第2話 魔法
前回~砂漠で晩御飯の準備~
恐る恐る尋ねる。
「ねえ、エレナ。。さん」
「エレナで良いですよ。」
落ちている枯れ枝を集めながらエレナが答える。
「あっ、じゃあエレナ。。。ゴホン。。えーとこれどうやって食べるのか教えてくれない?」
「焼きます。火の聖霊よ、赤炎を纏い集い給え。フィガ!」
彼女がそう言って翳した手の先に小さな赤い炎が現れ揺らめた。
しかし、その赤い炎はガスの切れかけたバーナーの様で頼りない。
「はっ早く、今の内に枝を!」
急いでエレナが集めていた木の枝を取って炎に翳すと乾いていたのか勢いよく燃え上がる。
エレナが掌を閉じると赤炎は消えた。汗を脱ぐって呼吸を整えている彼女に聞いてみた。
「エレナって戦士なのに魔法が使えるって凄いね。もしかして超優秀なの?あっ魔法剣士とかだったり?」
「えっ?炎と水の出し方は小さい頃に習いますね?」
「えっ?」
「ええっ?」
話がかみ合わなったの良く聞いてみるとこうだった。
まず、この世界では魔法と言うのは特別で無い事。
次に、生きていく上で必要となる基礎魔法は子供のころに教わると言う事。主に親や村の長老等が教えるそうだ。大体赤炎を出す魔法フィガ、や清水を出すワラなどという魔法を習うらしい。
「俺にも出来るかな?フィガっ!」
ダメだった。
エレナが慰めてくれた。
この世界の人間じゃないから使えないのかもしれない。
「ねえ、喉が渇いたんだけど、革袋の中にある水じゃなくて魔法で出せる?」
これから砂漠を渡って行くのだからこの質問は重要である。
「うーん砂漠は乾燥していて集めるのが大変だと思いますが、試しに一度だけやってみますね。じゃあこの器を持っていて下さい。むー、、、ワラ!」
エレナの手のひらに何か雲の様に集まってくる様子が見える。それは徐々に密度を上げポタリポタリと器に滴り落ちる。
5分ほどしてエレナが術を解いた時、器にはカップ半分程だが清水が溜まっていた。
尋常でない汗をかいて大きく肩で息をするエレナの了解を得て飲ませて貰うと匂いも味も無い。本当のピュアーな水だった。
「さっきから気になっていたんだけど、これ続けるとエレナの汗がこっちの器に来るだけに成らない?」
「はあ、はあ、はあ、それも一部含まれますね。これは周りの水をかき集めるだけの魔法ですから。」
「そっか。。。無理させてごめんね。」
つまり、近くに水分を持ったサボテンの様な植物が有るところで使えば有効なのかもしれないが、二人きりの砂漠でこれを使うのは自殺行為になりそうだ。そんな事をぼんやり考えながら焼き上がった獲物達を恐る恐る胃袋に収めると、眠りに付くことにした。
魔法に興奮していたので味なんて覚えていないが硬くて味が殆ど無かった様に記憶している。まあ、エレナのお陰で夕食が食べられただけで十分である。
「(砂漠の)夜は冷えますから、交代に火の番をしましょう。タイチさんから先に休んでください。」
しかも寝る番まで先を譲ってくれると言う。お言葉に甘えて休ませて貰った。色々な事が有りすぎて脳が疲労困憊である。お陰で直ぐに眠ってしまった。
何時間位寝たのだろうか?周りは未だ暗く随分肌寒い。目を開けると空に星々の輝きが有り、それらはまるで夜空が降って来そうな勢いで圧倒された。
タイチは立つ。そして改めて星空を見上げた。
夜空を埋め尽くしす星空は都会で見るのとは違って強烈な存在感を持っていた。それらは今にも降って来そうだったし、そんな星空を見上げ続けるタイチは自分が宇宙の真ん中に立っているという不思議な幻想に捕らわれていた。
ふと目を地面に戻す。
火は消えていないが、エレナの姿が見えない。
辺りを見回すが、月明かりが無いので焚火の近くしか見えない。
恐る恐る足元を探りながら、なにやら物音がする方へ歩み寄って行く。
「エレナ?」 タイチが声を掛けると、エレナの驚いた様な声が聞こえた
「タイチっ!だめ!」
(まずい、トイレ中だったか?)
