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不完全な完全犯罪・goldscull  作者: 四色美美
3/23

みずほのために

デパートでの事件後、木暮の地元では別な事件が発生していた。

 俺は今。

自転車を必死に漕いで高校を目指している。



――岩城(いわき)みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――


さっき携帯に数字と記号の羅列だけのメールが届いた。

その岩城みずほは俺の恋人なんだ。



(嘘だーー!!!!!! そんな馬鹿な話しはない!)

頭がパニクって、大事な試合のあることも忘れて蜻蛉返りをしていた。





 『明日の試合の出来具合を見て、新入生からレギュラーを決める』

昨日監督がそう言っていた。



恋人か? 試合か? 選べない! 選べる訳がない!!

体が判断したのか、俺は高校へ向かっていた。





 このチャンスを逃したら、当分レギュラーにはなれないことは判っている。

でも今更遅い! 遅過ぎるんだ!



俺は中学時代はサッカー部のエースだったんだ。

背番号だって何時も《10》を付けていたんだ。

そう……

誰もが憧れるエースナンバーを。



でももう後戻りは出来ない距離だった。

グランドに居る仲間に詫びながら、俺はとにかく学校へ戻ることにしたのだ。



俺はそれでもまだ試合会場に未練があった。

小さい頃からFC選抜で互いにライバル視していた橋本翔太(はしもとしょうた)に先を越されるかも知れないと思ったからだ。





 俺は部活で、隣り街のサッカーグランドに移動中だった。


みずほが言うことを訊いてくれなくて……

みんなより出遅れた俺。

だから追い付こうと必死だったんだ。



――ガラーン。ガラーン。


そんな最中に着信音。



(お、みずほだ)

そう思った。

チャペルでの結婚式に憧れているみずほが入れた音色だった。

つまり俺と結婚したいってことらしい。



――バキューン!

とハートを撃ち抜かた。



てゆうか……最初に惚れたのは俺の方だったんだ

俺から好きだって告白したんだ。

幼なじみなのに、一目惚れしたあの時に……



恥ずかしいけど仕方なく頷いた。

ううん、本当は……

物凄く嬉しかった!



みずほの着信のみ……



『だってメールより嬉しいでしょ? 掛かってきたら、何をさて置き真っ先に出てね』

スマホか携帯かで迷った挙げ句、一番安いの選んだ俺。

そんなこと気にもせず悪戯っぽく笑うみずほ。


凄く凄くドキドキした。

だって……

世界で一番愛してる!

って言われてるようなものだから……





 何時もの着信? にしてはおかしい。

胸ポケットが物凄く……激しく波打つ。

俺の直感が、非常事態だと教えていた。



俺は慌てて自転車から飛び降りた。

手が震えている。



(ヤバい! みずほに何かがあった!)

昔から霊感があった。だから余計に焦りまくる。



やっとの思いで手にした携帯を落とし、慌てて反対側から開けようとしたりする。

それだけで事の重大性に気付いていたのかも知れない。





 (あーバカ何遣ってる! みずほに言われた通りスマホにしとけば良かった!!)



みずほとお揃いのを買いに行って、結局安い携帯電話を無理矢理押し付けた。



だってスマホ一個分で二個……いや、それ以上買えたからだ。



瑞穂(みずほ)のケチンボ)

そんな心の声が聞こえた。



(ごめんみずほ。あの時はこれで精一杯だったんだ。許してくれ!!)



