平行線は雑談を交えて
既に丸一日位は戦っておるかの…… そろそろ決めねばの。
「【焔獄咆哮】!!」
最大火力で放った【焔獄咆哮】がドッペルゲンガーの一瞬の隙を付き直撃する。
ドガァーーーーンっ!!
圧倒的な熱量により【精霊化】の影響を受けながらも全身を焼き荒らす。
『ぐぅっ……!! …ガァッ……… 【認めざる者】……!!』
焼けた爛れた皮膚が瞬時に元に戻りその口元には笑みを浮かべ再び構え再び此方を見据え構える。
「はぁ、はぁ…… なに、を勝ち誇っておるのじゃ……?」
『ふぅ…… いや、ダメージを受けようとも【認めざる者】が有ればそれを無かった事に出来るとはなんと便利な事かと思っての。 それ、比べてみるのじゃ、妾とお主、どちらがダメージが多いかをの!』
確かにの…… 現時点で妾のHPは半分を切っておるのじゃ。
じゃが……。
「ふぅ…… のぉ、【認めざる者】の制約を知っておるかの?」
『ん? もちろんじゃ、一度使用したら五分は使えぬと…… っ!!』
「気付いたようじゃの…… そうじゃ、何故妾がこの五分間致命傷となるギリギリの攻撃以外をわざと受け続けていたか分かったじゃろ? のぉ、妾よ。」
『ぐぅっ!! それでも妾は負けぬぞっ!!』
「ならば試してみるかのっ!! 【認めざる者】!!」
妾は先程の【認めざる者】を認めぬっ!!
ドッペルゲンガーがこの五分間で受けたダメージが時計の針を戻すように再び襲いかかる。
『んがぁぁぁぁぁぁぁぁっ………!!』
焼け爛れ、切り刻まれ、殴打された傷の痛みに再び襲われ、叫び声となり木霊する。
「【認めざる者】に頼り致命傷を避ける事を怠ったお主の負けじゃの、その状態のお主など三分あれば方が付くのじゃ!!」
『ウグゥッ…… おのれぇ……』
■
「ねぇ、ユリちゃん、ルーちゃんとそらは大丈夫かな?」
「きっと大丈夫でしょう、今まで格上と戦い勝利を納めてきた方々です、同格に負けるような事はありませんよ。」
「そうだよー!! 二人ともとっても強いから平気ー♪」
「そうだよね、一日以上出てこないから私、心配で…… 信じて待つことにするよ。」
その時カツカツと階段を降りる音が聞こえてきた。
足音が聞こえるってことは…… ルーちゃんだ!!
階段の途中にある転移の魔方陣がある部屋に傷だらけのルケが入ってくる。
「ルーちゃんっ!!」
「やはり三人は先に終えておったの……」
その時ルケがふらつき膝を付く。
「っ!! ルーちゃんっ!?」
「だ、大丈夫なのじゃ、ちと苦戦しての…… 少し休ませて貰うの…… じゃ……。」
そういってパタリとうつ伏せに倒れ込んだ。
こんなに傷だらけになって……。
「お疲れさま、ルーちゃん。 今はゆっくり休んでね……。」
あとはそらだけだよ…… 頑張って……
■
どうしても決め手に欠ける、俺が使う魔法、スキルは全て同じ魔法で相殺されるし、今まで使ったことの無い組み合わせで奇をてらった攻撃をしたところで一撃で今まで培ってきたHPを全損させるのは難しい。
しかも【ウォーターライフ】が有るからなぁ…… 回復されるんだよなぁ。
まぁ、俺も回復するんだけど。
「大分時間を取られたな、今頃皆は倒してる頃なはずだよな」
『みたいだね。』
あ、分かるんだ。
なら俺待ちって事か。
ここまでの戦いでドッペルゲンガーの弱点もある程度は分かって来ている、奴がコピー出来るのはあくまでもスキルと魔法、称号もそうであるしステータスも完璧に再現されている。
そしてこの世界に来てから俺が使った組み合わせもこれまでの攻撃から把握しているだろうという事が分かる。
ならばと全世の記憶から咄嗟に引き出した野球ボールを試しに飛ばしてみたのだ、結果ドッペルゲンガーが相殺の為に出したのは恋矢だった。
恐らくではあるが、未知の物体であったが故に、反射的に最も使用頻度の高い攻撃で迎えうってしまったのだろう。
ここから分かるのは奴が把握しているのはこちらに来てからの記憶のみと言うこと、であれば、例えばミサイルや火炎放射等もある程度は有効だろう。
しかし俺には【全無効】や【ウォーターライフ】、【エアキューブ】、そして何より【瞬身】が有るのだ。
もう現代武器でどうこうなる領域にいない。
これが最終的に出した俺の答えだ。
こうなるといよいよ……
「手が付けられないわ。」
である。
このように互いにぐだぐだしている時間も増えてきた。
MPの回復を狙っての事だが、回復量までもが同じなためこの一日半ほどずっと平行線を辿っている。
『なぁ、勝負付くとおもう?』
ほら、ドッペルさんも疲れてるよ? これ。
「いやぁ、終わらないでしょ。」
『諦めて帰るってのがオススメなんだけど…… まぁ、ないよねー。』
「無いねー。」
さて、どうしたもんかな。
正直もうほぼほぼ魔法もスキルも使い果たしたんだよなー。
一応使って無いのもあるけど…… 意味なさそうだしなぁ。
「まっ、休憩がてらバトンタッチするのもいいか。」
『ん? あぁ【蟲毒】?』
「正解。 とりあえず出すだけ出そうかなってさ。」
『まぁ、ありだよね。 じゃあお先に。 【蟲毒】!』
空間に滲み出るようにして浮かび上がる大きな壺はやはり同じフォルムをしていた。
「じゃあ俺も、【蟲毒】!」
同じようにして全く同じ見た目の大壺が出現する。
カタカタカタカタカタカタカタカタ……。
カタカタカタカタカタカタカタカタ……。
二つの大壺がカタカタと音を立て同時に蓋が吹き飛ぶ。
カラン。
カラン。
いつも通り青黒い手が出てきてこちらに手を振っている。
「やぁ、大壺さん、久しぶり! 元気だった?」
大壺さんの手が拳を握り締め、そこからビシっと親指を立てた。
「元気そうでなによりだよ。」
ん? あれ、向こう大壺からは何も出てこない…… どうしたんだ?
俺の訝しげな視線を汲み取ったのか大壺さんがにょきにょきと腕を伸ばし、向こうの大壺の中に手を差し込みガサゴソとまさぐっているのが外から見てもわかる。
『これは……』
そして大壺さん腕を引き抜いた時、俺達の戦いの歯車が初めて大きくすれ違った。