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てるてる坊主(新作落語)

作者: 弥森免兔

※死を想起させる描写があります。

ないと思いますが上演される場合は文末をお読みください。


てるてる坊主

空間は

現代

下 洗面所 廊下 台所 居間 居間の窓 上

15年前

下 外 玄関 洗面所 居間 上


登場人物

現代

・透(10歳)ませている子ども

・高也(35歳)透の父親

・恭子(32歳)透の母親

15年前

・高也(10歳)素直な子ども

・おかあさん(正子・29歳)高也の母親

・祖母(53歳)正子の母親

・田中 高也の同級生の母親


居間。透が窓辺でてるてる坊主を作っている。中央に高也、下手に恭子

透  できた!

恭子 てるてる坊主6つも作ってどうするの?

透  おそ松くん!

恭子 よく知ってるわね。

透  だって、だって、ひいおばあちゃんの所に行けば山も海もいけるからさ!晴れたら嬉しいもん!

恭子 そうね、でも、降水確率高いのよね……

高也 でも、この時期はあの辺天気変わりやすいし、よく気象予報士の人が外して謝ってるよ。「ごめんなさい」って。

恭子 夕方のニュースの人が笑顔で謝るのよね。

高也 うん、福岡に住んでる人じゃないとわかんないだろうな。という訳で透、お前の日ごろの行いが良ければ晴れるかもな。

透  その、期待を持たせたい時だけ子供の努力に原因を持たせる風潮やめたほうがいいと思う。

高也 言うねぇ。

透  あと、クラスメイトのお母さんが同級生に言ってる「田中さんって化粧映えする顔ね」とか「大人になったら化けるわ」とかああいう、当事者が大人になったら何も変化がなくて失望しそうな呪いをかけるのも大人はやめたほうがいいと思う!

恭子 透、いじめられてない?

高也 頭がいいってのは悪い事じゃないんだけどな。困ったら頼れよ。ほんとに。なんでもいいから。……俺、寝る。

高也、寝る支度に立つ。

恭子 高也さん、準備は大丈夫?

高也 準備ったって俺は下着ぐらいだもん。

透  お父さんばっちい!汚い!

高也 知ってんだろ。あっちに上京前の服とかあんだよ。俺の実家だから学生ジャージでいい。

透  お父さんダサい!

恭子 高也さんダサい!

高也 お前ら……俺怒ったら意外と怖いんだぞ。いいの。俺は簡単で。イオンに行く時はジャージで行かないよ。それでいいだろ。お前らも準備して早く寝ろ。寝坊したら置いてくからな。

高也、洗面所に移動する。歯ブラシを手に取る

高也 もうそんな季節か……

高也、歯ブラシを手に取り、目を瞑る。


15年前。

正子 高也、あんまり遅くなると、明日寝坊するよ。

歯を磨いていた高也、口をゆすぐ。

高也 明日は絶対寝坊しないもん!だって明日は、初めて自然教室に行って、明後日は初めて海に行って、明々後日は初めて、山へ行くんだから!

正子 そうだね。

高也 へへっ。あ、でもまだ出来てない事がある。

正子 何?

高也 てるてる坊主、作らないと!

正子 いいじゃない、早く寝なよ。

高也 やだよ、絶対晴れてほしいの!

正子 そう。

高也 ティッシュ…使っていい?

正子 ……いいよ。好きなだけ。

高也 好きなだけ使っていいの?いっつも、新聞紙とか、裏紙99%で、ティッシュはガワだけなのに、今日はティッシュ100%で作っていいの?

正子 高也、いつの間に%とか使えるようになったんだね。うん。ティッシュ100%でいいよ。

高也 へぇ!こんな、滅多にない事があるんだな!こんな時、何て言うんだっけ。滅多にない事が起こったから、「明日は雨が降るもしれない」…お母さん!ダメだよ!てるてる坊主を作って雨が降るよ!だから僕は、いつも通りの製法で、てるてる坊主を作ることを、ここに誓います!

正子 懐かしいね。それ。一番最初の「宣誓!」は、校長先生に向かってるから、それで誓う方じゃなくて教員の方の「先生!」だとあたしはずっと思ってた。

高也 えっ!そうだったの!

正子 子供の夢を壊されました、みたいな顔しないでよ。

高也 裏紙をくるくる~くるくる~。

正子 そんなに大きくするの?

高也 先生がね、てるてる坊主、でっかくしたら晴れる確率が上がるんですって言ってた。

正子 ……うん。

高也 だから僕のせいで、絶対晴れるんだ!明日の分、明後日の分、明々後日の分、出来た!