そんな思いでやっと開けた携帯から飛び込んで来た『助けてー!!』。

それはみずほからのSOSだった。

携帯を持つ手がワナワナと震える。



『どうした!? 何があった!!』

でもみずほはそれ以上何も言わない。



『お願いだみずほ何とか言ってくれ!!』

でも返事はない。

俺は居たたまれなくなって、今来た道を蜻蛉返りしていた。

それが今、学校を目指している真相だった。





 俺はどうにかこうにか学校にたどり着いた。

自転車置き場に行くゆとりもなく、その場に乗り捨てた。



胸がバクバク膝はガタガタしてた。

何をどうやったら良いのかさえ解らない。

此処に辿り着くだけで精一杯だったのだ。



「みずほ何処だー!?」


何処で落ちたのか……何処から落ちたのかさえも解らない。



とりあえず歩き出そうとしたら、石に躓いて両手を着く。

何時もなら何でもない動作の一つ一つが狂ってる。

気が付くと這いつくばっていた。





 必死だった。みずほの死が信じられずに……がむしゃらに突っ走って来た。

心身共に疲れ果てて、それでも必死にみずほを求めていた。

他のことなど考える余裕もなかった。

頭の全てが……心の全てが……みずほで埋め尽くされていた。





 警察車両があった。

やはり、何かが事件が起きたことは確かのようだった。

状況を知りたくて、それに近付いた。



その車の窓ガラス写る俺の顔。

それを見てハッとした。

俺は今まで泣いていなかったのだ。

悲しいのに……

苦しいのに……





 その場所には立ち入り禁止の黄色のテープが張り巡らせてあり、周りには報道陣も居た。



(みずほは生きている。そう言ってくれー!!)

俺はそれだけを祈った。

そんな期待したのも束の間。

皆、口々に《自殺》と言い出した。

《岩城みずほさんが飛び降り自殺した》と――。





 (違う違う! そんなの有り得ない! みずほが何で死ななきゃならないんだ。この間のテストだって、クラスで一番だったのに……)


みずほの死が現実化する中で信じられずに俺は立ち尽くしていた。



信じられなかった!

俺を置いて……

みずほが逝く筈がない!!

そう思っていた。





 「瑞穂君……」


意気消沈している俺に声を掛けてきた人がいた。

みずほの母親だ。

学校からの呼び出しで駆け付けてきたらしいけど、此処では一番会いたくない人だった。

みずほの死を認めろと言われているようなものだったから。





 「みずほが……みずほが自殺だなんて……。衝動的だから、遺言もないそうなの。だから、何が何だか判らない……」


余りのショックで気が動転しているのか、為す術もなく呆然としていた。



それは俺も同じだった。

一体何が起きているのかさえ知らされないまま……

呆然と聞き流していたんだ、大切な言葉を。





 目の前で横たわるみずほは上履きだった。



(一体何があった!? 遺書も無いなんて……)

俺はやっとさっき聞いたみずほの母親の言葉を理解した。



(えっ上履き!! その上、遺書もない!?)


俺は静止を無視してみずほに取りすがった。



「違う! 自殺なんかじゃない!」

俺の言葉が虚しく響く。



「みんな良く見てくれよ! 上履きのままでの自殺なんか有り得ないだろう!?」


俺はみずほ傍に崩れ落ちた。





 その時。

体が反応した。

そっと後ろを見ると、ぼんやりとした白い影の女性が見える。

その人は草むらを指差していた。



俺は其処でみずほに贈ったコンパクトを見つけた。

カバーをそっと開けてみると真っ赤な文字で〟死ね〝とあった。



俺は何かの気配を感じて屋上を見上げた。

屋上の柵に手を掛けて、クラスメートがみずほを見ていた。



(彼処から墜ちたのか?)


そのとてつもない高さ……

俺はみずほのあじわった恐怖を肌で感じて、総毛立った。



でもその時俺は違和感をクラスメートに覚えた。

其処に居た数名の口角が上がっていたのだ。





 俺には昔から虫の知らせと言われる物と出くわしていた。

所謂。直感、やま感、第六感だった。

そう……それに霊感。

だから、このコンパクトだって見つけ出すことが出来たのだった。



俺はこっそり、コンパクトをポケットに隠した。



《死ね》それから感じるものは完全たる悪意だった。


俺はただみずほの名誉を守りたかったのだ。



俺がヤキモキを焼く位、誰にでも優しかったみずほ。


彼女に恨みを抱いている人が居る。

その事実を、知られなくなかった。



奇しくも叔父と同じ傷みを背負わされた俺。

実は叔父は新婚当時に奥さんを殺されているんだ。

だから警察官を辞めて、探偵になったのだ。



(叔父さんと同じように生きて行くのか? みずほー!! 教えてくれー!!)


