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16.問題児、空を飛ぶ

新たな恋が始まります

「じゃあ、行こっか」


ラル達3人が落ちついたころ、ラクリアはみんなに声を掛けてさっさか歩き出す。


「ちょ、ちょっとどこに行くのよ?」


リンディが慌てて小さくなっていく後ろ姿に問いかけると、ラクリアはなに言ってるの?という表情でリンディを見返した。


「え、私のお家だよ」

「え、じゃないわよ最初にそう言いなさいよ」


全く、と膨れるリンディ。


「ああ、そうだ。ここから私のお家まで遠いからちょっと楽しよう」


リンディの怒りなど軽く無視し、ラクリアは右手を空中に泳がせ何かを引っ張るような仕草をした。

すると、その手の中から大の大人が5人ほど余裕で寝そべられる精巧な装飾が施された絨毯が出現する。


「へへ、私は風の魔法も得意だから空を飛ぶのもちょちょいのちょいだよ」

「…何も見聞きしなかったことにしたい風魔法を使える魔法士でも空を飛ぶなんて不可能だしまずその空間魔法もよく考えればものすごい魔力消費するし普通それだけの魔力が消費したら死ぬしどんだけ魔力あるのよもうワタシハナニモシラナイ…」


なにやらぶつぶつ言っているリンディをターニャが脅えた顔で見やる。


「さ、さあみんな乗ってー」


壊れてしまったリンディに冷や汗をかきつつ、ラクリアはみんなに手招きをした。

素直に応じた赤白姉妹は当然のようにラルの手を引いてやってきた。


「えっと…私も良いんですか?」


今から何が始まるのか分からず目を白黒させるラルはラクリアを見上げて尋ねる。


「うん、最初からラルにも一緒に来てもらうつもりだったから。はい、じゃあこの上に乗って」



ラルとチナ、ラナは言われたとおり絨毯の上に乗った。ターニャを抱えたリンディもそれに続く。

最後にラクリアが絨毯に飛び乗ると、6人を乗せた絨毯はふわりと地面から浮き上がった。


「わあ!ういてます!」


目をきらきらさせて叫ぶターニャ。

チナとラナは何も言わないがどこかその表情は楽しげだ。


対して少女組は、


「え、ええ!?浮いてる!?ラクリア…さまは魔法士だったのですね…」

「魔法士でも普通こんなことできないわよ」


ラルは驚嘆の表情で、リンディは現実逃避気味な表情で呟いていた。


「じゃあしゅっぱーつ!」


ラクリアが元気よくかけ声を上げると、絨毯は緩やかな動きで上昇を始めた。

そして民家の屋根が下にきたころ、ラクリアの家の方面へ動き出す。


「…」

「あ、チナ、あまり端っこに行くと落ちるよ」

「っ!?」


そろりそろりと絨毯の端っこに行って下をのぞき込もうとしたチナはラクリアの脅しに慌てて後ずさる。

落ちないように結界は張っているが、万が一と言うこともあるから忠告は怠らない。


「そういえばこの絨毯って下にいる人に見られちゃうんじゃない?見られても大丈夫なの?」


空を飛ぶというあり得ない状況に慣れてきた5人が思い思いにくつろいでいると、リンディが思いついたようにラクリアに尋ねた。


「大丈夫だよ。下から見えないように目くらまししてあるから」


ラクリアの張った結界は落下防止だけではなく、外から見えないようにする役割も果たしている。そうでなければ空飛ぶ絨毯なんて信じられない光景が不特定多数の人に見られて騒ぎになってしまうからだ。



「そろそろ着くよ」


ラクリアが地上を見下ろして皆に知らせる。

地上には、上空から見ても一際大きな建物がぽつんと建っていた。ファンダーソン邸は庭が規格外の広さのため、また少し小高い丘の上に建っているため、ご近所さんがいないのだ。

