爆心地
さて、見えている敵は凡そ三十程度、我ら日ノ本だけでも十分に撃退できる数か。
「サトリ殿、ユズリ殿、ここは私達にお任せ頂けませんか?」
デリカート殿…… 後はインテンソ殿達……。
司祭の仕業だったとはいえ百鬼夜行に襲われていた我ら日ノ本に一切の見返りを求めず救援に来てくれた事も事実。
インテンソ殿も聞く限り我らに害意有っての事ではなかった様子、ならばここは汚名を漱ぐ好機…… 上手く使ってくれればよいが。
「いえ、我ら日ノ本とビディス、共に戦いましょう。 もう一度我らを助けて頂けますか?」
「っ!! ……もちろんです。 もちろんです!! 我らビディスは何度でも日ノ本を助けます!!」
真っ直ぐな綺麗な目だ。
インテンソ殿は…… 鼻水と涙でぐちゃぐちゃですね。
「感謝を。 では参りましょう!! 我らにはそら様達が付いていますっ!! 行くぞっ!!」
■
「ぐへへぇ、どーらどら、カワイコちゃんみーっけた!」
盗賊達が一つの家屋から獣人の女の子を引きずり出そうと片腕を掴む。
「きゃーー!!」
「や、やめて下さい!! うちの子に手を出さないで下さいっ!! やっと戻ってきたのっ!! もう止めてぇ!!」
「うるせぇっ!!」
目をぎゅっと瞑る母親、盗賊の殴ろうと振り上げられた右腕、しかしそれが振り下ろされる事は無かった。
「な、なんだこれっ!! 腕が動かねぇ!!」
「あっ!! 不思議な亀さんだぁ!!」
はいはい、お呼びでしょうか? そうです私が不思議な亀さんです。
「な、なんだぁ!? そら飛ぶ亀!? 魔物かっ!?」
いえいえ、今は神獣とか呼ばれてます。
「ちっ! よくわからねぇがお前ら見てねぇでとっとと助けろっ!!」
「へ、へいっ兄貴っ!!」
あらあら、俺ばかりに気を取られてると大変な事になりますよ?
「九頭尚常乃頃止方流ニノ型…… 」
「ぁ? くず? このガキ何言ってんだ?」
「金爆!!」
右腕を掴まれたままの不安定な体勢から体を捻り右足を大きく後ろに振り上げ、回転を加える事により威力を最大まで引き上げられたその蹴撃は、美しい曲線をなぞり吸い込まれるように盗賊の急所を打ち抜いた。
「あがっ…… あぁぁぁぉぉぉぉおおう……ぐぅ!!」
ほら見たことか、子供達を送り届けた時にスミレにくず何とかって言う流派の続きをおしえてって言っていた子だもんその子。
なんかやるとは思ってたけど俺を含めて男は全員内股になってるからね。
スミレ…… 金爆だっけ? それはあかん。
どんな男もそりゃ女々しくなるわ。
ま、まぁ今のうちに無力化しようかな……。
■
「【大爆地】ぃ!!」
っ!! さっきまでの爆発とは桁がちがうっ!?
【黒霧の舞】!!
うちの体は霧!! そんな攻撃効かんもんね!!
「ぁ!? 消えやがっただと!! どこだっ!!」
「ここやで。 【夜霧】!!」
「な、なんだこれぁ!! なにも見えねぇ!?」
それは【夜霧】の効果やで、殺傷力は無いけど視力を奪う魔法やで!! んじゃとどめさしちゃお!!
「くっ! まとめて吹っ飛ばす!! 【爆新地】!!」
「な、なんやっ!?」
次の瞬間ガヤを中心に目が眩むような閃光と爆音が衝撃と熱を伴い全てを吹き飛ばさんと一気に膨張する。
ま、町の人達にも被害が出てしまう!! 仕方ないっ!!
「っく!! 【黒霧の藁人形】!!」
大規模な爆発で巻き上げられた爆煙と砂埃が収まり、徐々にその惨状が露になる。
半径約二十五メートルに渡り全てが消失していた…… いや、全てという言葉には語弊が有るだろう。
正しくは、不自然な形で残る複数の真っ黒な焼死体を除いては…… である。
「……ははは、がははははっ!! ざまぁ見ろっ!! 皆丸焦げだぁ!!」
■
よし、この辺りの盗賊は無力化出来たな。
皆はどうかな? 見に行くか。
ドカーーーーーーンっ!!
「な、なんだありゃ!! スミレの戦ってた方だ!!」
スミレがあんな攻撃をするわけが無いし、まさかやられた!? とにかく行かなきゃ!! ユメとルケも多分向かってくるはずだ!!
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「な、なんだよこれ……」
駆け付けるとそこに有ったのは一点を中心に吹き飛ばされ、ぽっかりと空いた空間にポツポツと見える黒焦げの焼死体と宙で馬鹿笑いをする魔族の姿だった。
「がははははっ!! 俺に歯向かうからそうなんだよぉ!! …んぁ? なんだ亀か。 あ? 亀!? 魔物か?」
スミレはどこだ!? 爆発なんかでスミレがやられるわけが無いっ! どうなってるんだ!?
ん? あれは…… !!
焼死体の焦げが動いてる……? いや、あれは……。