叔父はあの頃暫くは脱け殻みたいだったのだ。

それでも何かの情報を得たくて探偵事務所を構えているのだ。

だからお袋は俺が叔父の所でアルバイトをしていることも承知しているのだ。





 俺は携帯のメールが気になった。

みずほからのSOSの直後に来た、自殺と断定していたメールが……



(何で解ったんだ? 飛び降りたからか? でも……それにしては早かった)



俺はそのメールとコンパクトに《死ね》と書いたのは同一人物ではないのかと思った。



確たる証拠がある訳ではないが、俺の直感がそう判断した。



叔父さんの探偵事務所のアルバイトの時だって、幾度もそれで難を逃れてきた。


だから、確かだと思った。



もう一度メールを確かめてみる。



――岩城みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――


その文面は、俺の記憶と変わらなかった。





 みずほの遺体が両親の手によって運ばれて行く。

遺体をこれ以上傷付けたくなくて、解剖を断ったのだ。



両親の気持ちは痛い程解る。

それでも俺は、乗り捨ててい自転車で必死に追いかけた。



みずほの体を切り刻むなんて俺だってイヤだよ。

でもこのままではいけないと思ったんだ。

みずほの死が自殺だと信じられずに……

そのまま葬り去ることなど出来るはずがなかったのだ。



(ごめんみずほ!! 俺は最低な奴だな)


ペダルを必死に踏みながら、みずほに謝っていた。





 「おじさん、おばさん……辛いけど……解剖……してもらおうよ」


俺の発言に、驚いたように振り向く二人。



「上履きのままでの自殺だなんて……俺……絶対に違うと思う!」


必死に走って来たお陰で息も絶え絶えになった俺を見て、やっと解剖をすることに同意をしてくれた。



でも、みずほの身体を切り刻まないことが条件だった。



(それが可能なら、どんなにか救われるだろう)


俺は両親の賢明な判断に頭が下がる思いだった。



(ありがとう……おじさん、おばさん。本当は……俺だって辛いよ!! 辛過ぎるよーー!!!!!!)





 俺の発した一言のために、みずほが病院へと運ばれて行く。

いくらみずほの恋人だと言っても、赤の他人の俺が口出し出来るはずもないのに。



でも両親は優しかった。



『助けてー!!』

の、最期の言葉を聞いた俺を慰めようとしてくれた。



そう……

そのことがあったから、両親はみずほを警察に任せることにしたのだった。





 告別式、通夜共に会場は市の斎場だった。

其処へ遺体は送り出した時と同じ状態のまま帰って来た。

最新機器を駆使してくれたからだった。



(良かった!)

思わずため息が漏れた。

遺体をこれ以上傷付けたくないと言う両親。

それを説得させてまで、解剖を勧めた俺。



幾ら納得いかなかったからと言っても、言って良いことと悪いことがある。

だから自分の行為を愚かだと思い続けていたのだ。



死因は全身打撲と脳挫傷。

飛び降りた事実に間違いなかったが一つだけ気になる箇所があったようだ。

それは、胸元に微かに付いた痣。

もし打ち付けたのだとしたら、もっと強く出るらしいのだ。





 気になった……

物凄く気になった。

どうしても見たくなった。

俺は悪いと思いながら、その部分を開けて見た。



「あっ!?」

俺は思わず叫んだ。



「あっーー!?」

俺は驚愕した。

みずほの胸元にあった痣が広がって、人の手のひらの痕になっていたのだ。



(みずほは誰かに突き落とされされたんだ)

俺の傷みがそう悟った。





 夜が白々と開けてくる。

朝が好きだった。

何も考えずに思いっきりサッカーに打ち込めるからだ。



でもそれはたてまえ。

本当はみずほに会えるからだ。

示し合わせて、愛の時間を堪能するのだ。

でも、今朝は辛い。

みずほとの別れがすぐ其処に迫っているからだ。





みずほのために何が出来るか?

瑞穂は遺体の解剖という手段を取ろうしていた。

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