15.問題児、気づかないふりをする
「ええと、助けてくれてありがとうございました」
チナとラナが落ち着いた頃、ラルは慌てて自分を助けてくれた美女の方を向いてお礼を言う。
いつの間にかラルを口説いていた男はいなくなっていた。
「ううん、当たり前のことをしただけだから。あ、さっきのおじさんはどっかに飛ばしておいたから心配しないでね」
ラルは美女の飛ばしたという発言に軽く首を傾げたが、追求するのも怖かったので聞かなかったことにする。
「ええと、チナとラナも貴女方が助けてくださったんですか?」
未だ強固に自分に張り付いているチナとラナを一瞥し、ラルは謎の美女に尋ねる。
チナとラナは自分たちが住処とする場所からほとんど動こうとしなかったから、いなくなったときは多分攫われたんだろうなと思っていた。
実際に子どもの歩いて行ける範囲を探し回ったが見つからず、馬車に引きずり込まれて遠くへ連れて行かれてしまったと思って泣く泣く捜索を諦めたのだ。
ラルたちスラム街の子どもたちはその日暮らしの生活をしている子が多い。明日生きていられるかも分からない中で、いなくなった子どもの捜索ができるほどの余裕はなかった。
「うん、そうだよ」
ラルの問いかけに謎の美女ことラクリアはあっけらかんと答える。
そう、実はこの美女、なんでもあり魔法で身体を成長させた変態伯爵令嬢、ラクリアだった。
何故こんなことをしたかというと、これはスラム街へ出発する直前のターニャの提案にある。
ちなみにターニャは現在大人バージョンのラクリアに捕まってワシャワシャされている。
『あの…スラムはとてもきけんだから、こどもだけでいくとさらわれてへんたいのきぞくにうられちゃうってききました』
変態の貴族という台詞にリンディがちらっとラクリアを見たが、ラクリアは気づかないふりをした。
『ラクリアと私がいればそんなことないと思うけど…確かにそうね。無駄に身なりの良い子どもがズラズラ歩いていたら誘拐してくださいって言ってるようなもんだわ。ラクリア、貴女護衛の人とか連れてくること出来る?』
ターニャの言葉にリンディが同意を示す。確かにラクリアと自分がいれば誘拐しようとしてきた不埒者を灰にすることも出来るだろうけれど、変に目立つのは避けたい。リンディはそう考えてラクリアに尋ねる。
『うーん、ごえいをつれてくことはできるけど…もっといいほうほうがあるよ!』
ラクリアが満面の笑みと共にそう答えたとき、リンディは嫌な予感がした。
そしてその予感は見事的中して…。
「みててね!へんしん!」
ラクリアは元気いっぱいのかけ声を上げると、どや顔で親指を鳴らした。
カスッという効果音が付きそうなほど見事に鳴らなかったが、ラクリアは鳴った気でいるのでどや顔はそのままだ。
リンディたちが見守る中、ラクリアの身体に変化が現れる。
「わあ…ラクリアさまのからだがひかってる…」
ターニャが口をぽかんと開けて目の前のあり得ない光景を凝視している。それはリンディたち3人も同じだった。
「貴女本当に何でもありね…」
光が収まり、その中心に立っていたミラクルスーパー美女を前に、リンディは呻くように言った。
チナとラナはいつもの無表情で固まっていた。
「よし、これでオッケー」
「もう突っ込まないわよ」
以上がラクリア美女化の流れである。
「で、2人はこれからどうするの?」
ラクリアはターニャをリンディに奪われてショックを受けながら、未だラルにくっついているチナとラナに問いかけた。
2人は顔を見合わせて小さくうなずき合うと、ターニャを見上げる。
「わたしたち、ターニャ…さまのいえではたらく」
「ターニャさま、はたらけばおきゅうりょうをくれるっていった。だから…」
ラナは言葉を句切り、ラルを見上げた。
「ラル、もういやなことはしなくていい」
「ラルがつらいの、やだから」
2人の言葉にラルは目を見開き、そして嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう」
ラルの目元が少し濡れているような気がしたけれど、ラクリアは気づかないふりをした。




