一番大切な物はなんだ
ダイちゃんの物言いからして、曰くあれには会話を盗み見たり聞いたりする力があると仮定し作戦会議は念のため【絶界】を張ってスキル、魔法を無効化する効果を施して行った。
「じゃあそんな感じでいこうか。」
「はーい！ ユメはそれでもーまんたいだよー♪」
『うむ、鼻を開かしてやるのじゃ！』
「うん、じゃあルケ、【絶界】ありがと！ もういいよ！ どうせ敵も真ん中までいないみたいだし最高速で悪魔の鏡池まで行っちゃおっか！」
「りょーかい♪」
『うむ。』
……………
………
…
「ふぅ…… さてと、そろそろ…… 見えた！ あれだな！」
会議のあと全速力でひた走り、遂に悪魔の鏡池にたどり着いた。
「ユメ…… ここであってるよね？」
「およ？ あってるよ？」
いや、なんというか鏡池っていうくらいだし空が写るような綺麗な池をイメージしてたんだけど……
「うん。 汚い。」
『そうじゃの……』
これじゃあ大雨の後の大きな濁った水溜まりと大差ないな。
「なんか真ん中に台座みたいなの飛び出してるし…… まぁ、それはこの際置いといて、……いないね。」
『いないの。』
「んー、いるよー？ えーと、あっ！ 上だー！」
上？
見上げると雲１つない空が広がっていた。
しかし、その直後水面に波紋が広がるように空がぼやけ、重力に逆らうかのように池が逆さまに現れた、そう、目の前にある汚い池と同じ形状で。
「なるほど、それで鏡池か。」
空の池と目の前の池は同じ形状ではあるが逆さまな事以外に決定的に違う点が１つだけある。
それは水が透き通り、小魚や水草が揺らめく姿が見てとれる程の透明度が空に浮かんでいる方にはあること。
〈来訪者よ歓待は喜んでくれただろうか？〉
っ！！
いきなり【念話】で話しかけられ辺りを見渡すが変わらず姿を見ることは出来ない。
「いやいや、美味しく頂きましたとも、ええ、とても美味しゅうございました。 それで…… 姿を見せてくれると大層嬉しいんだけど…… どうかな？」
〈ふむ、確かに一方的に見られるというのはあまり気分の良いものではないな。 よかろう。〉
丁度上下の鏡池の中間あたりの空間が歪みスーっとその姿が浮き上がる。
浅黒い、いや、灰の色と言った方が似つかわしいだろうか、その灰の肌に皺を刻み紳士的な燕尾服を着こなし優雅に一礼をする壮年の男性、そして特筆すべきは頭部の二本の山羊のような角に、燕尾服の隙間からでる先端が鎗のような形状をした尾、そして蝙蝠のような羽が生えている。
こいつがダイちゃんの言っていた……
〈あまりの受けのよい姿でないのでな、普段は姿を消しているのだ。 他意はない、許されよ。〉
こうやって油断を誘ってくるのか、ダイちゃんの助言がなければかなり不利な展開になってただろうな。
〈名を聞いてもよいかね？ あぁ、まずはこちらから名乗ろうか…… 我はアギオルギティコという、覚えずらかろう？ アギオルとでも呼称してくれて構わない〉
アギオルね…… まぁ覚えなくていいか。
本当に呼びにくいし。
「初めまして、俺は一応魔族のそら、こっちが魔物のルケ、後ろにいるのが人間族のユメです」
〈そら、ルケ、ユメ、覚えたぞ。 少しばかり頼みがあるのだが良いかね？〉
「内容によりますが……」
〈なに、簡単な事だ、そら達の冒険譚を少し聞かせてくれまいか？ このような所に引きこもっているとな、退屈なのだ。 どうだ？〉
なるほどね、まず世間話からってことか。
……………
………
…
「こんな感じです」
ヴィオニエの事やミュスカたち、魔王と知己が有ること、俺が転生者で有ること等には一切触れず、差し障りない程度に嘘も混ぜながら話してやった。
〈ほう…… 魔物の大群から命からがら逃げ延びた所など手に汗握るな〉
はいー、それも嘘ですー。
少し誘導かけてみるか。
「いやー、本当に危なかったですよー！ まったく。 後から聞いた話だと魔王が絡んでいたとか。」
〈なんと！ それは苦労したな、まったくもって現魔王は素行が悪い。 成り代わりたいくらいであるな。 ……どうだ？ 我が魔王を討ち果たすのを手伝ってみる気はないか？〉
はい、これでダイちゃんの話しに信憑性が出てきた。
ダイちゃんもこいつに操られている以上完全に信用するわけにもいかなかったし、こいつの目的がやっぱりマオなのは間違いないみたいだ。
「俺たちに魔王の討伐なんて荷が重いですよー。」
〈……そうか、いや、いきなり無理を言った自覚はあるのだ。 許されよ。 所で…… 最後に質問をいいかね？〉
きた。
「なんでしょう？」
〈なに、大したことではない…… “一番大切な物はなんだ“〉
よし、みんな作戦通りに頼むぞ！
『大切なもの……のぅ、特に思い浮かばぬの……』
〈……そんな事はなかろう、ほら何かしらあるだろう？〉
『ふむ…… 確かにあるの。』
〈そうだろうとも！ して、それは？〉
『……秘密じゃ！』
うんうん、作戦通りだね！ 心を読まれて無理やり答えさせられないように……
【超念動力】！！
直接口が動かないようにしちゃえば解決！！
〈……そらはどうだ、“一番大切な物はなんだ“〉
まだ強硬手段には訴えてこないのか。
「俺の大切なもの…… 特には……。」
俺にも【超念動力】！！
「はーい！はいはいはーーい！！ ユメの番ユメの番♪」
〈ぬ！！ ユメの“一番大切な物はなんだ“〉
「えとねー！！ マスター♪ 後はねー！ ママとおねーちゃんとミュスカとルケも大好きなんだよっ♪ あっ！ あとねあとねみんなも大好きー！！」
…………………えっ？
