツイ。
〈今なら【瞬身】を使えばどうにか逃げれると思うけど…… みんなはどうしたい?〉
「妾はこの程度で諦める気は無いの。」
「ユメは靴の仇を取るっ!!」
「私は常にそら様とミュスカ様々の剣であり盾となりましょう。」
「そら、何を今さら分かりきった事を聞くの? そらの中で答えは決まってるんでしょ?」
〈あぁ、正直勝てるか分からない、でも俺はあいつに勝ちたい。〉
「じゃあ、行こ! 私達はみんなそらを信じてる、だからそらはそらを信じてる私達を信じて! 絶対に勝てるよ!」
ここまで言われたら勝つ以外の選択肢なんてないだろ。
〈あぁ、やろう。 力を貸してくれ!〉
「うむっ!」
「おーー♪」
「はい!」
「そんなのいつでも貸すよ! 今もっ!昔もっ!いつまでもっ!!」
勝てる勝てないじゃないよな、勝つんだ。
みんなで!!