番外編 再び
再び
これ以上にないほどの衝撃に目を見開く。
その姿を見た時
これはきっと夢なんだと思った。
男は公園のベンチによっこらせと腰を下ろすと、ふぅと息をついた。
彼の名はジシス。
Tシャツにジーパンというラフな格好をしており、短めの金髪は無理矢理後ろで括られている。
店で買ったコーヒーを袋から取り出し、ストローを挿し、一口飲む。
「あ~やっぱりこのコーヒーが一番好きだな。このふかーい味とコクがたまんねぇ~」
声に出して呟いていたことに気付いて、慌てて辺りを見回す。
よかった、近くには誰も居ない。
最近独り言が増えて困っているジシスである。
ひとり言ばかり言っていると、周りの人に変な目で見られかねない…。
再びコーヒーを飲みながら向こうを見ると、広い芝生で子どもが遊んでいるのが見えた。
風に乗って楽しそうな笑い声が此処まで聞こえてくる。
反対に、そんな姿を見たジシスの目にふいに影が落ちた。
子ども、特に14,5歳の子どもを見るたびに、ちりりと胸が痛む。
そして必ずあの少年を思い出すのだ。
『セルザス!』
無邪気な笑顔で自分の名を呼ぶあの少年の顔が脳裏に浮かんだ。
罪悪感に更に胸が痛む。
住む世界も変わり、時も経たにもかかわらず、何故過去、もとい前世の記憶があるのか。
自分はどうすればいいというのか。どう償えばいいと言うのか。
再びコーヒーをすする。
彼女の事は恨んだ。裏切られたと思ったし、好きだったからこそそれが許せなかった。
しかし、人間として生まれ変わり、前世には無い様々な事を経験した今なら
彼女の気持ちが少し分る気がする。
優しい彼女はセルザスに本当の事を言うことによって、彼を傷つけたくなかったのだろうと。
そして本当の事を言えば、まだ子供だったあの少年をセルザスは守ってはくれなかっただろう。
確かに本当の事を言われていたならば、前世のジジスなら絶対あの少年を託されていなかったに違いない。
時が経ち、”セルザス”ではなくなった今あの時の自分を客観的に分析できた。
ついと目を伏せた。
「んー…」
何故突然彼女の事が頭に浮かぶのだろう。不思議だ。
その時、ふわりと風が吹き、コーヒーが入っていたビニール袋がふわりと飛んでいってしまった。
「あっ、やべ!」
放っておけないジシスは、コーヒー片手に袋を追い駆けた。
追いつく度にまた風が吹いて袋をさらっていく。
まるで”こっちだよ”といざなううかのように。
その袋がふわりと女の人の足元で止まった。
女の人がその袋を拾い上げる。
「はい、これ」
「あっ…すいません。ありが…と…」
視線の先で、彼女の蜂蜜を溶かしたような透き通る長い髪が
ふわりと風に煽られる。
ジシスは言葉を失った。
どうして
どうしてここに
彼女が――
これ以上にないほどの衝撃に目を見開く。
その姿を見た時
これはきっと夢なんだと思った。
それにしても
これはなんて思いがけず幸せな夢なのだろう。
嬉しくて嬉しくて。
夢ならどうか覚めないで――
++++
「と!言う感じでなぁ~!これが俺とサフィラの出会いってわけだ。でフェイが生まれたと」
腕を組みしたり顔なジシス。
「へぇ~!お父さんとお母さんってそうやって出会ったんだ!」
目を輝かせるフェイと呼ばれた子ども。
歳は10歳程度であろうか。
母と同じはちみつ色の綺麗な髪で、目は綺麗な緑色をしている。
その姿はまるで、そっくり。
今彼らが座っているのはジシスと彼女が出会ったあのベンチだ。
爽やかな風が吹いている。
「今思えばお前が俺たちを引き合わせてくれたように思えてなぁ」
感慨深そうにうんうんと頷くジシスを見ながら、子どもはふと険しい顔をし、口をとがらせた。
「ん…ちょっと待ってよそれ…まるでビニール袋が僕みたいじゃないか。」
「おお、そういう事になるな」
「えーっビニール袋なんてやだよぉ!」
怒って叩こうとした子どもの攻撃を、ジシスはくるりと一回転してよけると、
ふふっ見たかこの華麗なよけ方!と不敵に笑った。
そんなナルシスト気味な父を見て引く子ども。
ああ、こんなやりとりがまた出来るとは。
その時母がやって来た。
「あら、こんな所に居たの?そろそろ帰りましょ」
「うん!」
「仕方ねぇなぁ」
お父さんとお母さんの間に子どもを挟んで手を繋いで。
暖かいぬくもりに、父が切なく穏やかに目を細めた。
今度こそ幸せに。
これが俺の償いかた。
+++++
まるで、そっくり。なのはあの少年にですw
サフィラとフェイがフェルとフェルの母の生まれ変わりという確証は無いです。
が、似過ぎて似過ぎて、そう思わずにはいられないセルザス、もといジシス。
もし生まれ変わりじゃないとしても、それでもこの2人にあの2人を重ね合わせずにはいられずに、
そして2人を今度こそ幸せにするという決意を胸に抱いているのだと。
今後「今妖」の方で登場するやもしれないジシス、サフィラ、フェイの3人でした。




