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どうやら僕は死んだらしい。ダイナミックかつドラマチックな死に様だったと思う。なんせビルの爆破解体でここまで飛んでくるはずが無いと言われたビルの破片?で死んだのだから。まぁ、死んだのが友人じゃなくてよかった。自分が死んでちゃ元も子もないけど。最後の言葉くらい、もっとユーモラスに決めたかった。流石に「・・・なんじゃこりゃあ」は無い。ちょうど腹に当たった結果、咄嗟に出てしまった言葉とは言えどこれは無い。しかし、まさか死亡フラグが自分に適用されるとは思わなんだ。不用意に「俺、この解体が終わったら結婚するんだ」とか言うんじゃなかった。彼女も居ないのに。出来たためしもないのに。そもそも告白すらしたことないのに。それよりも・・・
「なんだここ?」
「ここは生涯支援センターです」
生涯支援センター?僕の質問に答えた声の方を向く。近っ!顔が真横にあった。中性的な顔立ちで体形もよく分からないが、事務服の様な服を着た人物が営業スマイルを掲げそこにいた。
「生涯支援センター?」
距離を取りつつ聞く。
「はい。あなたは不幸な事故と言う形で生涯を終えられた。それはお分かりですよね」
「えぇ、まあ」
曖昧に答える。理屈では理解しているが、感情では理解していない。その意思の表れでもある。
「それは死に方の一つです。あなたはいささか不幸にすぎますが」
やはりそうか。爆破解体というものは、綿密な計算によって成り立っているためそういう事故は滅多にない。やはり僕の不幸メーターが振り切れてしまっていたのだろうあの時は。
「ここでは、どんな形にせよ生涯を終えた方の今後をサポートをしております」
もう終わってるのにどうサポートするというのだ。安らかに眠れとかそういうのか。安眠枕でも売られるのか。
「詳しい話は座ってしましょう。あ、申し遅れました。私、オオニシと申します。短い間ですがよろしくお願いします」
「はぁ、よろしくお願いします」
何をよろしくするのか全く分からないが、これが挨拶なので仕方ない。名乗られたからにはこちらも名乗らなくてはいけない。
「オカ アキサメです」
「オカさんですね。こちらへどうぞ」
◆◆◆◆
生涯支援センター。その全容は知れないが、組織だって動いているもので、抱えている人間、それに掛かる人間も得てして多いらしい。僕は案内された席に座り周りを見回しながら聞く。
「自分が立っていたあの場所、あそこは何です?」
白い何もない空間であった。あまりにも突然で周りを見回す余裕など殆ど無かったが、人の気配はすぐそばに感じていた。
「あそこはここのエントランスホール、つまりは生涯を終えた方々が初めに来る場所ですね」
「という事は、死人はすべからくあそこにたどり着くという事か」
「あぁ、いえいえ少し違うのです。先ほどはどんな形にせよ生涯を終えた方がここに来ると言いましたが、条件があるのです」
「条件?」
「ここに来られるのは生涯を終える際に未練を残していた方たちです」
未練か・・・。あまりに突然であったが、考えてみれば、ふつふつと湧いて来るものがある。ポテチ食いたかっただとか、ゲームのエンディングを見たかっただとか、あのドラマの最終回を見たかっただとか、あの映画を見たかっただとか。小さなことばかり・・・あ、あったわデカいの。
「もっと面白く決めたかった」
「はい?」
オオニシはキョトンとした顔でこちらを見つめてくる。しかし、あえて説明はしない。
「うん。確かに未練タラッタラですね。ははは」
笑って誤魔化すが、オオニシは判然としない顔で話を続けた。
「そこで、この生涯支援センターはそんな未練を解決するためのサポートするために設立されたわけです」
「へー・・・」
いや、「へー」じゃない。僕は死んでいるのだ。認めたくはないが死んでいるのだ。ここからどう盛り返すというのだ。死者蘇生でもするのか。
「具体的にはどんなサポートを?」
「そうですよね。まずそこから説明しなくては」
曰く、今まで歩んできた道のりによって受けられるサポートが変わってくるという事。
曰く、サポートの幅は広くその範囲内であれば大抵のことは出来るという事。
曰く、これは重要な事であるが、お約束のごとくさっきまで生きていた自分としての復活は不可能である事。(これは、権利的な問題であるらしい。お役所らしく管轄外の様だ)
この三つが話を聞いた上での要点だろう。
「復活は出来ないのか・・・」
「済みません」
「あぁいえいえ、こちらこそ無理言って済みません」
正直言って、納得はしていない。と言うか無理だ。まずこの状況が理解不能なのだ。理解する事すらまともに出来ないこの状況で、納得云々が出来るはずもない。とにかく、考える時間が欲しい。まずは落ち着かなければ。その旨を伝えるとある部屋に案内された。
◆◆◆◆
「・・・なんで」
僕の部屋がここにある?
