ミュスカの一太刀
心臓を突き抜け雷撃を放つレイピアを一切気にせず振り向き距離を取る。
『なんで…… 意味がわからない』
確かにレイピアは俺の心臓を貫き電撃を放っていた、そこに間違いはない、しかし俺は無傷、何故か、それは悪魔の鏡池でアギオルから奪ったスキル【幻化】の効果だ。
このスキルは任意の対象を僅かな間、幻のように実体を無くす効果がある、【非実体化】とほぼ効果は同じだがこちらは魔力の消費が無いのがメリットだ、しかしスキルレベルがまだ低いこともあり、現在の効果時間は数秒、地龍のブレスのような攻撃をやり過ごすのは難しいだろう。
そして【非実体化】のようにクールタイムがほぼ存在しない事でそれぞれを使い分ければ実質的に俺にダメージを与えることはかなり難しい、更に言えば借り物ではあるが【精霊化】、【全無効】これらが加われば防御面で言えばさらに磐石である。
極めつけは【未来の担い手】である、例え全てをすり抜け俺に致命的なダメージを与えたとしても、それは未来視の中での出来事になり、スキルの効果を切らない限り何度でもリトライすることが出来る。
故に………。
「だから言ったでしょ? 抑えられるってさ。」
『……良く見て、まだ龍徒達全然減ってない。 あれを倒しきってから言ってみて。』
ま、仰る通りか……。
「今俺が言えるのは、あんまり俺の仲間達をナメるなよって事かな。」
『現実を見せて上げる、手加減はおしまい。』
っ! 手加減ね…… 望むところだっ。
■
「つっ!! 一体一体がかなり強いね……」
「ミュスカ様っ!! 大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと爪がかすっただけだよ!」
やっぱり空中戦は少し苦手…… それに攻撃もそうだけど、厄介なのはあの岩みたいな鱗の堅さだね…… その辺の金属剣じゃ攻撃の時に折れちゃいそうなくらい、でもそらが造ってくれた紫陽花なら絶対に負けないで切り裂けるはず、なら足りないのは私の力と技量…… 集中しよう…… 深く、深く、もっと深く……。
「ふぅ…… 行くよ。」
【抜刀術】―残光― これは私の【抜刀術】で最速の一太刀…… これに【伸縮自在】と【質量変化】を合わせる!
「【抜刀術】―残光―っ!!」
敢えて身体を地面と平行に右に倒した状態で紫陽花を抜く、【精霊王纏い―真―】による物理法則すら無視した最速の一太刀、刃が鞘を走り最高速へ達した瞬間に【伸縮自在】で刀身を伸ばし地竜を捉える、更にインパクトの瞬間に【質量変化】で重量を五百倍に引き上げる、紫陽花の元の重さは約一キロ、つまりこの攻撃には約五百キロの重さが乗る事になる、身体を右に倒したのは地面に対して垂直に抜刀するためだ、これにより、より効率的に力を伝えることが出来る。
……………………。
「え?」
不意に口から出た言葉がこれだ、渾身の力で振り抜いた紫陽花はしっかりと地竜を捉え既に鞘に納まっている。
なんで……? 全く効いて無いの……?
「ミュスカ様っ!! ブレスが来ます!!」
っ!!
切り裂いたはずの地竜の眼前にエネルギーが集まって行くのが見て取れる。
大丈夫、余裕を持って避けられる…… えっ!?
体が動かないっ…… これはさっきの攻撃の反動……!?
「っ!! ミュスカ様っ!!」
あぁ、どうしよう…… ブレスが近づいてくる、これは避けられない…… こういう時にスローモーションに見えるのってやっぱり本当なんだな……。
その時私の視界に何かが割り込んでくるのが見えた。
っ!! ユリちゃんっ!!
ブレスが迫る中私を庇うようにユリちゃんが覆い被さる。
だめっ!! ユリちゃんっ!!
最悪の瞬間が頭に過り、堪らずに目をぎゅっと瞑る。
どうしてこうなったの……?
なんで…………
いつまでたっても痛みも衝撃も来ないの……?
「どうして……?」
恐る恐る目を開けると二体の地竜が地面に向かって落ちて行くのが見えた。
「へ?」
我ながら間抜けな声が出たと思う、しかし落下していく地竜を見送り、はっと振り返ると驚きの光景が目に飛び込んできた。
その地竜は体の中心からずるりと左半身がずれ真っ二つになり声を上げる事も無く落ちて行ったのである。
「ミュスカ様っ!! お怪我はありませんかっ!?」
「え…… あっ、うん! ありがとうユリちゃん、でも何がどうなってるの?」
良かった、ユリちゃんも怪我は無いみたい。
「はい、【鑑定】で確認したのですが先程のミュスカ様の攻撃で既に奴のHPは全損しておりました、にもかかわらずブレスを放とうとしましたので訝しく思いながらも念のため盾にならせて頂いた形です、そら様がご健在であれば私は実質的に死なないので。」
「それでも私の代わりにユリちゃんが傷付くのは嫌だからあんまり無茶しちゃダメだよ! でも本当にありがとうユリちゃん!」
「はい…… 気を付けます。」
「うん! それでさっきの地竜は私の一太刀で絶命してたって事だよね?」
「はい、状況を説明しますが、今の現象の原因はミュスカ様の一太刀が鋭すぎた事により地竜が斬られたと認識出来ず、更に縦に両断された太刀筋が綺麗過ぎて細胞一つ一つが一切潰れる事無くブレスの反動でズレが生じるまで癒着していたのだと推察致します、ブレスは二つに割れ私達の両側を通りすぎ、その延長線上にいた他の地竜に直撃致しました。 ですので次から今の攻撃の半分程の威力で攻撃なさるとよろしいかと……」
そうなんだ…… 私の全力の一太刀はちゃんと地竜に効いてたんだ…… これなら何匹いても引けを取らないね!
「うん! わかったよユリちゃん! そらも頑張ってくれてる、全部倒して早く加勢にいこっ!!」
「えぇ、そうしましょう」
待っててそら! 今度は私達が助けに行くよっ!!