正子 どこに吊るすの?

高也 ……考えてなかった…

正子 カレンダーを外そうか。

正子、柱の壁掛けカレンダーを外す。

高也 でも、お母さんが不便になるんじゃない?

正子 ……高也が帰ってきたら戻せばいいよ。

高也 うん、ありがとう!

正子 早く寝なよ。

高也 うん、お休み。

高也、横になる。すぐに起きる。

高也 おはようお母さん。

正子 早いね。お母さん全然寝てない気がする。

高也 8時間経ったよ!

正子、壁かけ時計を見る。時計はカレンダーがあった場所の上にある。

正子 本当だ。都合のいいもんだね。

高也 仕事、行かないの?

正子 いつもより時間が早いだろ?高也を見送ってから行くんだよ。

高也 そっか!

正子 朝ごはん、出来てるよ。

高也 食パン、目玉焼きとベーコン、トマト、ゼリー、オレンジジュース……!朝からこんなに食べれないよ!誕生日みたい!

正子 うん、……残してもいいよ。

高也 食べる食べる。いただきます!

高也、美味しそうに食べる。

高也 給食のしなしなしたベーコンより凄く美味しい!

正子 お弁当も作ったから。箱は使い捨てだから、食べ終わったら捨てるんだよ。

高也 ……お母さんの分は?

正子 あるよ。後で食べるんだ。

正子、高也を見つめる。

正子 高也、時間大丈夫?

高也 あ、そろそろやばいかも……

正子 ゼリーはお弁当袋に入れるよ。

高也 ありがとう!

正子 高也、お前はいつもいい子だね。いつも有難う。

高也 どうしたの?

正子 だって、高也が外に泊まるなんて事、今まで無かったからさ。

高也、重そうにリュックを背負う。

高也 帰ってきたら同じじゃない。

正子 気をつけてね。

高也 行ってきまぁす!

正子 行ってらっしゃい!

正子、高也を見送り、台所へ。

正子 ……お腹すいたな……。高也の分で使い切っちゃったから何もないや。水。水飲も。

正子、水道水を飲んでぼうっとする。

正子 ぼうっとしてる時間なんか無いんだ。

正子、ダイヤル式電話をかける。

祖母 もしもし

正子 前田さんのお宅でしょうか

祖母 はい

正子 市役所のものです

祖母 ええ。

正子 保険証に関する書留を市役所からお送りする予定なのですが、約3日後に到着するかと存じます。

祖母 多分終日いると思いますので、大丈夫ですよ。

正子 ありがとうございます。お手数をおかけいたします。

祖母 正子?

正子 ……前田さん?

祖母 いえ、声が、私の娘と似ていたものですから。

正子 ええ、……申し訳ありません。……失礼いたします。

正子、うなずく。

正子 いるんだ…うん。うん、うん。これで高也は大丈夫。便箋、便箋…。便箋が、一枚と、便箋の表紙と、台紙……。まぁ、書ければいいよ。ボールペン……書けない。これも……書けない。これも……だめ。鉛筆でいいや。鉛筆削りは高也が持ってるのか。自然教室に鉛筆削りなんでもってくの⁉まぁ使うこともあるか……。

正子、机に向かう

お父さんお母さん


前略


お久しぶりです。連絡を寄越さないまま10年も経ってごめんなさい。

私には子どもがいます。周囲の人に乱暴をされて出来た子です。

お父さんとお母さんは真面目だから、結婚以外で出来た子どもはどう伝えたらいいか分からなくて家を出ました。

それでも、子どもに罪はないし、可愛いし、私なりに愛して育ててきたつもりです。

でも、私の力不足で、仕事もリストラされ、高也と暮らして行くことが出来なくなりました。

養育費どころか交通費にも足りないと思いますが、高也を住所まで迎えに来ていただけませんか。

この手紙が届く頃、高也が自然教室から帰ってきます。

出来れば高也より早く家に来て欲しいです。

面倒をお掛けします。

でも、難しければそれはそれでなんとかなると思うので、来なくても大丈夫です。


お父さんお母さんの子として生まれてこれて、そして高也に会えて幸せでした。

ありがとう。


草々


前田正子


正子、顔を覆う。

正子 時間がない。集荷時間が終わっちゃう。

正子、郵便局へ向かう。

正子 すみません、これ、現金書留で

台の上で、2人が現金書留封筒をやり取りしている。

田中 前田さん、ご無沙汰してます。とりあえず封筒からでいいですか?20円です。

正子、小銭を取り出す。

正子 田中さん!お元気ですか?