「これもサポートの一環です。あなたの今後が関わってくる事ですからね。やはり、落ち着く場所で考えてもらった方がよろしいかと思い、ご用意させていただきました。どうぞごゆっくりお寛ぎ下さい、用があればそこにある携帯からどうぞ。私に直通ですので」
そう言ってオオニシは扉を閉じた。
「うああー」
言いながらベッドに倒れ込む。ここが僕の部屋での定位置だ。ソファなどと言った高尚な物はない。僕の部屋にあるのはテレビとそれに繋がったゲーム機、ちゃぶ台と座布団、ノートパソコンと本棚、タンス位だ。実家暮らしなら普通だろう。強いて特徴をあげるなら本棚が五つある事だろうか、本棚とは言ったが、そこには雑多に物が入っている。小説、漫画、DVD、ゲーム、CD、某箱型パズル、ガチャガチャで集めた動物フィギア、貯金箱、目覚まし時計、携帯の充電器、携帯ゲーム機、ぬいぐるみ、折り紙作品等々、・・・整理整頓をしているとはいえ、いささか雑多に過ぎる。これはもう本棚とは言えないのではないのだろうか。事実、ベッドの横にある本棚はパソコンを見ながら作業する際の机と化している。寝転がりながら携帯の画面を開く。(いまだにガラケーだ。変え時が見つからない。)時間表示は15:00で止まっている。アンテナ表示は圏外だ。
「・・・・当たり前か」
そう呟いたが、当たり前も何も、そもそもこんな所に圏外も糞もないだろう。もし通じたとしても、電話を掛けたりすまい。死んだ友人、死んだ息子より掛かってきた電話など恐怖以外の何物でもない。更に言うなら、ベタ過ぎる。二番煎じ、三番煎じもいいところだ。そんなネタ、小学校の文化祭でもするものか。
「・・・しかし」
しかし、独り言が増えたものだ。こんな状況だ、独り言が増えるのも必然か?いや、待てよ。これは、今見ているこの全ては、僕の夢なのかもしれない。実は僕はまだ生きていて、読んで字の如く必死の救命措置の中、生死の境をさまよう僕はこの様な幻を見ているのかもしれない。そう、これは走馬灯の一種なのだ。走馬灯とは、危険を察知した脳が今までの経験から危機的状況から回避する術を探しているのだと聞いたことがある。だから、脳が今まで一番見て来たであろう僕の部屋がここにあり、今こうしてベッドに寝っころがっているのだ。
「・・・だめじゃん」
この部屋を見て、どうあの状況から脱すると言うのか。馬鹿、僕の馬鹿!!
思考の結果、僕は死んだ、おおよそ、きっと、ほぼ、たぶん、おそらく、もしかしたら、僕は死んだのだろう。勿論、生を諦めてなどいない。
「そう、僕は死なない!!」
拳を突き上げてみたが、一人だったので寂しいだけだった。