第32話 神様の長い話
勇者が死んで魔王に転生するタイミングでホールが発生するという事が分かったが、神様の話は長かった。
神の話は続く。
「逆に魔王が勇者を倒した場合だが、この場合敗れた勇者の魂は一定確率でロストする。ロストした場合はすこし反応が複雑で、迷い人が二人呼ばれ、片方は直接魔族となる。そして対の勇者は通常より強力な力を持つ。」
「引き分けた場合はどうなるのでしょうか?」とタイチが問う。
「倒れた時のエネルギー残量によるな。もし勇者が全ての力を放出し尽くした後魔王を倒せば、理論的に勇者転生体は殆ど力を持たないし、ホールも人が通れない程極小さな物になる物はずだ。しかし元勇者の魔王達は勇者補正であるブレイブシリーズの力だけでは倒せないのだ。往々にしてエネルギーを与えるだけ与えて倒れる結果になる。」
「今までの勇者は引分けが多いと聞いて居ましたが、実は負けたと?これまで勇者と共に魔王は居なくなったのでは?」
「いや、引分けと言えばその通りであろう。
勇者からブレイブエネルギーを与えられた歴代の魔王達は高エネルギー体となり、それを利用して次元の壁を通り抜けられるようになる。そして自らの意思で転移して行ったのだ。本当に死んだのではこの世界に取り込まれるだけだからな。」
タイチは尚をも質問する。
「勇者が魔王に勇者の力全てを与えればホールは発生しないのですね?」
すると、神はゆっくりと噛んで含める様に説明する。
「まあ聞け。確かに理論上は勇者が魔王に全エネルギーを与えた後に倒れればホールは発生しない。しかしそれは無理な事なのだ。まず、魔王にエネルギーを渡す方法としてお前たちが勇者の力と呼ぶブレイブシリーズを使うしかない事。だがあれは体力の半分を切ると発現させるのが困難な上、その状態から無理に使うと先に命を落とすからだ。」
エレナとタイチは顔を見合わせる。そうするとどう足掻いてもこの連鎖は断ち切れないのでは?
「そこでだ、もう一つ方法がる。魔王が勇者を倒した後だな」
饒舌な神を前に二人は息を飲んでその答えを待つ。
そこに女神の不機嫌そうな声が入る。
「神よ、また例の綻びから侵入しようとしています。」
神は直ぐに戻ると言って姿を消した。
しかし女神が見つめるモニターにはその姿が捉えられていた。
神が瞬間移動した先は何処か森の中の石で作られた小さな祠の前である。
突然、空間が剣で斬られた布の様に避け、そこから異形の者が現れようとする。それは黒くて艶の無い首を持った龍の様であった。
しかし、首をこちら側に突き出した瞬間、それはどんどん大きくなり、人間と同じくらいの大きさだった頭部はミニバス程に膨れ上がった。
そして、そいつは口を開けると中から高密度なエネルギーを吐き出そうとした。そのエネルギー密度はヤーシュタの破壊兵器を凌ぐ高熱を予感させる。
当然、指を咥えて見ている筈も無く、神が攻撃を加える。
神がその手を振るだけで地が割れ、落雷が襲い、重力まで変化した。
5分くらいの戦いで黒い龍はボロボロにされ立っているのもやっとになると、また次元の挟間に戻って行った。
「流石神様、強いですね!」
タイチが喜び褒めるが何故か女神は不機嫌そうだ。
「待たせたな。時々やってきては退治している。この世界を守るのが我の役割であるからな。それで、話の続きだが。。」
瞬間移動で戻って来た神はあれ程激しい戦いの後だと言うのに息も切らして居なかった。
「世界のエネルギーバランスが崩れた時、偶発的に開くホール。その向こう側から迷い人がやってくる前に生き残った魔王がそこへ飛び込むのだ。丁度倒れた勇者と同レベルのエネルギーを残している事が条件にはなるがな。」
それを聞いた二人は思わずうめき声をあげてしまった。
どこで開くか分からない次元ホールへ相手より先に飛び込めとは困難を極める上、魔王限定である。
そこに女神がつかつかと歩いて割って入る。
そして神の傍らに立つと言った。
「神よ、お気づきかと思いますが、貴方のエネルギーがとても弱っています。そろそろお姿を保つことも難しいのでは?」
神はゆっくりと女神の方へ振り向くと、その威光を揺らしながら優しく言った。
「うむ、長い間ありがとう。後は頼んだ。」
◇
電源の切れたモニターが如く、突然消滅した神の姿にタイチとエレナは大いに動揺した。
「女神様!これはいったい!」
エレナが叫ぶが女神は落ち着いた。
女神はゆっくりと神の座っていた椅子に座り、満足そうな顔をした。そして、嬉しげで、どこかサバサバした様子で言った。
「私から3番目の解決策を授けましょう。」
◇
神様まさかの消失




