クリスマスを一人で迎えた男に舞い降りた女神チャンス
「結局今年も一人だったか……」
時刻は〔12/25 0:01〕
つい先程、クリスマスイヴからクリスマス当日に切り替わったところだ。
ちなみに俺を退屈から救い出してくれる天使には今年も出会えませんでした。
「もぐもぐ……このケーキ美味いな」
帰り道に気まぐれで選んだコンビニケーキが割と当たりだった。
去年はサンタコスや店の装飾に本気を感じて初めての店で選んだが、結果イマイチなものを掴まされた。
それと比較すると去年よりは少しマシなクリスマスになった気がする。
「――ん?なんか音がしたか?」
ベランダから音がした。
もしや泥棒だろうか?
恐る恐る近づいて行き、そして窓を開ける。
『おめでとうございまーす!!』
その直後、女性らしき声が聞こえて来た。
そして視界が光に覆われた。
「眼がぁああああああああ眼がぁああああああああ」
『あ、ちょっと強すぎましたかね。光量を抑えてっと』
徐々に光が弱くなっていくのを感じるが、現状は眼が開けないので目の前に居るらしい、気配を感じる〔誰か〕を目視で確認する事が出来ない。
『あのー、こっち見て貰えませんか?』
「……もう少し待って。回復するまで待って」
――数分後――
『もう大丈夫ですか?』
「……はい。見えてます」
ようやく視界が回復すると、目の前にはサンタ姿の女性が一人立っていた。
そしてさらっと部屋に上がり込んでいる。
「……とりあえず警察だな」
『呼ばないでください!不審者ではありませんのでー!!』
スマホを手に取ろうとすると、いきなり飛びついてきたサンタ女性。
ぶつかりそうなのでサッと避ける俺。
『ぎゃふッ!?』
勢い余って壁にぶつかったようだ。
「壁を傷つけないでください」
『……こういう時って男女でぶつかって倒れて、そのままヒモやらが絡まって密着したまま身動きが取れなくなる嬉し恥ずかしハプニングのパターンなのでは!?』
「漫画の読み過ぎでは?」
何処のラブコメだろうか?
見た目は中の上くらいの相手なので悪くはないとも思うが、出会いが不審過ぎるのがとてもマイナス。
「――あ、もしもし警察ですか?うちにサンタ服の不審者が……」
『ギャー!やめてください―!!』
――トタバタする事、およそ十分後――
「はぁ……とりあえず話は聞いてあげますから簡潔にお願いします」
『最近の若者って少し冷静過ぎませんかね?』
「言うほど若者でもないので。それと長くなるなら追い出しますよ」
とっとと話を進めて欲しい。
『分かりました、では本題を……私は貴方を救いに来ました!』
「……退屈から?」
『それ込みですね』
「……サンタさん?」
『いいえ違います。私はこの世界の女神です!』
……ピッポッパッ
「すいません、救急車を」
『やめてくださーい!!』
――さらに数分後――
「……つまりあなたは、サンタのコスプレをした女神様なんですか?」
『その通りです!』
頭が痛くなりそうだ。
だが信じる他はない。
何故なら彼女は今現在、完全に空中に浮いているのだから。
『ふふーこれで信じてもらえますよねー?』
ドラえもんのような浮いてるかどうかも分からない極々僅かな浮き方ではなく、完全に浮いている。
この部屋がまるで無重力空間かのようにくるくる回っている。
ちなみに回るたびにスカートの中がチラチラと見えてるので、わざわざ止めるつもりはない。
『気付いてるなら教えてくださいよ!!』
気付いたらしく回転を止め、赤面しながらスカートを手で抑え、そのまま床に座り込んだ女神サンタ。
視線で気付かれたようだ。
「……それで、俺を救うと言うのはどういう事ですか?」
