鎌とデュアルブレード
足元に魔方陣が浮かび上がり、一瞬視界がぐにゃりと形を変えたかと思えば次の瞬間には俺達は暗雲が立ち込め薄暗い荒野に立っていた。
「み、皆無事か!?」
「うん、大丈夫ー!」
『大丈夫じゃが、……ここはどこかの?』
〈来訪者よ、貴様達は招かれた。〉
突如頭の中に何者かの声が響く。
「わー! なんだこれー? んー、【念話】かなぁー?」
【念話】…… 声の主の姿が見えない以上一瞬の油断が命取りになりかねない、判断を誤らない為にも【女神の瞳】をアクティブにしておこう。
ルケも既に紫炎を纏って臨戦態勢を整えているようだ。
「……こちらの声も聞こえてるのかな?」
〈あぁ、久方ぶりの知性有る者の来訪だ、歓迎しよう…… とは言え招待はここまでだ、悪魔の鏡池で待つ事にしよう。 ささやかながら歓待の用意をしておいた、貴様達の糧とするがいい。〉
『……気配が消えたのじゃ。』
「ふぅ、一体何だったんだ…… ユメ、何か分かったことあるかな?」
一切姿を見ることは出来なかったが、ユメならば何かしら気付く事が有るかもしれない。
「えとね、今のは悪魔の鏡池の一番近くにいるやつだよ! ここに飛ばしたのもあいつの魔法なの!」
悪魔の鏡池の一番近くに陣取っているならここのボスと言っても過言では無いだろう。
「さっきの魔方陣はテレポートみたいなものかな?」
「んー、ちょっと違うけどそうだよ! もともとあそこに来たら発動するようになってたみたい!」
なるほど、つまり遠隔で発動したと言うよりは罠の要領で発動した魔法って事かな…… 招かれたって事は移動先は任意、もしくは何らかの条件で変わってくる可能性がある。
あの美しい景観が保たれていたのはあの場所で戦闘が行われないからだろう、さらに言えば歓待を用意したとも言っていた、糧としろとも…… ならすぐアクションがあるはずだ、備えておいた方がいいだろう。
「よし、二人とも臨戦態勢を崩さず行こう、現在地は分かるかな? あと近くに敵がいるかもわかれば教えて!」
「いまはねー、あったかいゾーンのはじっこと悪魔の鏡池のちょうど真ん中位のところだよー! 敵はねー、強いのがいるよー♪ 悪魔の鏡池はあっちー!」
「分かった、ありがとう! 取り敢えず中心を目指そう!」
……………
………
…
「マスター! 敵ー!」
ユメの視線を追うと遥か先に小さな緑色の何かが見て取れた。
『あれは…… カマキリかの? ギガマンティスごときがここにおるとは思えんがの…… む?』
そのカマキリがいた場所で激しく砂埃が舞い上がった。
っ!! 【絶壁】!!
地面が隆起し俺達の前に壁を形成するや否や【絶壁】が音もなく切り刻まれる。
ドーーーーンっ!!
「皆集まってっ!! ルケ借りるよっ!!」
【絶界】!!
ガキンっ!!
『何じゃ彼奴はっ? ユメよ!』
「んと、ゼタマンティスだって! マンティス系最強だって!」
ギガマンティスとさほど大きさは変わらないのにスピードと鎌の切れ味が段違いだ、それに体に赤いラインが入ってて気持ち悪いな。
「【絶界】が間に合って良かった、さっきの爆発音みたいのが聞こえたのが【絶壁】を切り刻んだ後ってことは少なくても音速の倍以上の速さってってことになる! これが全力か分からないし油断せず行こう!」
先程から【絶界】に斬撃を放ち俺達を攻撃しようとしているが、流石にこれをどうこう出来るような威力、能力は無いようだ。
「ユメ、ルケ、この中から攻撃していれば楽に倒せると思うけどそれでいいかな?」
「はいはーい!! ユメやりたーい!!」
『安全圏からの攻撃でも良かったんじゃがユメがやりたいなら妾は止めはせんよ?』
ならここはユメに任せるか、最悪手助けすれば良いだろうし、ユメも勝算が有るから立候補したんだろう。
「わかった、ならここはユメに任せるよ! 危なくなったら手を出すけどそれでいいかな?」
「うん! あのカマキリね、ユメと似た戦い方するから楽しみ♪」
似た戦い方? よくわかんないけどユメの好きにさせよう。
「じゃあいってきまーす♪」
ユメはそう言うと双銃のデュアルブレードをホルダーから取り出し【絶界】を出た。
ゼタマンティスの黒い点のような目がユメを捉えた。
「えへへー! おーいカマカマー! ユメと勝負しよー!!」
いつでも手助け出来るように【女神の瞳】と【碧雷渡】で体感速度の感度を上げておこう。
辺りがスローモーションのようにゆっくりと動く。
最初に動いたのはゼタマンティスだ、右の鎌をユメに向けて振り下ろす、スローモーションのはずなのにかなり速い。
その斬撃に対しユメは同じく右腕の双銃のブレードで切り上げるように迎え撃つ。
ギンッ!
鋭い音が空気を震わせる中ユメは足を地面にめり込ませながらもその一撃を相殺して見せた。
それで完全にユメを敵だと認識したのだろう、背中の羽を羽ばたかせユメから距離を取り対峙する。
ユメもめり込んだ足を引き抜き一歩左足を踏み出した形で構えを取る。
そして暫しのにらみ合いの中先に動いたのはまたしてもゼタマンティスだ。
踏み込みと羽による推進力で再び砂埃を巻き上げ一瞬にしてユメに肉薄し、すれ違い様に右の鎌を振り切る。
それにしっかり反応し両腕のデュアルブレードを揃え防御姿勢を取るが、先程と違い正面からの攻撃で有るため体重差で軽々とユメは弾き飛ばされ、そのままの勢いで【絶界】に直撃する。
ドーーーーンっ!!
「ユメっ!!」




