希望と冷たかった臀部
「紫羅にまた…あえる可能性があるのか?」
俺は死んだ。
にもかかわらず紫羅にまた会える? そんな都合の良い話があるわけがない、俺に異世界への興味を持たせる為のブラフだろう。
でも…。
「あるわ。 どう? 異世界転生、興味でてきた?」
もし女神の言葉に偽りがなく、本当に僅かにでもその可能性が残されているのであれば俺は……
「話しを聞かせてくれ。」
「いいわ。 少し長くなるから座りなさい。」
そういって女神は指を鳴らす。
するといつの間にか俺の後ろには純白のソファーがあった。
驚きつつも言われるがまま腰を下ろす…
臀部がつめたい…
まぁ、そのうち座面があたたまるだろう。
背もたれに立て掛けてあったクッションを拝借し膝、否、もう少し上にのせておく。
何故かって? それは聞かない約束だろう。
「さて、何処から話そうかしら。 そうね、ここからにしましょうか。」
そして女神は語り始める、紫羅との再会の礎を。
……………
………
…
少し長くなる? 少し? いやいや、十二時間って。
臀部がソファーにくっついちゃったよ。
変な跡もついちゃったよ。
余りに長いから全部は覚えられず重要な事だけを必死に頭に詰め込んでいく。
忘れない為にもう一度思い返しておこう。
まずは異世界についてだが、所謂ファンタジーな世界らしい。
そう、剣と魔法の世界だ。
曰く
地球と同じく惑星であり碧と蒼に彩られた美しい惑星である。
そして特筆すべきはその大きさであるが、地球の直径を比較対象とするならば、約4倍程にもなり、俺の知識に照らし合わせるならば海王星とほぼ同じ大きさであるようだ。
その世界も所謂太陽の恩恵を受けており、女神の管理により気温や重力、自転といった人の生存に大きな影響を及ぼす物に関してはコントロールされているようである。
地軸に関しても違う次元の話しにはなるが地球という成功例をもとに23.5度に設定され四季を織り成している。
現存する人型の種族は大別して人間族、亜人族、魔族の3種族であるが、イマジンを除く2種族はそこから更に分岐し、種族毎に姿形が違う事も珍しくない。
そして人型種の他にも龍、精霊、魔物、獣など多岐に渡る生物が存在している。
殊更に気を付けるべきは魔物である。獣に近いものから果ては龍をも脅かす程に強大な力を持つものもあり、それらが本能のままに力を振るう。
まったくもって厄介である。
剣と魔法の世界とはいったが、それはしっかりと的を射ており、火薬や機械仕掛けを駆使した武器の類いはほぼ無く、
剣や弓、斧等の金属や木製の武器での戦闘が主流である。
そして、日常生活すらも魔法に依存した社会体系といっても過言ではない。
電気、ガス、水道といったライフラインは形成されておらず、代わりに魔力、魔法によってそれらが賄われている。
そして魔法の他にもスキルというものがあるようだ。
魔法を使うには魔力を必要とするが、スキルにはそういった制約はない。
分かりやすく言うのであれば特技であるとか体質等がこれに当たる。
文化レベルは地球よりも大分見劣りするものの、魔法という独自の文化発展により生活をしていく上でそう不便が出てくる事もないそうだ。
そして更に重要な事がある。
『あなたは渦の頂点を目指すことになる』
渦とは各世界、全ての生き物を縛る鎖であり大空を翔る翼でもあり、果てのない旅路である。
全ての生命体には魂が宿り、その魂の在りようで姿が変わる。
では魂とは何か、その答えは、
"その存在を肯定する鍵"
何とも分かりにくい表現だった。
それが顔に出ていたのだろう。
簡単に言い直してくれた。
曰く
善行をつむと渦に置ける魂の階位が上がる。
逆に悪行や怠惰は階位、格といっても良いがそれを下げる事になるそうだ。
俺がやるべきは善行を積み魂の階位を上げる事。
魂の階位があがれば身体も魂にゆっくりとだけど引きずられる。
先ほど魂は鍵だと称した。
では身体はなにか。
勿論鍵穴である、ただこの二つの関係は圧倒的に鍵、すなわち魂に重きが置かれ、鍵穴、つまり身体は魂に合わせるという力関係となるため、その存在の姿は常時少しずつ変化していく。
人間で言うところの成長がこれにあたる。
ここで疑問が生まれる、いや、矛盾と言い換えても良いだろう。
善行を積むと魂の階位が上がり鍵の変化に合わせる様に鍵穴が変化する。
これが成長だと言った。
ならば何故犯罪者や殺人、窃盗、強姦を犯した者の姿はもっぱらが大人なのだろうか。
ここがこれまでの話のみそである。
善行とは、悪行とは。
そんなもの誰が決めたのか。
魂が育てば善行、逆なら悪行。
その基準はその世界が決める。
『世界にとって有益であれ』
この話はそう締め括られた。
そして一番俺が知りたかったもの。
可能性
十二時間の話の中で、もっともサラッと言い放たれたのがこの話題である。
『渦駆け登っててっぺんとりなさい。 そしたらなんでも願いが叶うから。 以上。』
である。
前置きが長すぎる。
他にもまだまだ話しが続いたのだが後は今の俺にはそこまで重要な内容ではなかったので既にうろ覚えとなっている。
「はい。なんか質問ある?」
「長すぎる…。」
「うるさい。 無いわね、じゃあ私から最後に質問よ」
物凄く真面目な顔で見つめてくる。
なんだろうか。
「一番の願いは聞くまでもないわ、 じゃあ二番目の願いは何?」
二番目の願い…か。
「俺は……」
……………
………
…
俺の答えを聞いて女神は満面の笑みでこちらを見つめる。
「そう、頑張りなさい。」
「で、 どう? 異世界、 行ってみる?」
ここまでの話を聞いて俺は迷いなく即答する。
「行く。 俺を連れてってくれ、頼む。」
「いいわ。 あなたのこれからに幸多からん事を願っているわね。 じゃあ……」
ここでなにやら女神が胸元をがさごそし始め、どこに入っていたのかくるくると巻かれ紐で括られ蝋のような物で留められた一枚の紙を取り出した。
そして深呼吸をしてこちらをじっと見つめる。
大きく息を吸い込み……
「けっかはっぴょーーーーうっ!!!」
めちゃくちゃ楽しそうにそう叫んだ。




