拍子抜けとスカ。
四十七階は果てしなく続くかのような砂漠地帯だった。
目印になるような物は一切なくただただ砂の大地が広がるのみ、仕組みは分からないが地上と同じように太陽が昇り刺すような直射日光を受け続ける事になる、さらに気温は恐らく四十度を軽く超え、風すら無いので体感温度は更に上がってくる。
また驚く事に約六時間で日が沈み、星も月も無い夜が来る。
日が沈み多少過ごしやすくなるかと思いきや、急激に気温は下がり一桁台まで冷え込むのだからたちが悪い。
とは言え【絶界】をはれる俺達には関係の無い話である。
魔物は日中は姿を現さず、夜になると闇に乗じて襲い来るのだから睡眠をまともに取ることも出来ない。
まぁ、これも【絶界】にお任せしておけば問題ない。
なんなら【幻想鏡】で分身を作ればいいのだ。
唯一問題が有るとすれば地図作りである。
先程述べた通り目印になるような物が無いのだ、これで星や月が出るならまだ方角くらいは分かるかも知れないがそれすら無いのだから困り物である。
ならば太陽の昇る方角…… と初日、いや実際には十二時間ではあるが、二回目の太陽を拝むまでは俺もそう思っていた。
しかしだ、二回目に太陽が昇った方角は明らかにおかしかった。
何故なら、どちらかと言えば沈んだ方角に近い地平線から昇ってきたからである。
「どうすんの? これ……」
これがその時の俺のセリフだった。
俺達がここを踏破するのは容易い、ユメとユリに言われる通りに進めばいいのだから。
そんな状況を打破したのは意外にもミュスカだった。
曰く無風だと思っていた風が僅かに流れているのだとか。
まぁ、俺にはわからなかったがミュスカが感じ取ったその風は常に一定方向へと流れているらしい。
そこで試しに【万物の創造神】でシャボン玉を出したところ本当に少しだけ動き地に落ちて消えて無くなる。
念のためにと俺達が風を起こさないように【絶界】の中に入りシャボン玉だけを外に出してみた。
結果は先程と同じく少し流れて割れていった。
更にだ、風が流れてくる方向が下の階層へと続く階段の方向だという事もユメとユリによって発見されたのだ。
後は階段近くにいるであろうボスを倒せば終わりとなる。
これが約三十分前までの回想だ。
この階層の攻略法を確立し、後は飛んで行こうという話になり高速移動でボスを上空から発見するに至った。
そして今。
ギシャァーーーー……!!
「え? よわ。」
降下がてらの【舞矢】一つで格好良く加速したユメのライダーなキック一発で絶命したのだ。
今更ながら倒したのは約二十メートルは有りそうな大型のサソリのような魔物だった。
凶悪な鋭い腕に岩盤のようにゴツゴツとして固そうな外殻、毒々しい液体が滴る尻尾の毒針。
この状況を作ったユメもポカンとしながら、ひび割れひしゃげた背中の上でただ呆然としていたのが逆に印象的だった。
「……マスター、ごめんなさい。 連携の練習にならなかったね……」
「い、いや…… 流石にここまで弱いとは俺も思わなかったよ…… 前の階層で淘太が結構強かったから加減も難しかったよね…… うん。 ユメは悪くないよ!」
うん、悪くない。
悪いのは【限界突破】やら【生贄】でステータスを爆上げしてきた骸骨さんだ。
うん。
〈地図作りのせいで丸一日位無駄にしちゃったしもう下の階層行っちゃおっか!〉
因みに俺達が一度も地上へ戻らず攻略を進められるのは【万物の創造神】で水や食料をだしているからだ。
今日まで約八日間を費やしここまで来ているので、当初のユメの計算だとあと六日で攻略を終える予定だ。
つまりここから先は単純計算で一階層あたり二日時間がかかる事になる。
サソリのせいで抜けてしまった気を引き締めて挑むべきだろう。
気付くと先程まで無かったはずの下への階段が蜃気楼のように揺らめき出現した。
〈行こう!〉
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「四十八階層は…… っと…… なんだこりゃ…… って言う準備をしてたんだけど…… 普通だね。」
そう、てっきり俺はマグマの階層や氷の階層なんかが来ると思っていた、しかしだ、実際は普通、至って普通。
ダンジョンと言えばこうだよねというくらいの普通。
ただ洞窟のように岩を掘ったような道がいりくんでいるだけの作りに見える。
〈ちょっと拍子抜けだけど…… ユメ、何かおかしな所有る?〉
「えっとねー…… ううん、すごいぐちゃぐちゃしてるけど罠も無いし普通だよー!! 魔物はちょっと強い!!」
んー、魔物がちょっと強いだけの迷路階層か……。
光源が無くて暗いけど皆に【暗視】も付与してるし問題ないな。
でも…… なんか違和感が…… なんだろ。
〈一応気をつけて進もうか。〉
「はーい♪」
「そうだね!」
「はい。」
「そうじゃの。」
「あっ、魔物が来るよー!!」
少し奥の横路から頭が二つに別れた黒い犬が涎を垂らしながら迫りくる。
「妾がやろうかの。」
ルケが三歩前へ出て薙刀を構える。
薙刀を使うのに十分な広さがあってよかった、まぁ、どっちにしてもルケの敵にはならないだろうけどね。
双頭の犬は途中で地面を蹴り、そのまま壁や天井を使った立体的な動きで緩急を付けながらルケに襲いかかる。
「ほぉ、多少考えて動いておるようじゃが…… 無駄じゃの!!」
ルケが薙刀を振り抜く。
スカ。
「っ!? くっ!!」
「ルケ!! 大丈夫!?」
珍しく目測を誤ったのかルケの薙刀は空を切り、その隙に双頭の犬の爪での攻撃が迫り、ギリギリで後退し再び俺達に並ぶ位置まで戻ってきた。
「おかしいのじゃ…… 何故……」
「ルケ?」
ルケは俺の問いかけにも答えずに何かを確かめるように何度か薙刀を振るう。
「これは…… もしや……」
ルケが考え事をしている間に再び双頭の犬が攻撃を仕掛けて来る。
仕方ない、俺が仕留めるか。
【飛龍帝の爪】!!
スカ。
「………へ?」