第1話 前半:レイノスという少年
通貨の価値 (イメージ)
ミスリル硬貨・・・100万円
金貨・・・10万円
銀貨・・・1万円
白銅貨・・・1000円
大銅貨・・・100円
小銅貨・・・10円
昨年息子が王都に旅立った。暇だ暇だとぼやいていたら友人に自伝でも書いてみたらどうだと勧められた。それもいい、書いてみるかと思ってはみたが、久しく長文を書く機会にも恵まれておらず何をどう書いたらさっぱりである。しかし、ひとまずは、そう、私の生まれと彼らとの出会いから書こうと思う。
私、レイノス・ウェアラブル・スーサイドは今でこそ辺境の貴族として帝国に迎えられてはいるが、生まれは庶民であり家名もなかった。両親はともに元冒険者であり、私が生まれる際に元々活動の拠点としていた村に永住することを決めたらしい。その村は名をカント、属する街の名はイーストサイド、そして州の名がスーサイドである。
当時私の村は開拓されて日が浅く多種族や魔物など未知の危険とは隣り合わせであった。仮設されたギルドでは常にクエストが発注されている状態であり、クエストの適正ランクと実際の難易度がかけ離れてしまっていたり、補助が行き届いていなかったりしたため多くの冒険者が命を落としていった。しかし探索しているときに思わぬ掘り出し物を見つけるということも少なくなく、かなり稼ぎの良い場所であった。”そこ”が決めてだった、父上はそう言っていた。
私には兄がいる。兄は特別優秀であった。剣士や魔導士といった冒険者向けの才能ではなく、物事を観察し測定し記録し研究するといった才能を有していた。両親は幼いころから本を読み、字を書き、計算する兄をみて王都にある学校に通わせようと決心した。両親は必死にクエストをこなし貯金し王都までの伝手を作るために必死に人脈づくり励んだ。結果兄が生まれて8年たった時、村長の息子の従者として王都の学校に通うことが叶った。兄は両親と両親の多くの友人、村の関係者の期待を一身に背負って王都に旅立っていった。私が当時5歳の時であった。
兄が旅立ち3年たったころ王都から使者が届いた。兄を特待生として優遇したいという内容だった。兄は王都の教諭からいたく気に入られており是非ともということだったらしい。両親にとっては願ってもないことだったに違いない、年間金貨20枚という大金を払わなくともよくなるのだから。ただし条件があった。兄は学校を卒業と同時に教諭の養子に召し上げられるということだった。庶民が貴族になる夢のようなサクセスストーリーである。しかしそうなってしまうと庶民の両親と顔を合わせる機会はもうほとんどなくなってしまうだろう。両親はすでに村のリーダーのような存在になってしまい、村を離れることができなくなっていた。村のみんなや冒険者の命がかかっている。そのうえ幼い息子もいる。5歳の息子を連れて王都まで半年がかりの旅行をする決心はできなかった。大いに悩んだ末、息子の未来のためにと兄を養子に出すことに決めた。母が幼かった兄が壁に書いていた落書き、数式を見つめてただ静かに泣いていたのをわたしは覚えている。
兄が優等生として学校に通うことになったことで、我が家にはお金に大きな余裕が生まれた。両親は仕事は減らしたものの、責任のある立場になってしまったので仕事をせざるを得ず。結果としてお金を持て余す形となった。両親は冒険者である。その日の金はその日のうちに使ってしまうことが常識の生活をしていた両親は、その持て余したお金をただ一人となった息子、つまり私に惜しみなく使うようになった。欲しいと思ったら何でも手に入るという幼少期を過ごした。必然わがままになり、周囲を見下し、村の人間すべてが格下だと思っていた。恥ずかしくて思い出したくない記憶だが、私の人生を語るうえで最も大事な部分なのだから仕方がない。
ある冬の日当時7歳だった私は村の子供たちを引き連れて駆け出し冒険者用の狩場にこっそりと遊びに行った。勿論危険だということは知っていた。特に冬場は雪が降り積もり足場も悪く、音も吸われ、視界はさえぎられる。危険ではある、しかし得るものも大きい。狩場はアースウルフのなわばりのはずれに用意されており、はぐれたアースウルフ(通称:クマ犬)が迷い込むようになっている。これを討伐することで経験を積めるように工夫されているのである。さて、何故わざわざ冬にアースウルフを狩りに来ているのかというと、アースウルフの価値が冬場に限り跳ね上がる・・・可能性があるからだ。アースウルフは秋になると食料をため込む変わった習性がある。冬場のアースウルフは肉に脂がのっており非常に美味である。また栄養状態のよいアースウルフは白い冬毛に生え変わり、アイシクルウルフと呼ばれるようになる。アイシクルウルフはの毛皮は高級品であり、美しさ、耐久性、耐寒性、保温性が非常に高く貴族にも愛用されている1品である。この1枚で金貨3枚相当する毛皮を持って帰れば、兄のように天才と呼ばれるであろうと私は考えたのである。
私はまず罠を仕掛けた。まず、木と木の間に糸を引いて糸の先をボウガンに括り付ける。矢の先には体の自由を奪う毒を塗り付けておけば完成である。アースウルフは獰猛で直線的な性格であるので、獲物がいれば直線的に襲い掛かってくる。その習性を利用して罠の位置まで誘い込み一撃で仕留めてしまおうと考えていた。囮は私自身であり、子供一人ではにおいにウルフがつられないだろうと考えて村の子供たちを連れてきていた。また、子供たちの目の前でウルフを仕留めれば英雄になれ一石二鳥であり、我ながら完璧な作戦だと、そう思っていた。
私は子供たちが雪合戦している間に、大人たちが来ないように観察すると言って木に登り周囲を索敵していた。時がたち、子供たちが遊び疲れてきたころ双眼鏡の中になにか動くものを見た。私は動いた影を必死に探し、見つけ出した。茂みに隠れていたそれは、白く美しい毛をしたアイシクルウルフであった。私は興奮した。ついに来たと、私の作戦は完璧であったと。あいつは俺たちが疲れ切るのをずっと待っていたのだと。私は子供たちに声をかけた
「お前ら、落ち着いて聞け。あそこにアイシクルウルフがいる。黙ってこっちについてこい。」
私には数刻の後、村で称えられる自分の姿が見えていた。
この物語は
前後半で1話の構成であり
前半はスーサイド卿の回想
後半は当時のレイノス君からの視点になっております