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閑話 プロローグ

エレナに出会う1時間前のタイチ君です。斜め読み推奨。

「おぉー、蝋人形の館。まだ有ったんだ、懐かしいなあ。」


 小さい頃父に連れて来て貰った事を思い出してあの頃は良かったなあと感傷に浸る。目の前に広がる世界はキラキラと光に満ち溢れていた。今思えばずいぶん守られていたんだなあと思う、、、


「ちょっと!どこいくのよ、タイチ?」


少し小柄で眼鏡を掛けたこの女性は、自慢の義姉だ。


”彩姉、待ち合わせまであと10分ある。すぐ戻ってくるからそこで待ってて!”


5歳年の離れた彩姉と大学の4年間同居した。


その間、姉というよりも母代わりだった。


非常に残念な事に俺は大学受験の年に若くして母を亡くした。癌だった。


 母が入っていた保険で辛うじて入学費用を払った物の、これから如何して良いか分からずアパートで膝を抱えていた時に彩姉がやって来た。


 母が父と別居していた事。原因は父が事業に失敗したせいで、その後父が海外に行った事等は聞かされていたが、年の近い義姉の事は初耳だった。


「あなたのお母さんがね、亡くなる前にお父さんに電話をくれたの。知ってると思うけど、お父さんは海外にいてね、その電話は私が取ったのよ。」


 肩までの黒髪。色白で卵型の輪郭。パッチリとした目元。目頭に涙を浮かべた大きな黒い瞳は全てを吸い込まれるようなブラックホールだった。空っぽな自分の魂はあっという間にそこに居た。


「春から東京の大学に行くんでしょ?お父さんからも頼まれているから、一緒に家に来なさい。」



 しかし、そこは普通の2LDKアパートで、年頃の若人が二人同居するには随分プライバシーに欠けた空間であった。まあ、自分の根が子供っぽい所が幸いしてか間違いは起こらず此処に至る。



「なんで日本に戻って来て最初に会うのがこの場所なんだろうね?お父さん東京タワーが好きだった?」


 来る途中のバスに揺られながら彩姉が呟いていたのを思い出す。きっと、父さんにとっても何かいい思い出の場所だったんだろうと勝手な推測をする。


蝋人形コーナーと書かれたゲートをくぐるために廊下の角を曲がりながら、彩姉が何か言っていたのを耳が捉える。


「タイチっ!ここの蝋人形は私が成人式の年に終わったはずだよ!貴方が中学の頃よ!」


しかし、現実として目の前に蝋人形コーナーが有る。


(むむっ!しかも入場料300円って安すぎないか?小学生の頃でも600円くらいしていたような?)


「いらっしゃい。不思議な世界へようこそ。お客さん少ないから100円でいいよ。」


 この寒い季節だというのに、ジーンズに白い長そでシャツ1枚と言った軽装で一人立つ、整った顔をした娘が声を掛けて来た。栗色の髪がとても奇麗だ。


 余りにも激しい値引きにちょっと腰が引けたが、猪突猛進を常とする自分の妙な性格がその状況から逃げる事を良しとしなかった。


「入ります。はい100円。」


◇ ◇ ◇


 立原 彩菜は都内法律事務所に努める事務員でる。大学を卒業後かれこれ4年間勤めている。

仕事も真面目で事務所内での評判は良く、小柄で見た目もかわいらしい顔立ちをした彼女は多くの男性職員から好意を持たれている。

 よく飲み会に誘われるが、いつも家で弟が待っているのでと帰ってしまう。弟は大学生らしいので、普通なら放って於いても良さそうな物である。

 誘いを断られた男性同僚の中には憂さ晴らしか、根も葉も無い噂を立てる者も居た。


曰く、”彼女は本当は彼氏と同棲していて彼氏がやきもちを焼くので飲み会に来られないのだ。”と


 彩菜の母は居ないらしい。


 そんな彩菜が父親を頼るのは当然だった。幼少の頃は孤児院に居た。中学に上がる頃、孤児院を出なくては行けなくなり、その時父が迎えに来た。父とは定期的に会っていたが、それ以降父は彩菜と生活を共にした。と言っても海外に居る時が長かったが。


 一方、突然夫から他の女性との間に子を設けていた事を告知され、その娘の面倒を見るので出ていくと言われたタイチの母は怒りと悲嘆は相当な物だった。


 当時は父の事業が順調だった事もあり、タイチの母は毎月の慰謝料で生活には不自由しなかったが、父が事業に失敗してからそれも無くなり、母は目に見えて老け、スーパーで夜遅くまでパートしながら少ない貯金を切り崩しつつタイチを育てた。


 タイチは母を不憫に思っていた。なので今日父に会ったら絶対積年の怒りをぶつけて遣ろうとも思って居たりもしたのだが、こんな事態に成ろうとは。。。

1話からバッサリ削った部分でした。

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