秒速の狼煙
充分な休憩を取り、前回より細やかに互いのスキルや魔法、更にそれらを使った連携を擦り合わせた後、俺達は遂に五十階層へと足を踏み入れた。
〈前情報の通り赤茶けた大地だね…… どこまで続いてるんだか。 ユメ、ユリ! 地龍はどっちにいる?〉
「んー、おねーちゃん! どう思うー?」
「これは…… 下、でしょうか。」
「えーと、それは地面に潜ってるって事かな?」
ミュスカの問いかけにユリが答える。
「いえ、そうではなく今立っている大地が球体だと言うことですね。」
惑星…… みたいなもんかな、なら空の彼方には宇宙空間でも広がってるのか? いや、いくらダンジョンがなんでも有りでもそこまでは無いか……。
「なるほどね、と言うことは反対側にいるってことだね!」
「はい、そうなります。」
「ちょっと待つのじゃ! 球体? と言ったのか? なら少し歩いたら坂になっておるのかの? 反対側なら落っこちてしまうのじゃ!」
あー、なるほどね。
ルケは自分が普段暮らしている場所が球体なのを知らないのか、それをゼロから説明するのは骨が折れるな。
ユリに任せよう。
「あまり難しく考える必要は有りませんよ、今私達が立っているこの大地は物を球の中心へ引っ張る力が有るのですよ。 円周で言うなら約一万キロほども有りますし問題なく戦えます。」
お、端的で分かりやすいな。
円周が一万キロか…… 月ってそのくらいだったっけ?
「うむ、引っ張る力かの、良くわからんが普通に立てて戦えるのじゃな? ならなんでも良いのじゃ。」
うむ、潔し。
〈ちなみになんだけどさ、ここの空とかってどうなってるか分かる? 一応ダンジョンでしょ? だから天井とか壁とか有るのかなって……〉
「えとねー…… 天井も壁も無いよー! どこまでいっても空みたいー!!」
へー、宇宙空間じゃなくて空が広がってるのか、ならあれを使っても問題無さそうだな。
〈そっか! ありがとう! 地龍の他に敵は?〉
「……どうやらいないようですね。」
まぁ、巨大なボス部屋って言ってたもんね、取り巻きくらいいるかもって思ったけど完全に単体でいるみたいだな。
〈よし、なら集中して地龍と戦えるな! 早速反対側に向けて出発しよう!〉
「これは…… どうやら彼方も我々を発見したようですね、かなりの速さで此方へと向かって来ています。」
〈それは手間が省けるね、なら余計な体力と魔力を使う事も無いし、その辺で待ち構えようか。 接敵までの推定時間は?〉
「約十時間程かと。」
円周が約一万キロって事は反対側からここまでが半分の約五千キロってことだよな? ならそれを十時間で移動するとなると単純に時速五百キロか…… かなり速いな、地龍って言うからもっと鈍重なのをイメージしてたんだけど…… どうやら考えを正した方が良さそうだ。
〈わかった、ならこの十時間で出来る限りの備えをしよう! まずは先制攻撃を叩き込む!! ユメとミュスカの力を借りるからそのつもりで!! それとは別に俺は準備があるから少し時間を貰うね! 皆もそれぞれ準備しといてね!〉
「りょうかいっ♪」
「わかったよ!」
「かしこまりました。」
「うむ!!」
……………
………
…
「そら様! 接敵まで残り十分を切ります!!」
来たか…… MPは…… よし、全回復したな。
〈うん、ユメ! よろしく!! ミュスカも借りるよ!!〉
「おっけー♪」
「うん!!」
まずは先制攻撃で出鼻を挫くっ!!
【万物の創造神】!!
魔力を思いきり注ぎ込む。
今放とうとしてるのはファランギーナに風穴を空けた攻撃だ。
頭上を覆うような大きさの魔方陣が展開されていく。
【女神の瞳】!!
魔方陣を最適化。
魔力増大魔方陣追加、魔力蓄積魔方陣追加、バイパス形成、更に魔方陣複製。
この作業にも大分なれたな。
複雑に絡み合った巨大な魔方陣が天と地に鏡写しのように形成されその輝きを増していく。
「極大夢鎗―恋矢―!!」
ファランギーナを貫いた長さが十メートルにもなろうかという巨大な夢鎗―恋矢―が上下の魔方陣の中間辺りに形成される。
ここからだ、【万物の創造神】―極大レール―!!
【碧雷渡】! 最大出力!!
巨大なレールが碧白く発光し大気を焦がすような放電が轟音と共に地面を焦がす。
【付与術神】で極大恋矢に【炎纏い】―紫炎―を付与!
前回はこれで完成だった、でも今回は更に強化する!!
更に【嵐纏い】を付与!! 更に重力の軛から解き放つ! 【減重力】!! まだだ! ミュスカの【命弓】!!
〈ユメっ!!〉
「ユメにおまかせあれっ!! 【舞矢】!! 五こ!!」
バチバチと放電を繰り返すレールの前に光の輪が並ぶ。
よし、準備は出来た!!
〈終末の龍殺恋矢―改―!! 行けぇぇぇ!!!〉
それは放たれると同時に光の輪全てを通過した。
達した速度は秒速四十八キロメートル
空気を焼き焦がし、全てを穿つ。
女神の瞳をもってしてもそれを視認する事はほぼ出来ず、過ぎ去った後の硝子と化した大地だけが通過した事実を告げる。
ミュスカの【命弓】により必中の攻撃は一秒弱で目標に到達したはずである。
遥か遠くで煙が上がっているのが見える。
五十キロメートル以上離れている為結果は分からないが、今のを受けて無事と言うことは無いだろう。
〈案外これで倒せてたりしてね……。〉
そうで有ればどれ程良かった事か、俺はこの後思い知る事になる。
今の攻撃がただの開戦の狼煙程度の意味しか持たない事を。




