谷あり
長くなってしまいました。ご容赦いただけると幸いです。
8時。家を出る。予定では9時に家を出れば間に合うのだが、前日からの不安感に耐え切れず、家を出ることにした。
大学では受けたい授業を自身で選択することができる。そしてありがたいことに、授業開始日と、何の講義を受けるかを申告する履修登録の受付に1週間の差がある。つまり、取りたいと思う講義を一回はお試しできるというわけだ。
しかし、何をするにも自由ということもなく、この他に大学側から絶対に受けることを命じられる必修科目というものがある。
今日は、自分で選べるものが2限に、必修科目が3限にあった。2限の開始時間は午前10時40分。大学最寄り駅に到着した現在、午前9時16分。遅刻ならぬ早刻。1時間の早刻であった。
そして、気付く。早く家を出たのは失敗だった。大学の構内は、仲間と騒ぐ同学部生ばかりだった。5人くらいが集まっているグループ、2人で話している集まり。こんな風に友達を作って話すのが大学生なのか?一般の学生とは異なる選択をしたこともあって、不安感は余計に高ぶった。
調子が悪いでもないのにトイレの個室に駆け込んで、1時間を潰した。2限目の講義もそんなこんなで動揺し、よく内容を覚えていなかった。
「はぁぁぁぁ。」深いため息が漏れる。昼休みを挟んでから、3限だ。だが、食欲が湧かなかった。また駆け込んだ個室で、亮の頭の中は思考がぐるぐると回っている。
「おれは、案外、あほなのか?」「もう少しシャキッとせな!」「講義は聞かなあかん。」頭の中の自分が一斉に話している。こんなことが朝から続いている。
こんなのが続くと身が持たない。そう思った彼はもう何も考えず、今日を過ごすことにした。さぁ、3限の講堂に行こう。もう何も考えるな。
12時32分、講義まであと28分。講義がある講堂のドアを開ける。そこには人がいた。教団には、背丈は150㎝と少しというところだろうか、ニットセーターの女がいる。女性の中でも背の低いグループに分類されるであろう。見る限りでは、亮と同じくらいか、少しばかり年下くらいの年齢に見えた。
彼女も講堂に入って来る亮に気づいた。
「あなた、大学基礎の講義を取る人ですか。」少し高い声が飛んでくる。
虚を突かれる。急に言われたものだから、心臓がドキッとする。「は、はい。そ、そうです。」なんとか応答した。
「そう、じゃあ、名前は?」ファイルを探りながら、もう一問。「い、乾、乾亮といいます。」
そうすると、ピタッと動きが止まる。ど、どうしたなにかあったか?
「乾、乾君。よかった。忘れる前に一つ聞きたいんだけど、いい?」
さんさんと日が差す講堂は春の匂いがする。草木のさわやかなにおい。質問の先に何があるのか分からない。
「はい、な、なんですか?」
心臓はよりはやく鼓動する。
いかてん。です。久しぶりの投稿です。
1か月失踪を許してください!
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