田中、現金書留の封筒を渡す。

田中 ええ、相変わらずで。高也君はどうですか?

正子 今日から自然教室なんですよ。

正子、現金書留の封筒に、便箋と現金を詰め、住所と入れた金額を記載して田中に渡す。

田中 そうなんですか。うちは家族みんなで明日から田舎に帰ります。ザリガニ捕まえるんです。510円です。

正子 そうですか、お気をつけて。

田中 また新学期によろしく。お預かりしました。

正子、郵便局を出る

田中 ……前田さん、痩せたな……、私も痩せなきゃ。


正子、帰宅。

正子 ただいま帰りました……ガス、電気、水道の清算は……お願いしちゃおうかな……お母さんたちが来た時にお茶飲みたくなるかもしれないし。うん。高也、てるてる坊主、でっかくしたら晴れるっていってたな、

正子、首を吊る準備をする。所作で「首を」吊ることを分かるようにする。

正子 私が吊ったら、降水確率100%も、晴れてくれるかな…ごめんね、高也…


扇子で床を音を鳴らすなどして場転

高也 楽しかったね!太郎君また学校でね!雨が全然降らなくてすごい楽しかった!

祖母 高也君?

高也、見知らぬ人が入口に立っていたので驚く

高也 こんにちは。……もしかして、おばあちゃん?写真で……。

祖母 そうよ。

高也、両手を合わせ、本格的にお経を唱える。

高也 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時

祖母 私達死んだことになってる?

高也 ……違うの?

祖母 高也君、おばあちゃんと、おじいちゃんは今ね、福岡に住んでるの。

高也 え!じゃあ早く会いたかったなぁ!お母さんなんで隠してたんだろう?

祖母 ……高也君、ごめんね…。何も食べてないでしょ、とりあえずこれ。溶けかかってるけど。

高也 わぁ、棒ジュースだ。これ、ひとりで一本食べていいの?

祖母 ええ……いいのよ。

高也 でも中にお母さんがいるなら、お母さんにもあげなくちゃ。(棒ジュースを折る、すする)おばあちゃん、これ、歯磨き粉の味がするよ!おばあちゃん!おばあちゃん!

現代に戻る。洗面所。恭子と高也。

恭子 あなた、あなた……ねぇあなた、

恭子、高也をゆする(引用:天狗裁き)

高也 うーん……

恭子 歯磨きしながら寝るなんて器用ね。……どんな夢見てたの?(引用:天狗裁き)

恭子、タオルを高也に渡す。高也、胸元にこぼれた歯磨き粉とよだれを拭う。高也、口元をゆすぐ。

高也 ちょっとな。ほんとっぽい夢だったけど、どうだかわかんない。

高也、鏡で自分の顔を見て、顔も洗う。

高也 お前、水貰っていいかな。

恭子 ダメって言ったら?

高也 自分で注ぐよ。

恭子 冗談よ冗談。お茶淹れなくていい?水ね。

恭子、浄水をコップに注ぐ。

恭子 はい。


恭子、歩き、居間へ移動する。

恭子 てるてる坊主がまた6つ増えて12個になったけど

透  おそ松さんのも作ったの

恭子 なるほどねぇ。ただ、親としては10歳におそ松さんは早すぎると思うわ。

高也 恭子、明日弁当ある?

恭子 いつものでしょ?和洋中折衷のお母さん弁当

透  僕、駅弁食べたい

高也 着いたら買ってやるよ

透  新幹線の中で食べたいの!

高也 ……帰り、な。

高也の元気が無いことに対し、透が怪訝な表情をする。

透  ……お父さん、大丈夫?

高也 ん?今日まで仕事だったから疲れてるだけだ。透、どうしても晴れてほしいか?

透  うん、晴れてほしいな

高也 そうか。

透  ……でも、ひいおばあちゃんとひいおじいちゃんに会えればいいから、雨でもいい。



**********************************************

↓無いと思いますが


上演される場合

上演許可の連絡やりとりは必要ありませんが、もし連絡をくださった場合、お酒をたかりに行くかと思います。

改変などは全く気にしませんが、自作発言だけはやめてください。

上演にあたり紙などに演目を表記する場合、クレジット(例「作:弥森免兔」)を表記してくださると嬉しいですが、シチュエーションが許せばで結構です。


落語以外で使用される場合

現在どのような活用法があるのか思い至りませんが、とりあえずご一報ください。

**********************************************

重複投稿について

この作品は、2016/09/11にpixivに別名儀でアップしたものを、再度投稿するものです。(こちらに投稿と同時に削除)

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