プロローグ
初投稿となります。拙い文章ですが、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
「・・・今日は、いい天気だ」
そう呟きながら、俺は昼過ぎの授業をぼんやりと聞いていた。
6月の梅雨時にしては、やけに晴れ渡った空が夏の訪れを感じさせる。
「・・・そうだねぇ・・・ぐぅ」
そう呟き返したのは、後ろの席の「桜 夢子」だ。
彼女は、俺の幼馴染で生まれた時から一緒に育った家族のような存在だ。
身長150㎝で、小柄ながらも胸が大きい、なのにスタイルがいいと学校内で人気なのだとかどうとか友達が言ってた。
肩口で切りそろえた、艶やかな黒髪がとてもよく似合っている。顔も美人だ。
ってか最後の「ぐぅ」って君、寝てるよね。寝言で返事するなよ。
そんなツッコミを心でしつつも、俺は先ほどまで進めていた作業に戻る。
今作っている物は、夢子に強請られて仕方なく作っている一点物のアクセサリーだ。
俺事、「森 林斗」は少しばかり手先が器用だ。
傍から見た人たちは、やれ職人だの匠の技だのと囃し立てるがどうってことはない。
ちょっと趣味が高じて、自前の家や自動二輪や服やアクセサリーなんかを作れるだけだ。
「よし、できた」
「むにゃっ! ほんと!?」
「授業中だぞ~桜ぁ、ちゃんと聞いてろぉ」
「ほわっ・・・ごめんなさぁい」
俺の一言で飛び起きた夢子が、社会科担当の教師「枕木 聡」に注意されている。
少し申し訳ない気分になりながらも、俺は後ろを向いて夢子に話しかける。
「あぁ、昨日頼まれてた【クローバーのネックレス】だ」
「わぁ~、かわいぃねぇ。素敵にラッピングしてから頂戴ねぇ」
「はいはい、わかりましたよ。むーこ様」
ネックレスを見せてやると、夢子がうっとりとした表情になりながらも、ちゃっかりした要求をしてくる。
「むーこ」というのは、夢子の愛称だ。俺がそう呼んでいたからか、クラスでも浸透している。
「モリリンシリーズのアクセサリーもっと増やさないの? りんちゃん」
「アクセサリーなら結構作ってると思うけどなぁ。サイトに出してないだけで」
「一点物だけど、かわいいからきっと売れるよぉ」
「儲けはあまり考えてないけどなぁ」
「モリリンシリーズ」というのは、夢子が命名した俺が作った物を売る通販サイトの名前だ。
いつのまにか勝手に名づけられて、いつのまにかサイトができてて、いつのまにか一点物を取扱うブランドで有名になっていた。
全部、夢子が裏で工作していたらしく流れで俺の作ったアクセサリーや家具が販売される事になっていたが、自分の作った物が評価されるのは正直嬉しいものだ。
普段はおっとりした性格の夢子だが、たまにこういったアグレッシブな行動をするのもまた彼女の魅力なのだろう。
――ガガッ
突然、教室にある校内放送用のスピーカーが音を立てた。
「アーアー マイクテス マイクテス テステス テステステステステッ! げふっげふっ!?」
マイクテストのしすぎでせき込んでいるが、聞こえてくる声がおかしい。
少年とも少女ともとれる高い声が、スピーカーから届いていた。
(…子供?)
俺のそんな考えをよそに、声はつづけた。
「えー、私は【神】です。偉いです。暇なので遊び相手を探しています。ちょうどよくここにゲートがつながったので、君たちを私の世界へご案内します」
「・・・はぁ? なんだこれ」
「なんかの撮影か、ドッキリ?」
「よくわかんないけど、神とかやばくない? ちょっとキモイ」
クラスメイト達が口々に文句やら考えやらを述べているが、自称神様はおかまいなしだ。
「さぁ、ゲームをしようよ」
唐突に、自称神様は告げる。
「ルールは簡単だよ。私の世界で、君たちは自由に生きる。その旅路の果てに、私の元に辿り着ければ君たちの勝利だ。辿り着いた者の願いをなんでも叶えてあげるよ。でも私の世界はちょっと危ないんだ。魑魅魍魎が跋扈し、剣と魔法を駆使しなければ、生きることの難しい過酷な世界なんだ。だから簡単に死なないように、君たちに力をあげるよ。君たちの潜在能力を元にした異能の力、その名も「ギフト」! どんなギフトが手に入るかはちょっとわからないけど、その力でがんばって生き抜いてみてほしい。誰か一人でも私の所に辿り着いてくれることを、切に願っているよ。」
「うわっ!なんだこれ!?」
「体が、体が光ってる!?」
「ちょっと!どういう事これ!?」
「きゃあぁぁっ!私の腕が透けてる!?」
まさに阿鼻叫喚だ。自称神様の話が終わると共に俺たち全員の体が光り輝き、透けだした。
「っ!? むーこ!」
「りんちゃん!」
俺は、夢子の手を掴むことができなかった。
一瞬の明滅の後、俺はそこにいた。
天高く輝く太陽、鬱蒼と茂る森、そしてどこまでも青い、空。
異世界「アイ・ルーン」に。