◇ ◇ ◇
反省しながら薪の方へ戻りかけると今度は明確に金属のぶつかる音、更に何かを切り裂く様な音が聞こえた。
慌てて焚火に戻り火のついた枝を両手に持って音のする方へ駆け寄ると、黒い布をグルグル撒きにしたミイラの様な人影がエレナを襲っている。エレナも短剣を抜き必死で反撃するが、それをあざ笑うかの様に黒ミイラは攻撃を全て回避していた。
しかし、火を持ったタイチが近づくと賊は一瞬で姿を消し逃げ去った。戦闘能力皆無のタイチを見て逃げるとは何とも慎重な賊である。
「エレナ、大丈夫か?」近寄って肩を貸しながら焚火へと戻る。所々切り傷があり、血が出ている。タイチが消毒しないとバイ菌が入ったらマズそうだと言うと、
「消毒の魔法もありますよ。エール!」
そういってエレナは自分の腕や足に出来た真新しい傷痕へ魔法をかけて行く。
そうしている間にタイチは先ほどの怖しい恰好をした奴の事をエレナに聞く。
「彼は隣村の男です。隣村と言っても遠くの村ですが。」
そいう言って彼女はぽつりぽつりと話してくれた。
彼女の村は女性しか居ない事。それで、逆に男しか居ない隣村と生まれた順番でつがいになる事が決まっている事。先ほどの賊が順番的にエレナの相手に成る筈で会った事。
「それが何だって闇討ちなんて?」
「村で私が村を裏切って男と逃げたという噂を聞いた見たいなんです。で、怒って追いかけて来たらしくて。あっ気にしないで下さい。村の決まりでしぶしぶでしたから。本当は結婚なんてしたくなかったので清々してます。」
先ほどからエレナは首元から掛けた青いペンダントを左手で弄りながら下を向いたまま話をしている。
「とても申し訳ない気がする。せめて俺に何か出来る事があれば良いんだけど。」
「本当ですか?じゃあ、考えておきますね。ふふふふ。」
エレナは嬉しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
二日目
暑い。太陽は前日に増して暑かった。
日が一番高くなってから2時間も経過した頃、とうとう我慢できずタイチがまたぶっ倒れた。
ずるずるずる。。。
長木盾に乗せられたタイチはマントをロープ代わりにしたエレナに引きずって貰っている。
「ううっ水っ」
朦朧とした視界の中で見上げると、ビキニスタイルの皮鎧に包まれた形の良いヒップが見える。
「すみません、先ほどのが最後です。こうなったら危険ですがオアシスに突っ込みますね。本当は避けて通りたかったのですが。」
砂漠にオアシス?危険?とにかく水が欲しかったのでタイチは何度も頷いた。
ずるずると、丁度砂丘を登り切った所でエレナは木盾に乗せられたタイチの上に覆いかぶさると、急接近に鼓動を早めどきどきしているタイチを他所に、方向を調整後谷側へ向かって勢いよく砂を蹴った。
パチパチと弾かれた砂がタイチの頭に当たっている。
’びゅうびゅう’
砂丘を滑走する風切り音が思ったよりすごい。
タイチは一生懸命目紛らわそうと違う事を考える。
(これは結構スピードが出ているのでは?)
しかし如何してもエレナと接触している部分が気に成って仕方が無い。
そんなタイチはエレナに背中から抱きつかれた姿勢のまま40m程の坂をあっと言う間に下りきる。
’ざぶん!‘
タイチの乾いた皮膚に冷たい水が浸透する。心地良い。とても奇麗な水だ。
半ば溺れる様に水を飲むタイチは不意にグイッと腕を掴まれ、陸に引き上げられた。
「エレナ助かったよ。恩に着る。」
気道に入った水でゴホゴホと咽ながら辛うじて礼を言った。
水の魔法には制限をつけちゃいました。




