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ふう①

お待たせいたしました。新章開始です!

 お山に春が訪れていた。

 まだところどころに雪が残ってはいるものの、木々は緑を取り戻し、生命の息吹がそこかしこに感じられるようになった。


「そろそろかねぇ」

「なにがだ?」

「ふうの尾割れ(おわれ)さ。あの子は妖狐だからね、大きくなるにつれてしっぽが増えていくんだよ」


 りんと黒曜は、目の前で蝶と戯れるふうを少し眩しそうに眺めながら湯を呑んでいる。


「そろそろっていやぁ」

「なんだい?」

「いや、庵をな。大きくしようって話、俺がお山を出る前にしてたろう」

「そうだね。それもそろそろやれそうかねぇ」

「まぁ、元の庵をそのまま大きくして、外側に部屋を一つ二つ作るくらいかとは思ってるけどな」

「部屋?」


 りんが少し不思議そうに尋ねる。


「おう。俺の寝床を兼ねた、荷置き場だ。無粋なものが多いからな、晒して置いておくもんでもねえからな」

「なるほどねぇ。とはいえ、ちょいと人手が足りないかねぇ」

「そうだな。力仕事はいいとして、大工がいなきゃ家は建たねえ。……そういやあ、この庵はどうやって建てたんだ?」

「元はヒトが建てたお社だったんだけどね。ボロボロだったから、あの子の母親が知り合いの大工を連れてきて……そうか、あの御仁」


 りんが、はたと気付いた様に手を打った。

 それを黒曜は不思議そうに眺めている。


「どうした」

「いや、随分前の話だし、その時にはもう、大分歳もいってたからね。今健在かはわからないけれど……」


 ふうは言いながら、庵に備え付けられた小さな棚を探った。


「入り用になったらまた呼べって、居場所を書いた走り書きを寄越したんだよ」

「ほう。ヒトか?」

「いや、天狗だよ」

「天狗……」


 黒曜の脳裏に、あの鼻を切り落とした天狗が浮かぶ。


「ぞっとしねえなぁ……」

「ん?」

「いや。で、その大工ってのは何処に居るんだ?」

「あぁ、それを今探してるんだけどねぇ……あ、あったあった」


 そう言いながらりんが黒曜に手渡したのは、一枚の紙に墨で記した地図らしきものである。


「私は読み書きはそれなりに出来るけれど、地図の読み方が分からなくてねぇ。ほら、ここに“お山”ってあるだろう。これは読めるんだよ」


 少し得意げなりんを見て、黒曜は思わず吹き出しそうになる。


「……なんだい」

「いや。お山のヌシ殿にも、随分と可愛いところがあるなと思っただけだ」

「なっ……」

「……にしてもよ」


 黒曜は、地図をじっと眺めた。


「何処だこりゃあ」

「なんだい、あんたも分からないんじゃないか」

「ヤトハレだからな、地図は読める。読めるんだが……」


 黒曜は地図の描かれた紙をひっくり返したり横にしたり、色々な角度からためつすがめつしていたが、やがて地図を放り出してしまった。


出鱈目(でたらめ)じゃねえか」

「え?」

「まぁ見てみろよ」


 そう言って黒曜はりんの肩を抱くように地図を見せる。りんはひゃ、と声を漏らして顔を赤くしたが、当の黒曜はそれには全く気付かない。


「ほら、ここがお山だろ。ここからこう、麓への山道が通る。で、山を出たところに例の村があって……その左手に、こんな沼はねえだろう」

「そ、そういえばそうだね……」

「なんだ、どうした急に」

「い、いや、なんでもないぞよ?」

「ぞよ?」

「い、いいからっ」


 りんは半ば強引に黒曜の手を肩から剥がす。黒曜はそこで、ようやく気付いた。


「あぁ、そういうことか。すまん」

「い、いやじゃない、んだけ、ど……。ま、まぁ、とにかくこの沼だよ」

「おう」

「……この沼、以前はあったんだよ。山道を降りた辺りから、左手に随分歩くんだけどね」

「あった?」


 そうさ、とりんは応え、話を続けた。


「この沼は、ふうが生まれる少し前になくなっちまったんだ。理由は知らないけど、一夜にしてね。跡形もなく、最初からなかったように消え去ったって話だよ。で、その沼にはほら、例の河童の一族、あれの分家が棲んでいたんだけど、そいつらも沼と一緒にいなくなったらしい」

「跡形もなく……」

「大方沼が干上がって、困った連中はお山の本家に逃げ込んだんじゃないかって話だったけどね。その本家からも、分家がいなくなったって相談が、前のヌシに来てたんだよ」

「ほーん……」


 黒曜は考え込んでいた。

 沼が一夜にして干上がるなどという話は聞いたことがない。仮に中の水が何かの拍子に流れ出たとしても、その回りの湿地帯や、沼底は隠しようもない。跡形もなく、などということは、普通に考えればあり得ない。

 またしても陰陽師の仕業か。

 黒曜がそう考えるのも自明であった。


「で、その沼があったとして、その先は?」

「あ、おう。まぁその先は難しいことはねえんだ。沼を抜けた先の街道を真っ直ぐ、半日も歩いた所で小さい山が二つあるらしい。その間、谷になっている辺りを棲み家にしているようだ」

「……てことは。あぁ、夫婦山かな」

「夫婦山?」

「正しい名前は知らないけどね。そう呼ばれている山があるのさ。あの辺なら行けなくはないね」

「じゃあ、頼みに行ってみるか」

「行ってみようかねぇ」


 そういうことになった。

ちょいと家庭の事情により、今後は少しペースが落ちるかと思います。

とはいえエタることはないので、これからも応援、よろしくお願いいたします°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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