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「さて!!」
と、勢い勇んでベッドから降りた。「降りただけかよ!!とか、みなまで言うな。僕だって分かっている」と、1~108までいる僕のエアフレンズに語りかける。しかし返事は無かった。ただの屍のようだ。
気を取り直して部屋のドアを開ける。辺りを見回すと、様々な形のドアが並んでいるのが分かる。中には、テントの入口の様な物もや、ライオンのノッカーが付いた物もある。あぁ、鳴らしてみたい。と思ったが、自重した。
「さて」
本日二度目の「さて」である。良いな「さて」、これからは頻繁に使っていこうか。
「さてさて、さてさてさてさて・・・?」
バカっぽいから止めよう。
「僕はどっちから来たんだっけ?」
なんとなくは憶えてはいるが、こうもドアがあると不安になるのも当たり前か。僕、こう見えて慎重派なんだ。よく滑るけど。
「あ」
そうだ、携帯電話。オオニシに直通なんだった。ゲヘペロ。うむ、下衆い。そんな下衆い顔でオオニシに電話を掛ける。あ、これって電話なのか?もしかしたら、霊話とか念話とか神話とか魂話とかかも・・・と思っていたらオオニシが電話に出た。いいか、電話で。
「もしもし、こちらオオニシです」
「オレ、オレだよオレオレ」
「オカさんですね、どうされました?」
ボケ殺しとは、やるなコイツ!!
「・・・いえ、一先ず落ち着いたので部屋を出たのですが、どっちがどっちなのか分からなくて困っているのです。クマっているのです。まいっちんぐです」
「そうですね・・・今は部屋を出たとこですか?」
総スルーだと!?顔面丹精込めて作られた人形の様な顔をした奴め。少しぐらいノってくれてもいいだろう!?
「はい、ライオンのノッカーの取っ手で遊んでいる所です」
「それ、どう考えてもあなたの部屋の前じゃないですね?」
よし、ノってきた!!
「そうですかね、さて、今どこでしょうね?」
「私に聞かれても分かりかねるのですが」
「え、そうなんですか?今、イー、ネヌ、エム、エー、と書かれた大きな扉の前にいるの」
「あなたなんてところに居るんですか!?あと何でメリーサン風?」
「すこし、開けてみるの」
「開けちゃダメですよ!?」
「今、おっきな赤い顔のおじさんがハサミみたいな道具を使って悪そうな顔したおじさんの舌を掴んで引っ張っているの」
「開けてる!?いや、直ぐ閉じてくださいよ!!」
「嫌なの」
「可愛くきっぱり断られた!?」
「今、悪そうな顔したおじさんの舌が長ーく伸びていってるの」
「実況を続けないでください!!え、舌が伸びてるの!?」
「あ、今、伸びた舌を閻魔様が離して凄い勢いで悪そうな顔したおじさんの顔にパチン!!ってなったの!!」
「あ、それ多分一番見てはいけない物です。すぐに閉じてください。早く!!」
「ごめん」
「・・・え?」
「見つかっちった。てへ!!」
「てへじゃないわぁああ!!最後までメリーさん風貫けやぁあああ!!」
「じゃ、切るね」
「切りやがったぁあああ!!」
うし、どうしよう?
◆◆◆◆
お、おお。これが閻魔様か、初めて見るな。そりゃ初めてか。いやしかし、デカいなぁ。そして、赤い。服は緑で、ふむ、中華風なのか。右手には舌ばさみ、と。もしかして:ヤバい。否!もしかしなくともヤバい!!
「お前、何者だ?」
周囲を見ながら心の中で指さし確認、誰も居ないっと、つまり僕!!
「あ、はい。オカです」
「オカか。とすると・・・オオニシか、担当は。はぁ、またか」
と、ため息を吐きながら眉間を揉む閻魔様。また?
「あの、閻魔様」
「あぁ、早い事出て行ってくれ、ここは私の私室なんでな。あまり見られたくもない」
「いえ、そうではなく。怒らないのですか?」
「ん?あぁ、別にこれぐらいの事じゃ怒らんさ。それに今はオフだしな」
「オフですか」
「うむ。昔は悪人の裁きは私一人で全てやっていたがな、人口の増加と共にそうは言ってられなくなり、分担するようになったんだよ。軽犯罪を犯してきた者の裁きは部下に、州犯罪は儂と言う風にな。かと言って、世界から犯罪や戦争は無くなることは無い、儂の仕事は増えるばかり。だからこうして、適度に休みを取っているんだ。その為の部屋なのだよここは」
「そうなんですか」
意外な閻魔様の一面を垣間見たという訳か。
「するとそれは?罰・・・ではないのですよね?」
僕の指す先には怖い顔のおじさんとその口から延びるベロンベロンのピンクの帯があった。
「あぁこれは・・・今度やる宴での余興の練習だよ」
そう言って閻魔様は舌ばさみをカチンと鳴らした。