『何事も無かったかのように話を進めるのはやめてくれません?』
ようやく本題である。
『クリスマスイヴ、そしてクリスマスを一人で過ごすことが定番と化した寂しい方々の中から抽選で選ばれた貴方に、今宵は特別な奇跡をプレゼントしに参りました』
「よし、お前は俺の……というか俺たちの敵なんだな。もしもし警察ですか?ここに(ry」
――何分後か――
『貴方に特別なプレゼントを届けに参りました!!』
とうとうツッコミも反論も無くなったのでこの辺りが引き時だろうか。
「……で、何をくれるんですか?」
『プレゼント内容はこちらで決めて貰います!!』
出てきたのはテレビなどで見覚えのあるもの。
〔ルーレットダーツ〕だった。
『チャンスは一投、刺さった場所の景品がプレゼントされます!』
「女神様は東京フレ○ドパ○クが好きなんですか?」
ルーレットにはよく分からない項目と共に、パジェロやたわしと書かれた箇所もあった。
免許はあるが車が必要な生活ではないし、たわしは論外なので要らない。
「……救うのでしたらもっと俺よりも切羽詰まった方々の所に行ってはどうでしょうか?」
『そっち方面は別の神の担当ですので』
女神様は一人ではないようだ。
「ちなみに神様ってどのくらい居るんですか?」
『私のように人と接する事のある仕事を担当している、私の同僚は108人居ますね。全体の総数は知りません』
アイドルグループよりも多い。
確かに日本は八百万の神とか言うが、実際にそんなに居られると何か……。
というか煩悩なの?
「……はぁ。まぁその辺りは無理矢理納得する事にしますが、この景品として書かれているやつらは何なんですか?」
ルーレットの景品項目には先の二つ以外に、〔異世界転生または召喚:ランダム〕〔異能力獲得:ランダム〕〔恋人:ランダム〕〔好きなもの何でも一つ:物品に限る〕〔???〕と書かれていた。
『詳細は当たってからのお楽しみです!豪華でしょ?』
「ツッコミ所しか見当たりません」
ハッキリ言って挑戦したくない。
〔異世界なんちゃら〕
……興味はあるが、行き先不明・帰り道不明なのが恐怖しかない。
〔異能力獲得〕
……だから詳細教えてくれないと怖い!異能力=有益なものとは限らないんだが。
〔恋人〕
……欲しいけど、ホントにランダムって辞めてくれません?あと相手に失礼。
〔好きなもの何でも一つ〕
……ん、なんでも?というかそれパジェロよりも上じゃないですか?目玉景品のはずのパジェロが霞んでません?
〔???〕
……さらに未知のものをブッ込まないでマジで。
『さあどうぞ!』
「棄権します」
『却下です。さあどうぞ!』
ヤバイ……この女神、嫌でも無理矢理押し通すつもりだ。
これはやるまで帰らないパターンだ。
「……あ、もしもし警察で――あれ?」
『特殊な結界を張ったので、外部との連絡も脱出も出来ませんよ?』
知らぬ間に完全に監禁されていた。
何このヒト……もとい女神。
そんなとこに超常パワー使うんじゃねぇよ。
「ちなみに当たった物の受け取り拒否は」
『出来ません。ちなみにダーツを外した場合はやり直しになります』
笑顔で言うな笑顔で。
そしてさらっと逃げ道潰された。
これは最早デスゲームにも等しいようだ。
所詮神の前には人など矮小な存在に過ぎない。
覚悟を決めるしかないようだ。
「……分かった。やろうか」
『はいどうぞ!』
一本のダーツの矢を手渡される。
この一本に自分の運命が掛かっていると思うと、とてもとても重く感じる。
狙うは当然、〔パジェロ〕〔たわし〕〔好きなもの〕だ。
むしろ範囲の広い〔たわし〕を積極的に狙わねば!!
