表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

暴走マイク

作者: 兄連

「どうしてバブルが起きたのでしょうか?」

 局一のイケメンで知られる島田アナは『これで何回同じ質問すりゃいいんじゃ』と思いつつ、経済評論家の井伊康政にコメントを求めた。

「起こるんですよ。レッドスパムだって、警告してたんですよ『根拠なき狂騒』だってね。それでもまだ始まったばかりですよ」

 腕白小僧がそのまま老成したような井伊は嬉々として続けた。

「マーケットを流れている大量のお金が土地に雪崩れ込んだわけね」

 『何こいつ、いつも忙しないんだ』

「何故それが弾けてしまったのでしょうか?」

 島田アナの商売道具の悩殺微笑の口元は微妙に歪んだ。

「予想できてましたよ。経済合理性から説明できる水準じゃないんですよ、今の地価は。まだ始まったばかりなんですよ」

『こいつ、いつも悪い話うれしそうにするよな』

「まだ下がるのでしょうか」

「まだ始まったばかりですよ。上げが急すぎた分、揺り戻しはキツいでしょう。2、3年は厳しいと思います。」

「このバカ、『始まったばかりなんですよ』しか言えねーのかよ」

「本日のコメンテーターは元日銀で、現在経済誌『始まったばかりですよ』主宰の井伊康政氏のコメントでした」

 井伊は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして島田アナを睨みつけた。瑕疵ひとつない官僚人生の褥で育まれた井伊にとっては初めて受けた雑言だった。

 「新春座談会でさぁ、日本の地価は上昇続くって言ってなかったけ?」

  井伊は素直に応じた。

 「米国の景気など外部要因が変わらないという前提でお話ししたはずです」

 「言ってねーよ!嘘つくなよ」

 「嘘とは何だ!貴様!」

  井伊はいきなり島田アナの背広の襟を掴み、揺さ振り始めた。

 「島田!コマーシャル!コマーシャル!」

  ディレクターの慌てた指示が飛ぶ。

 「こ、こでコマーサル・・・」

 「いいところでやめないでよ。この評論家の化けの皮剥がそうと思っているんだから。」

 「もういい!切れ!」

 叫び声が響いた。

 「島田アナ、こないだバイトの女子大生、くどいてたでしょ。新婚なのにもう我慢できないの?売れっ子アナ抜いといて。パークハイアットの中華でしょ?その後下でお楽しみ?」

 「何なんだ!」

 島田アナの表情はすでにキャメラの前であることを忘れた、悲愴なものだった。端正な顔は醜く歪み、目尻に小さく涙の玉が浮かんでいた。一方、井伊は意味不明な奇声をあげながら、ワイヤレスマイクを背広の襟からはずして床に叩きつけ、足で踏み潰した。

 「ギューウ!」

 「無駄だよ。ほっといてよ。『まだ始まったばかりなんですよ』」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