まあ領主の家なのだから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。


ラクリアは邸宅から少し離れた林の中に絨毯を下ろした。

あまり家の近くに降りると母達に見つかった時に面倒くさいことになると思ったからだ。

その場で本来のサイズに身体を戻すと、ラルは目を剥いて小さくなったラクリアを見つめる。


「これがほんとうのすがただよ」


ラクリアのその言葉にラルはさらに目を見開いてふらついていた。




「はい、ここがわがやだよ」


ファンダーソン家の門前まで来ると、ラクリアはラルに邸宅を指さして説明する。


「…でかい」


ラルは呆けてその規格外の大きさの邸宅を見上げていた。

今まで拠点としていた場所は子ども5人でぎゅうぎゅうになるような場所だった。だが今目の前にそびえ立つ豪華な建物はその何千倍もあるだろうという、ラルの常識では考えられないほどの大きさの建物だった。


ちなみにこれでも伯爵の邸宅としては小さい方である。この建物を建てた当時のファンダーソン伯爵当主が派手なものが嫌いだったと言うこともあり、比較的質素な造りになっているようだった。




門の両脇に立っていた門番2人がラクリアの姿に気づいて恭しく頭を下げる。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいまー」


門番にひらひらと手を振り、門を通過するラクリア。

その後にターニャ、リンディ、チナ、ラナ、ラルが続く。


「…引き留められないんだ」


ラルは自分の着ている所々穴の空いた粗末なワンピ-スを見下ろして意外そうな顔で呟く。


「あのおじちゃんたちはもともとぼうけんしゃなの。だからきにしないんだよ」


なるほど、とラルは納得する。

冒険者といえば少なくともこの国では野蛮で低俗なものがなるというイメージが強い。結果的に貧しい生活をしてきた人が多いのだ。

だからといって何故元冒険者が伯爵家の門番をしているのかは理解できないが。


実はこの冒険者達、ラクリアの母、ケイリーがヤンチャしていたころにパーティを組んでい

た人たちで、ケイリ-の結婚と同時に冒険者を辞して門番になったのだ。


「でもそのふくじゃさむいよね」


ラクリアはラルの格好を見てうーんと唸ると、良いことを思いついたというような表情でおもむろにその小さな手を振りかざす。

刹那、ラルの体の周りに風が発生し、収ったと思ったら…


「…え?」


ラルの服のほつれが消え、まるで新品同様の小綺麗なワンピースに生まれ変わった。


「え、え、どうやって…!?」

「へへーひみつー」


驚きの表情を浮かべるラルにラクリアは無邪気な笑みを浮かべた。



「ラクリア、貴女そろそろ自重という言葉を覚えた方が良いわよ…」


そんな彼女にリンディは小さく呟いたが、案の定ラクリアにその声が届くことはなかった。

いや、届いていたとしても可愛い女の子に目がないラクリアが可愛い女の子の絡んだ件に対して自重できるはずがないのだが。







ラクリア達がお屋敷の中に入ると、二番目の姉のノーリアがちょうど自室から出てきたところだった。


「…なんだこの大所帯は」


ノーリアはラクリアの背後に連なる少女達を見、またこの問題児が何か面倒事を引き連れてやってきたのではないかと警戒する。


「あ、あはははは…」


そんな姉に対し、ラクリアはおよそ5歳児らしからぬ愛想笑いをしながらノーリアの脇を通り抜けようとする。

しかしノーリアはそれを黙認するほど甘くはなく、ラクリアはガシッと小脇に抱えられて情けない声を上げた。


「また屋敷を抜け出して…。ここ最近領内に不審なものがうろついているから無用な外出は控えるように言っただろうが」


キツい口調とは裏腹に、ノーリアの表情は妹を心配する1人の姉の顔だった。

それが分かっていたからこそ、ラクリアは素直に謝る。


「ごめんなさい、ノーリアねえさま」

「今度無断外出したらおしり100000回ペンペンの刑だからな」

「なんかすうじがおかしいよ!?!?」


ラクリアの渾身の突っ込みを無視し、ノーリアはラクリアの後ろに立っていた少女達に視線をやった。


