プロローグ
その日、女神は何かに呼ばれているような気がして地上へと降り立った。
数百年と見ないうちに大きな発展を遂げた国に感嘆していると、女神は早速その“何か”を見つけた。
それは衰弱しきった女の赤子だった。
小さなベッドにぐったりと横になり、その周りを心配そうな顔をした大人達が囲んでいる。
赤子がいる屋敷や人間の着ている物を見るに、それなりに位の高い人間のようだ。
(ふむ、共鳴者か)
女神は赤子を見下ろし、その正体に目を見張る。
共鳴者。
それは限りなく神に近い人間のことを指す。
共鳴者は神の恩恵、思考、異能など、神の持っている全てのものと共鳴することができる。
ここ数百年、女神が天上に戻ってからは現れることがなかったが、その存在は間違いなく人類で最も高位なものである。
だけどこの赤子はまだ共鳴者に成り切っていなかった。だからこそ現に病に苦しんでいるのであって、本来ならば共鳴者とは病気も怪我もするはずのない存在である。
(だから我が呼ばれたのだな)
触れれば壊れてしまいそうなか弱い共鳴者に女神は優しく微笑む。
成り切っていないのであれば、神自らが力を貸せばいいだけの話。
女神は赤子に手を翳した。
それだけ、たったそれだけで赤子の病は吹き飛んだ。
眠りから覚めるように目を開けた赤子に周囲の大人達は戸惑いながらも歓喜の声を上げる。
(さて帰ろうかの)
役目を終えた女神は満足げに鼻を鳴らし、天上へと戻る。
その後ろ姿を、女神に命を救われた1人の赤子がじっと見つめていた。
**
時は流れ、かつての赤子は5歳になっていた。
死の淵から復活した赤子はその後も健やかに育ち、美しい幼子になった。それとともに共鳴者としての能力も順調に目覚めていった。
少女の名は、ラクリア。
黄金の金髪に黄金の瞳、そして陶器のように滑らかな白い肌と愛らしい整った顔立ちを持つ、天使のように美しい幼子だった。
ラクリアは共鳴者の名の通り、不思議な力を持っていた。
それは病や怪我の治癒から始まり、木・火・土・金・水という5つの元素を自由自在に操るという異能もあった。
幼いながらも完全無欠のように見えるラクリアだったが、しかし彼女には、1つ大きな欠点があった。
それこそ彼女の共鳴者としての価値を霞めるほどの。
これは神に愛された少女の、たった1つの欠点に基づいた物語である。