容れ物
今のは危なかった……。
「お、大壺さんナイス……」
〈び、ビビったわ、いやマジで。〉
俺達は床にぽっかりと空いた穴の縁ギリギリで持ちこたえていた。
これはひとえに大壺さんの功績が大きい、四本の腕全てでがっちりと残った床にしがみついたのだ。
『惜しいー。 まぁ隙だらけ過ぎだけどね! 【氷柩】!!』
大壺さんの周りにキラキラと氷の粒が舞いその全てが殺到する。
〈っ!!【非実体化】!〉
「大壺さん! ダメだっ!!」
〈へ?〉
一瞬にしてクリスタルのような氷のオブジェが出来上がる。
大壺さんは氷の中に捕らわれたかのように見えるが実際には【非実体化】により難を逃れていた。
『そうだね、それは悪手だと俺も思うよ。』
突如真後ろから聞こえた声に大壺さんは【瞬身】をもって回避行動を取ろうとするが、それは叶わない。
ザシュザシュザシュザシュザシュ。
『はい、お疲れさまー。』
「大壺さんっ!! くそっ!」
ドッペルゲンガーは【嵐纏い】を解除していなかった。
つまり真後ろを取られた時点で不可視の刃に切り刻まれたのだ。
『ま、おおよそ作戦通りかな、選択ミスだよね、【非実体化】じゃなくて【瞬身】を使っておけばまた話は違ったんだけど…… 経験の差が出たかな。』
〈そ…ら、ちーん…… わる、い。 しくっち…ま、った…… へへ……〉
「チャラ先輩…… ま、まぁ、また出し直せば復活出来ますもんね! 次また頑張りましょう!! ねっ!!」
〈い、や…… たぶ、んむり… だな…… おれ、のいし、きはこ、こできえち…まう、とおも、う。〉
『まぁ、俺が説明するのも違う気がするけど、それ転生者なんでしょ? ユメとかとは根本的に違う存在だよね、簡単に言えば本体の在処の違いだよ。 ユメの本体はそらの体に宿ってるけどそれは違う、それの本体はその壺、もしくは壺の中身だもんね、本体が一度消失しちゃえば中身だって消えてなくなるのは当たり前だと思うよ? 次出した【蟲毒】から出てくるのはさっきみたいなムカデとかそういうのなんじゃない?』
〈ま…… そ、ういう、こったな……〉
「そ、そんな…… 折角また会えたのに…… 嫌だ……。」
あれ…… でも俺別にチャラ先輩とまた会いたいとか思った事ないな。
いやいや、でもこうやって俺の所で壺になったのもやっぱり縁って奴だよなぁ、前世では世話になってないしどちらかと言えば世話してた方だったけど本当に嫌いでも無かったし……。
〈ど、うしたんだ…よ、だま、りこんで…よ〉
「ごめん、考え中だから静かにしてて。」
〈……へ?〉
とはいえ、このズタボロの状態からどうするかだよね、スキルに対して【ウォーターライフ】って効くのかな……
「【ウォーターライフ】!」
…………。
『無駄みたいだね…… 俺はそっちのがありがたいけど。』
ユメとは違う…… か、そうだよな、ユメの身体は俺が造った、中身が無いだけで作りは普通の人と同じだ。
そう、あくまで器に過ぎない…… 器?
もしかしてこれなら……!!
「【万物の創造神】―甲冑―!!」
魔法陣から出てきたのは全身が金属プレートに覆われた甲冑、そして出てきた甲冑の頭だけを【超念動力】で持ち上げ……
全力でドッペルゲンガーにどーーーーんっ!!
『へ? おっとっ…… え? なに?』
ただただ飛ばしただけの甲冑の頭は平然と避けられる。
ただ呆気に取られる時間は出来た!
【付与術神】!【蠱毒】を甲冑へっ!!
〈な、にを……〉
「うるさい! いいから早く引っ越しして!!」
崩れ瓦礫の用に積み上がった壺の破片の中から腕がびろんと飛び出た黒い何かが飛び出し甲冑の開いた首からニュルンと入る。
『っ!! くそ、そういう事か!!』
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……
甲冑がカタカタと音を立てたかと思ったら、その音はピタッと止まり動かなくなった。
失敗……なのか?
俺だけでは無くドッペルゲンガーも甲冑を見つめ動かない。
『……ふぅ、どうやら失敗みたいだね。』
くそ、ごめん、チャラ先輩……… 助けてあげられなかった…… もし来世があればせめて生き物になれる事を願って……
カシャン……
「っ!! チャラ先輩……?」
〈何だよ…… これ…… 何なんだよっ!!〉
自らの両手を握っては開きを繰り返し、有りもしない瞳で何度もそれを確認する。
〈こんなのって…… こんなのってよぉ!!〉
「あ、あの、なんかごめんなさい? とっさに容れ物で浮かんだのがそれだったんで…… ほ、ほら! チャラ先輩に無理やりやらされたゲーム!! それに出てきたでしょ? 頭無い鎧! あの、だから…… すみま…」
〈サイッコーじゃねぇーかぁー!! おいおい!! 荒巻!! これあれだろ!? デュラハンだろ!? さすが!! いや、流石っすわ! やっぱお前はデキる後輩だぜ!! うぉー!! テンションあがるぅ!! おいドッペルゲンガー!! 見ろよ!! 腕!! 足!! そして指!! 羨ましいだろ!?〉
……………。
「『うっざっ。』」