「見苦しいところを見せてすまない。この愚妹から何か変態的な行為をされたときには私に言ってくれ。おしり1000000回ペンペンの刑に処すから」

「ふえてる!!??」


ノーリアの言葉に突っ込むラクリアと、引き気味に頷くリンディ達。


「そういえば君、見ない顔だけどどちらさま?」

「え、あ、私は…」


ラクリアをやや乱暴に床に下ろしたノーリアはチナとラナに挟まれるようにして立っていたラルに気づいて問いかける。

ちなみにチナとラナ、リンディはすでに昨日の時点でノーリアと顔合わせをしている。


ノーリアの質問に狼狽えて身体を震わせるラル。

まさか自分がノーリアに話しかけられるとは思わなかったというのもあるが、貧民のくせに貴族の屋敷に上がり込んでと非難されるのではないかと思ったからだ。


「ラルはわたしたちといっしょ」

「ガルラのまちのしゅっしん」


答えられないで下を向いてしまったラルの代わりにチナとラナが答えた。

昨日自己紹介を済ませたチナとラナは平民かつ子どもである自分達にも優しく接するファンダーソン伯爵の人たちに好感情を抱いていた。


「そうか…ガルラの街の…」



チナとラナの言葉にノーリアは複雑な顔をした。

その要因はガルラという街にある。


ガルラはファンダーソン伯爵領の中で最も貧富の差が激しい、というより貧民が多い場所だ。その原因としては、昔大きなダンジョンがあったことで冒険者が多く暮らしていたこと、現在はそのダンジョンが閉鎖され廃れてしまったことが挙げられる。

その日暮らしの冒険者が多いことが治安の悪化につながり、結果的に領内でも有数のスラム街になってしまったのだ。


ノーリアはしばらく挙動不審げに口をぱくぱくしていたかと思うと、ゆっくりと顔を上げてラル達の顔を見つめ…


「酷な生活を強いてきてすまない」


と、一言謝って頭を下げた。


「…え?」


突然のノーリアの行動にラルは呆けた顔をする。

何故自分たちが謝られたのか分からないのと、噂に聞く横暴で権力を振りかざし平民を見下す“貴族”という者が頭を下げるということへの驚きもあった。

そんな彼女に頭を上げたノーリアは恥じるような顔で言った。


「私はこの地を治めるファンダーソンの人間だし、こう見えても次期領主なんだ。だから領民が苦しい生活をしているのに何も出来ないなんて情けなくて…」


広い土地ほど統治は難しい。まして階級制があり、ただでさえ貧富の差が激しい世の中ではなおさらである。

それでも責任感の強く、差別というものが嫌いなノーリアは自分の不甲斐なさを恥じ、謝罪をしたのだ。そして彼女は更に勉学に励み、領民がより良い暮らしができるよう頑張ろうと決意する。

ノーリアはラクリアに爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほど良い子だった。



そんな彼女をラルは眩しそうに見つめる。

貴族に、お金持ちに碌な人間がいるなんて思ってもいなかった。

明日暮らしていけるかという程度のお金で身体を弄られ、穢されてきた。まるで意思のない人形のように扱われ、惨めな思いをしたことも少なくない。


そんな悲惨な経験をしたラルだからこそ、ノーリアの真っ直ぐで真面目な人柄に人一倍引き込まれる。

ドクンと、胸が高鳴った。顔に熱が集まり、何故か目尻が熱くなる。


(なにこれ…)


初めてのことにラルは焦る。

ノーリアを意識するだけで動悸が激しくなるのだ。


「大丈夫?」


ラルのおかしな様子に気づいたノーリアが追い打ちを掛けるように顔をのぞき込んだ。

視界一杯にノーリアの整った顔が広がり、ラルは余計にパニックになる。


(ノーリア姉様って自分のことになると疎いんだなあ)


ラクリアはそんなことを思いながらその光景を見ていた。

リンディはノーリアを見、次にラクリアを見、ため息をついた。

そして思う。


血は争えない、と。






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[一言] あっ…(語彙力喪失) 続きを楽しみに待っています。
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