問題児、事件に遭遇する
ラクリア視点です
可愛い幼女、ターニャをゲットしたラクリアは彼女を連れて屋敷の中へ入る。
そのまま自分の部屋へターニャを連れて行こうとしたラクリアだったが、それは優秀なメイドによって阻止された。
ターニャの貞操は守られた。
「ううう…」
「ラクリアさま、なかないでください…」
床に突っ伏して悔しがるラクリアを、事情を知らないターニャはオロオロしながら慰める。
ターニャは心根の優しい良い子だった。
ラクリアは心根の腐った悪い子だった。
「そうだ!ターニャ、わたしのおきにいりのばしょにあんないしてあげる」
そう言うなり、ラクリアはターニャの手を引いて部屋を飛び出す。
ラクリア付きのメイドが慌てて追いかけるが、風を使ってズルをした全く魔法を隠さないラクリアに追いつくことはできなかった。
「ここだよ」
ラクリアが立ち止まったのは、お屋敷からかなり離れた林の中だった。
林といっても伯爵家の庭の一部なのだが。
「あわわ…」
ターニャはあまりの速さに目を回していた。
まあ500m弱の距離を10秒ほどで移動するという人間離れした速さを披露されたのだからそうなるのも仕方ない。
「ここにはね、かわいいどうぶつがいるんだよ」
ラクリアは目を凝らして林を見つめる。
そして“透視”の能力を使い、すぐにお目当てのものを発見した。
「うさぎちゃんみつけた」
「え!どこですか?」
キョロキョロと辺りを見渡しているターニャの手を掴み、ラクリアはなるべく音を立てないように歩き出す。
ちなみに先ほどラクリアが使った“透視”というのは、その名の通りあらゆる物を透かして視ることのできる能力のことである。そのあらゆる物というのは、浴場の壁であったり、マリアの部屋の壁であったり、服であったり色々だ。
「わぁかわいいっ」
ラクリアが透視で見たところまでターニャを連れていくと、2人の目の前にちょこんと手のひらサイズの子ウサギが座っていた。
自分の髪の色と似た毛色にターニャは嬉しくなる。
「さわってもいいですか?」
「うん、ひとなつっこいからにげないよ」
恐る恐る手を伸ばし、子ウサギの頭をそっと撫でるターニャ。
子ウサギも気持ちいいのか、目を細めてされるがままになっている。
幼女と小動物が戯れている、心が浄化されそうな清らかな光景を前にラクリアはそっと鼻を押さえた。
幸いなことに鼻血は出ていなかった。
子ウサギと別れ、ラクリアとターニャは林を突っ切って街に来ていた。
領主、しかも伯爵の娘が護衛も付けずに街へ出て来て良いのかという疑問は、ラクリアの馬鹿みたいな戦力とバレなきゃ大丈夫という無責任な考えによって黙認された。
一応目と髪の色を変え、亜空間に収納していた町娘用の服装に着替えてラクリアはターニャの手を握る。
ターニャは何もないところから服が出てきたことに驚いて口をあんぐり開けていた。
「よし、いこう!」
「は、はい」
何が何だか分からないまま、魔法ってすごいなーと感動しながらターニャはラクリアの手をぎゅっと握り返す。
その行動がラクリアを身悶えするほど興奮させているとは知らず。
「…ねえターニャ」
「はい…」
「……ここ、どこ?」
「わかりません…」
そして迷った。
そりゃそうだ。
片や領主の箱入り娘、片や領民とは言え大商会の一人娘。
街に疎いこの2人が、しかもラクリアの先導で迷子にならないはずがない。
2人は現在、大通りからかなり離れた入り組んだ裏路地にいた。
周りを高い建物だ囲まれ、光のほとんど入らないそこは明らかに普通じゃない場所だった。
そう、いかにも街のゴロツキの住処と言った場所だった。
透視を使って大通りの位置を確認しようとしたラクリアだったが、視界の端に映し出された異様な光景に目を細める。
それは、10人ほどの少女が一箇所に集められ
、監禁されている光景だった。
少女たちはラクリアと同い年ぐらいの子から、15歳ほど、マリアと同じぐらいの歳の子までと年齢層は幅広い。
しかし、少女たちは皆一様に怯え、震えていた。
人身売買の4文字がラクリアの脳裏に浮かんだ時、不意にラクリアの手を握るターニャの力が強くなった。
「ラクリアさま…」
怯えたような切迫したような声で名前を呼ばれ、ラクリアは意識を目の前に戻す。
すると、前方から2人の男が下品に笑いながら近寄ってきていた。
『へへ、鴨がねぎ背負って来るったぁこのことか』
『こりゃ別嬪な嬢ちゃんたちだ。良い値が付くな』
フードで顔の様子は分からないが、聞いたことのない言葉の言い回しからこの国の人間ではなさそうだと判断したラクリア。
そして男たちの言動からも分かる通り、悪事に手を染めている者であるのは間違いないだろう。
ラクリアはほぼ反射的に頭の中で攻撃魔法を唱えていた。
『ぐえっ』
ラクリアの身体から放たれた一筋の光が見事に腹部にクリーンヒットし、カエルが潰れたような声を上げてながら吹き飛ばされる男2人。
そのまま地面に転がってビクともしない男たちの様子に、ちょっとやり過ぎたかなと冷や汗をかくラクリア。
「…す、すごいです…ラクリアさま」
ラクリアの攻撃を隣で見ていたターニャは、その圧倒的な力にただただ圧倒されていた。
それでもすぐにキラキラした瞳でラクリアを見つめる。
「えへへへ」
褒められて良い気になったラクリアはだらしない笑みを浮かべてデレデレしている。
「あ、そうだ。あのおんなのこたちたすけなきゃ!」
それでも何とか我に返り、ラクリアはターニャの手をしっかりと握って走り出す。
場所は“透視”で確認してあるからその足に迷いはない。
『なんなんだあの子どもは…』
2人が去った後、どこから湧いて出たのか地面に転がる男たちを見下ろすように1人の男が現れた。
一枚の白布を体に巻きつけたような不思議な装いに、目元以外を覆い隠す黒い布。
そして、きわめつけは額から突き出た鋭い2本の角。
明らかに異質な出で立ちの男はラクリアとターニャの走り去った方向を鋭く見つめていた。
ジワジワと話が展開されてきました( ˘ω˘ )