『それでは、クリスマス女神チャンス!スタートです!!』
「――行きます」
回転するルーレット目掛けてダーツの矢を放つ。
そして……刺さった。
『これは……〔恋人:ランダム〕です!おめでとうございます!!』
「くそッ……」
狙いが僅かに逸れ、たわしとの境界線の上を行ってしまった。
大学時代に仲間内で鍛え上げたダーツ力が実を結ぶことはなかった。
やはり投げ方のカッコよさ重視の練習ではダメだったのか?
「――まだだ!まだ終わらんよ!」
本番はここからだ。
得られる恋人はランダム。
つまりはここで大当たりを引き当てればいい。
『それでは恋人を召喚します。ランダム召喚の選定には、〔この世界の地上に存在する〕全ての人々の中から〔成人〕〔独り身〕〔恋人募集中〕の要素全てに当てはまる人たちの中から選ばれます。それでは――召喚!』
スリザリンは嫌だ!スリザリンは嫌だ!スリザリンは嫌だ!
せめて新○結衣みたいな人を――!
『では、ど――――』
唐突に女神の声が途切れ、部屋の中から姿も消えた。
『きゃあッ!』
かと思えば、何故か上から降ってきてコタツの尻を打っている。
再びスカートの中身が見えているが伝えない。
『いたた……これはまさか……』
ん?どういう事だろう?
『選ばれたのは……私でした?』
選定条件……〔この世界の地上に存在する〕〔成人〕〔独り身〕〔恋人募集中〕。
女神様は現時点で地上に存在している。
「――成人で独り身で恋人募集中なの?」
『……はい』
そこで頬を染めて余所を向く乙女の仕草?
どうやら俺はとんでもなく面倒なジョーカーを引き当てたようだ。
というより女神を候補者にブッ込むな。
『これは……むしろチャンスでは?生まれてからの彼氏いない歴をリセットするチャンス?』
何か不穏な言葉が聞こえた気がする。
ちなみに俺も年齢=いない歴の一人だ。
『あの……ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします』
コタツの上で正座をし、そのまま頭を垂れる女神。
昔の嫁入り描写で見たことがありそうな構図だ。
コタツの上でさえ無ければだが。
というよりも、〔女神チャンス〕って女神にとってのチャンスって意味だったのだろうか?
とにもかくにも、こうして強制的に女神と付き合う事になった。
「……実は俺、好きな人が居るんだ。だから別れよう」
そして速攻で別れた。
あくまでも恋人。
そのまま上手くいかずに別れる事だってある。
今回の景品はあくまでも恋人。
そういう選択肢だって許されるはずだ。
『……くりすますにふられた』
聖なる夜に恋人ができ、僅か数十秒で振られる。
かなりレアなケースだな。
『はじめて出来た恋人に……くりすますに……数十秒で……ふられた……』
そう聞くとかなり衝撃が大きそうだな。
だが強引に決まった相手なのだが、それでもショックなのだろうか?
一応いない歴のリセットは出来たはずだ。
そのまま段々と女神の表情が変化していく。
このパターンは――
『うわぁああああああああああああああんんんん』
コタツの上でうずくまって、そのまま大声で泣き出す女神。
ハッキリ言ってかなり気まずい。
「あーうん。まぁ……とりあえず食いかけだけどケーキでも食べ――」
『あむあむ』
差し出したケーキを速攻で奪われた。
女神は泣きながら食べている。
「えっと……安物ですがビールやワインなんかもありますけど――」
『ください!おつまみもください!』
俺はそそくさと冷蔵庫に向かう。
結局このまま一晩中女神のヤケ食いヤケ飲みに付きあう事になった。
――これがこの先、俺が寿命を終えるまでの長い付き合いとなる、女神との出会いの日の出来事であった。
お読みいただきありがとうございました。
本作は短編ですが、連載小説として「異世界で女神様の使い魔になりました。」を投稿中ですので、お時間がありましたら覗いて頂ければ嬉しいです。
ちなみに本短編とは一切繋がりはありません。
「異世界で女神様の使い魔になりました。」
https://ncode.syosetu.com/n4470fc/