確率の確立
「……もうっ! いたいよ!」
「ユメっ!! 大丈夫っ!?」
マスターに心配かけちゃった、本気でやろっと!!
「うん! 大丈夫だよー! マスター見ててね♪」
「……わかった! 気をつけてね!!」
……よし、カマカマなんてすぐ倒しちゃうんだから!!
「……【流蒔剣】」
これはユメのとっておきのひとつだよー!
■
「……【流蒔剣】」
お、初めて聞くな……。
ユメの呟くような声と共にユメのデュアルブレードの剣身が舞い散る白い花びらのようにさらさらと小さく別れ風に乗り小さく渦巻きながら徐々にその姿を消していく。
ユメの手元に残るのはただの双銃であった。
ゼタマンティスはその光景を見て好機と捉えたのか再び超速で間合いを詰め攻撃体制に入る。
ユメはそれをしっかりと目で捉えているように見えるが、迎撃体制に入ることなくその場で素早く左に回転しながら右腕を振り上げる、そのままの勢いで横に飛ぼうとしているかのような動きを見せる。
その間に間近に迫ったゼタマンティスの左の鎌による切り上げがユメに迫る。
ギンッ!!
「へ?」
何がおきた!?
ゼタマンティスの斬撃は何も無い空中で何かに弾かれ、上がった左腕の下に無防備な空間を作り出した。
更にユメはその瞬間に既にがら空きになったゼタマンティスの右下に滑り込み、何も無いはずの剣身でゼタマンティスを撫でるように切り裂く動きを見せ、実際にはモーションだけに留め一度ゼタマンティスから距離を取った。
ユメは何をしてるんだ?
ゼタマンティスはどこか困惑したような雰囲気を醸し出しながらも距離を取ったユメ目掛けて再び地面を蹴る。
ザシュっ!!
「は?」
ゼタマンティスが移動を開始した瞬間に、その体に剣線が走った。
キシャーーーーーーーーーー!!
「なんだあれ? いきなり体に切り裂いたような傷ができたぞ!?」
突然の事で混乱し、のたうち回るゼタマンティスを尻目にユメはいきなり踊り始めた。
へ? ユメ……?
「へへへ♪ ランランラララーン ラララーラーララー♪」
そう、しかも可愛い歌を歌いながらである。
回転したり、バックステップにジャンプ、しゃがみ込み…… 様々な可愛らしいダンスと共に時より鋭くそこに無いはずのデュアルブレードで宙を切り裂くかのような動きが可愛らしさの中で見るものを惹き付けるアクセントとなる。
そして最後にダンスの見せ場が来た。
ユメは高く飛び上がり一つの魔法を発動する。
「【舞矢】♪」
空中で一拍置き、その後高速で落下を始めたユメの真下に光の輪が浮かび上がる。
恐らく【飛空】を使い加速し、さらに【舞矢】の輪を通り抜けた事で格段に速度が増す、そのまま地面付近で見えない剣線を二つ残し、以前付与しなおした【超念動力】で急制動をかけピタッと地面に降り立った、そう、可愛らしい決めポーズと共に。
「……ふぅ、マスター! どーだったー? ユメ上手ー?」
満面の笑みでゼタマンティスを忘れたかのようにこちらへトテトテと駆けて来る。
そしてようやく体を起こしたゼタマンティスがユメ目掛けて超速で突っ込んで来るのが見て取れた。
「ユメっ!! 後ろっ!!」
「ん? えへへー♪」
くっ! 完全に油断してる! 手を出すしかないっ!!
「飛竜帝のつ……」
ザシュっ!!
再びいきなりゼタマンティスの体に切り裂かれた跡が刻まれる。
「へ?」
「マスター! 大丈夫だよぉー! 見ててね♪」
いきなりの出来事に体勢を崩した直後、ゼタマンティスの右の鎌がいきなり切り裂かれたかのように地にポトリと落ちる。
ギシャーーーーーーっ!!
錯乱状態で暴れ回るゼタマンティスの体には動けば動くほど、逃げようとすればするほどに深く鋭く傷が刻まれていく。
『これまた珍妙な技じゃのぉ……』
「まさかさっきのダンスは……」
そして真下から顔を切り上げられたかのように血飛沫と共にゼタマンティスが天を仰ぐ。
「あの場所はユメがさっき最後に着地した場所だ…… なら……」
ザパーーーンっ!!
強烈な衝撃波を伴いゼタマンティスの首は胴から離れ、くるくると回転しながら俺とルケとユメの間にポトンと落ちた。
やっぱり……
「カマカマバイバーイ♪」
「すごい…… ゆ、ユメ…… 今のって……」
「んー? がんばった!! えへへ♪」
「凄いよっ! 凄くかっこよかったよ!! ユメ! 強くなったね!!」
『うむ! 流石じゃの!!』
その後先程の戦いの詳細を聞いたのだが、なかなかユメの独創的な説明では要領を得ず、最終的に使用した魔法の説明をウィンドウに表示してもらいようやく何が起きたのかが明らかになった。
まずは【流蒔剣】、これは剣身のみを時の流れから解き放ち斬撃をその空間に蒔く魔法だそうだ。
見えない地雷のイメージだろうか、事前に繰り出した斬撃が後々その座標で発動する事になる。
しかしながらこの魔法単体ではそこを通るかどうかも分からないある種の賭けのような攻撃でしかないだろう。
そこでもう一つの魔法がその弱点を補完する。
【確率の確立者】
使用者が定めた物事に置いて、その後どういった経過を辿るのか、その複数存在する未来の中で最も確率の高い幻影を垣間見る事が出来る魔法だそうだ。
つまりユメはこの二つを組み合わせ、事前にゼタマンティスの動きを予測しながらその動きに合わせ斬撃を蒔いて行ったのだろう。
「なるほど…… ユメ、良く頑張ったね! 俺の創った武器を使いこなしてくれて嬉しいよ! しかも予想を遥かに超えてね!」
「えっへん♪ おねーちゃんに負けないように頑張ったの! おねーちゃんも凄く強くなってるから!」
へー! それは楽しみだな! 俺ももっと頑張らないと皆に笑われちゃうな。
「そうなんだ! じゃあ悪魔の鏡池の周りには強い敵がまだいるだろうしガンガン倒してミュスカもユリも驚かしてやろう!」
「おー♪」
『うむ!』




