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大国の継承者①


 エルシ・リデルはその時、鉛のようにどんよりとした曇り空を眺めていてね。

 ぼんやりと、ただぼんやりと。

 何を考えるでもなく眺めていたの。周りには一族の者達が挙って集まり、ひそひそ声で話していたり、鼻をすする人もいたけれど、エルシはこれといって何もすることなどなくて、とても退屈していたのだ。


「エリーシャに、お別れを言いなさい」


 険しい表情をした父親に腕を引かれてエルシは我にかえった。

 手渡された白百合の花は、双子の姉であるエリーシャが好きだったものだ。けれどお別れを、と言われたところでエルシは何を告げればいいのか皆目検討もつかなくてね。

「優秀な子だったのに」とか「エリーシャは一族の誇りだった」だのと嘆いたり、ハンカチで涙を拭ったり、みんなのように悲しむことが出来なかった。


 だって、見下ろす棺の中身は空っぽなのだから。


 一族の歴代継承者(ライブラ)のなかでも最高傑作と謳われたエリーシャ・リデルが任務中に失踪して早1ヶ月。

 その時一緒に行動していた相棒の青年が遺体となって発見されたことから、エリーシャも死亡認定されたのだけれど、エルシは俄に信じられずにいた。それどころか、姉はまだ生きているとすら信じていた。


「エリーシャはもう死んだ。だからお前が新たな継承者ライブラとして、これからリデル家を、先祖オリジナルの意志を背負っていくんだ」


 何かを諦めたような顔をした父親に呼び出され、蛙の紋章で封蝋された手紙を渡された時も、エルシは姉が生きていることを疑わなかったの。


 だって、まだエリーシャを感じている。


 エルシの抱いたこの不確かな感覚は誰も理解しなくてね。けれど、生まれた時からずっとエリーシャと一緒にいたエルシにだけは分かったのだ。何処で何をしていようと、互いに互いの存在をいつも感じている、魂で繋がってるような感覚。


「私達は二人でひとつ。離れていても心はそばに在る、大好きだよエルシ」


 それはいつだったか、エリーシャが全寮制の学園に入学するせいで離れるのが寂しいと駄々を捏ねたエルシを抱き締めくれた時の、姉の言葉そのものだった。


 僕とエリーシャは二人でひとつ。


 離れていても心はそばに在る。


 エリーシャは必ずどこかで生きている。


 だから僕が必ず姉さんを見つけ出してみせるのだ。


 他言すれば否定されることを知っていたから、エルシは内に秘めた決意を言葉にしたことはなかったけれどね。目の前にある空っぽの棺にもう一度誓うことにしたの。


「待っててねエリーシャ。僕が、必ず」


 無意識に握り締めていたせいで茎がくたくたになってしまった白百合の花を、エルシは棺のなかにそっと置いたのさ。


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