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紅玉の姫君  作者: 神奈保 時雨
第二章
8/61

食い違い

「ワタシはアリス。アリス・ローレン」

「で、ボクがクリス・ローレン」

「……双子?」

『そうだよっ』


 エリセの問いかけに、綺麗に揃った和音が返ってくる。アリスと、クリス。二人は、よく似ている。

 深緑の瞳。肩くらいまであるだろう、明るい茶の髪。アリスはふたつに、クリスはひとつに、それぞれ髪を結っている。服装も色合いはほとんど同じで、違いといえばスカートかズボンか、といったものくらいだろう。

 見た目は、まだ子供。12、3歳に見えるが、魔法使いならば話は別だ。その辺りはどうなのだろう、とリティシアは歩きながら考えを巡らせた。彼ら――シリルやアーシャと一緒にいたのだから、その可能性はあるだろう。

 この双子と、シリルという青年。そしてリティシアとエリセの5人は、路地裏から通りに出ていた。

 そこそこ大きな通りだが、先ほどの騒ぎのせいだろうか、人通りは少なかった。


「で、こっちがシリルっ」

 それとは対照的に、明るい声が響く。アリスがシリルを指差し、にこっと微笑んだ。

「……指を差すな、って」

 シリルは無表情のまま、それに言葉を返す。

「リティシアよ」

「……エリセ、です」

 二人も、控えめに名乗った。それにアリスは微笑みを返し、シリルへと向き直る。


「ねぇ、やっぱりワタシとクリスも連れてくるべきだったんだよ。ワタシたちだって魔法使えるもんっ」

「……魔物が出ると分かっていたわけでもあるまいし」

 むくれたアリスに、シリルがそう返す。どうやら、双子も魔法使いらしい。ということは、こんな子供のような見た目でも、それなりの時を生きてきたのだろう。


「ところで、魔物が出るのって、これで何回目だっけ?」

 クリスが何気ない口調で、シリルにそう尋ねる。

「――5回目か、確か」

「え?」

 シリルの言葉に、エリセが声を上げる。彼女は足を止め、目を見開いていた。他の4人が、一斉に彼女を振り返る。


「エリセ?」

 リティシアが声を掛けると、エリセは何でもないというように、ふるふると首を振ってみせた。

「……5回目?」

 落ち着きを取り戻した彼女が確認するかのように呟けば、シリルが小さく頷く。

「どうしたっていうの?」

 状況が飲み込めないリティシアは、エリセにそう問いかけた。双子は黙ったまま、しかし落ち着かない様子で3人を見比べている。


「……わたしは、この前の、というか、今回の事件しか知らないから。びっくりしちゃって」

 その答えに、リティシアの疑問は深まるばかりだ。

 彼女はリンドールの人間だ。それなのに、一連の事件を知らない、と言うのだから。


「……その制服は、魔法学院のものだろう」

 唐突に、シリルが口を開いた。

 エリセが、慌てたように頷く。

「えっと、つい最近卒業したばっかりで…」

「あ、そっか。それなら知らなくても不思議はないよね?」

 アリスが、顎に人差し指を当てて声を上げた。

「……どういうこと?」

 それに対してリティシアは、今日だけで何度思ったか分からない疑問を吐き出した。


「魔法学院のこと、知らないの?」

 クリスが首を傾げ、リティシアを真っ直ぐ見つめる。

「名前だけしか。あたしは、この国の人間じゃないのよ」

 リティシアはクリスと目を合わせ、ふっと苦笑した。


「そうなの?」

「ええ、今日来たばっかり」

 それは災難だったね、とクリスは彼女に声を掛けた。まったくその通りだ、と思いながら、リティシアは答えを促す。

「で、学院と事件とに、何の関係があるのかしら」


「うんとね、魔法学院はとっても閉鎖的な場所なのっ」

 どうやら、アリスが説明を引き受けたらしい。

「完全に寮制で、通いはじめてから、卒業するまでの5年間。敷地の外に出ることはまったく許されないの。そうでしょ?」

 アリスがエリセを見やると、エリセは小さく頷いた。

「卒業したばっかりなんだったら、事件の全部を知らなくても仕方ないだろうな。町に出ることが不可能だったのだから」

 シリルが引き継ぎ、そう締めくくる。


「……ちょっと待って?」

 疑問を投げ掛けたのは、意外にもエリセだった。再び、全員が彼女に注目する。


「た、確かに、わたしは閉鎖的な空間にいたけれど……」

 エリセはその視線にたじろぎながらも、言葉を紡ぎだす。

「学院には、国軍の人とか、外部の人も出入りするよ? でも、まったく噂にもなってなかった。どうして、なのかな」


 しばらく、沈黙が続いた。


「……魔法学院ってさ、」

 その沈黙を破ったのは、クリスだった。

「卒業生の8割以上が、国軍に入るんだよね?」

「え、うん」


 唐突とも思える問いに、エリセは戸惑いながらも肯定を返す。

 軍の魔法使い。それが学院生の主要な進路らしい。


「それじゃあ、うーん、噂にならないのも当然っていうか……」


 どこか、クリスの言葉は煮え切らなかった。


「どういうことかしら?」

 リティシアは、再び同じ問いを口にする。


 自分たちの近くを通っていく人々のまばらな足音が、耳に入ってくる。そのとき、アリスが周りを気にするような素振りをした。そっと周囲を見渡し、困ったように眉を下げたのだ。


「……ここでは、話せないような話なの?」

 その様子に、リティシアがぽつりと問う。

「……人がいないわけではないから」


シリルの言葉が聞こえ、全員が彼に注目した。彼は全員を見渡すと、ほんの少しだけ首を振ってみせる。


「さすがに、事件の話……不穏な話はここではしたくはないかもしれないな。それに、ずっとここで立ち止まっていたら邪魔になる」


 確かに、人通りが少ないとはいえ、まったくないという訳ではないのだ。いつまでも止まっているわけにはいかないだろうし、通りすがりの人がリティシアたちの話を聞いてしまったら、不安を煽ってしまう可能性もあるだろう。


「場所、変えましょうか?」

「そう、だな。とりあえずは歩こう」

 シリルはリティシアの問いにそう返すと、歩きながら付け加えた。

「…もしかしたら、アーシャが家の方に向かったかもしれない。様子を見に行ってもいいか」

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