りん④
遅くなりまして申し訳ありません。
副題は「りん④」ですが、今回りんは出ませんw
今章は少し長めになりそうです。お付き合いいただけると幸いです(*´-`)
直実と別れた黒曜は、お山への道を急いでいた。
黒曜が感じた異変。
それは、ふうが攫われ、りんが動いたことによる、お山の気の変化であった。
だが、この時点ではまだ、黒曜はその事実を知らない。
知らぬままに黒曜は、万が一何かが起きているのならと、りんとふうの身を案じ、お山への帰路を急いでいるのであった。
入山してすぐ、黒曜は何者かの視線を感じていた。
(一、二……。三匹以上はいるか。入れ替わり俺を監視してるな。早めに仕掛けてくるならここらへんだが、引き込んで囲む手もあるか。……引き込んでくれるとやりやすいんだがな)
自分を監視しているのが式神だということは、黒曜は把握していた。
陰陽師が一人で山に入る。
つまり、それを補佐する式神を多数用意している、ということになる。
式神は主である陰陽師の命令を忠実にこなそうとする。同時に使役する式神が多いほど、陰陽師としての能力は高いことになる。複数箇所を同時に操るとなれば尚更である。
黒曜は陰陽師、そして式神を識っていた。式を使う術者と立ち合った経験もある。
その黒曜をして、現状、賀茂周明の陰陽師としての力は、相当高いと言わざるを得なかった。
(はぐれとなりゃあ、それなりに修羅場もくぐってきてるはずだ。……厄介なことになりそうな気がするな)
見る目が最初より近くなっていることに、黒曜は気付いていた。式神たちは、早めの仕掛けを計画しているらしい。黒曜の足を小刻みに止めることで、時間を浪費させ、かつ疲弊させることが目的である。
相手の出方が分かれば、付き合うしかない。下手な所で仕掛けられ、余計な時間を使うつもりは、黒曜にはなかった。
「おう、ここらで出てこいよ」
少し開けた場所で黒曜は立ち止まり、どこへともなく声をかけた。
いきなり仕掛けられるよりはまし。
そういう判断である。
やがて、三体の式神が、黒曜の前に姿を現した。大きさは黒曜とそう変わらない。
全て鬼の姿で、それぞれが赤、青、黒の肌を持ち、金棒を手にしていた。
「三つか。とりあえずってところだな」
言いながら黒曜は荷物を降ろす。真・波切を左手に持ち、ぞろりと鞘から抜いた。
「どうせ話すことなんかないんだろ」
黒鋼張りの鞘を傍らの地面に突き立て、真・波切を右肩に担ぐ。
「来いよ紙切れ共。――斬り刻んでやる」
三匹が横に広がる。黒曜を含め、まだ誰も互いの間合いには入っていない。
だが、この時点で黒曜は、この式神を御する術者に感嘆していた。
(動きに無駄がない。同時に三匹……ことによったらそれ以上動かしてる癖に、この澱みのなさはなんだ)
これは簡単には済みそうにない。そう考えた黒曜は、一先ず仕掛けることにした。
「しっ!」
黒曜の右手にいる黒鬼に対し、真・波切を右肩に担いだまま、脚の捌きで間合いを詰める。黒鬼はその場に留まりながらも、常に黒曜に対し正面を向けている。
剣戟戦において相手に対し正面を向けるのは、防御としては得策ではない。狙われる面積が広くなるからだが、攻撃前提での立ち回りとしては、常に相手を正面に捉えることになるため、相手の動きに対処しやすい利点もある。
現在、仕掛けているのは黒曜である。一対一ならば防御をまず考えねばならないところだが。
(……三位一体かよ)
赤鬼、青鬼もまた、間合いを保ちながら、黒曜の動きに合わせてその位置を変えてきていた。
式神というのは、紙一枚に対し、命令一つというのが基本である。式神同士が命令を遂行するために連携を取る、ということはまずないと言っていい。
だが、この動き方は、完全に三匹が連携を取った行動である。
故に黒曜は、この三匹が一枚の紙で作られている、と考えた。
(てことは、一匹崩せばどうとでもなる)
三匹が連携を取る前提で動きを命じられているならば、二匹にしてしまえば穴が出来る。その綻び次第では、残り二匹を倒すことは容易い。
そこまでを考えた時点で、黒曜は思考することを止めた。
「……まずは黒」
黒曜は、赤と青のいずれかが黒の陰に隠れるように、回り込む速度を上げた。そして青が黒の真後ろになった瞬間、一気に間を詰めつつ、真・波切で黒を袈裟に斬り下ろした。
――――
三匹の式神との戦闘は、すでに数十合にも及んでいた。
「しつっけぇな……」
互いに、ほぼ無傷。互角とも言えるが、黒曜は生身である。流石に、やや息が荒くなり始めていた。
三匹の連携は、見事という他になかった。
黒曜の初撃を金棒で受け止めたのは、正面にいた黒だった。それを読んでいた黒曜は刀を返し二撃目をすくい上げようとするが、それを阻止したのは横から打ちかかってきた赤である。
それを躱した先には青が待ち構えており、更に体勢を立て直した黒、そして赤……と、連綿とやり取りが繰り返されていた。
(このままジリ貧なんざぁ洒落にならねえ)
多少強引にでも拍子を崩し、現状の打破を狙わねば勝ちはない。そう黒曜は考え、一度間合いを取り直そうと動く、その瞬間だった。
「! 向こうが離れた?」
赤の次に来るはずの黒の攻撃は来ず、代わりに大きく間合いを外してきた。
式神は今度は縦に並び、黒曜の視界には、赤しか見えなくなっている。
(何をする気だ?)
考えながらも黒曜は呼吸を整える。向こうの出方は気になるが、こちらとしても回復の機会ではある。
縦に並ぶ陣形。こちらは一人。
考えられることはある。が、それを式神が出来るものなのか。
(ま、見てみりゃわかるか)
黒曜は開き直り、今度は真・波切を正眼に構えた。
「……来やがれ」
その時である。
黒曜には、式神どもが一瞬ふわりと浮き上がったように見えた。そのまま黒曜に向かって走って間を詰めてくるが、そこに黒曜は大きな違和感を感じていた。
(速度と脚の運びが合ってない!?)
ふわり、ふわりと優雅に運ぶ脚に比べ、その詰めてくる速度が明らかに速い。脚捌き、足運びで相手の機動を読む達人であるほど、惑わされる動きであった。
「ちぃっ!」
思わぬ速度で迫りくる赤鬼に、黒曜は上段から刀を一閃させる。
だが次の瞬間、大地に転がったのは、黒曜の方であった。
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