第37話 『“ラブラブ☆パワーで合体大作戦”フェイズ2』
大変お待たせしました。
「さーてっ! “ラブラブ☆パワーで合体大作戦”フェイズ2だよ! こんこん♪」
僕の体を乗っ取ったツッキーは、両手で狐の形にした。
「というか、これが龍ちゃんの体かー! うわ、意外と視線低いね!」
《ぶん殴るぞ!!》
僕の視線で周りを見渡すツッキーのコメントに怒鳴る。
そこまで小さくねえよ。男としたら小さいぐらいだ。
「龍ちゃん、激おこ?」
《僕にとって身長ネタはパンドラの箱なんだよ》
今に見てろ。いつかツッキーの身長を越してやる!
《今日から牛乳の量増やしてやる!》
「急な牛乳の増量は体を壊しちゃうよ? そもそも、龍ちゃんは小さいままで十分魅力的だよ!」
《え? それがフォローになるとでも思ってる?》
そんないつも通りの会話をしていると、突然豹変した敵に驚いて硬直していたシルヴィアさんが我に返った。
「……憑いている狐が出てきたのかしら」
「ザッツライト! 私は龍ちゃんの性奴隷の稲荷月道でーす! 気軽にツッキーって呼んでね。いやん♪」
「………………性奴隷?」
《シルヴィアさん反応しないでー! ツッキーの戯言はスルーして―!》
しかし、僕の必死の訴えは悲しいことに誰の耳にも届かない。
「あまり触れないでおくわね」
ああ、そういうシルヴィアさんの目が心なしか冷たく感じる。違うんです。
「そういうわけで、ここからは私がお相手しますよー!」
「いいわ。楽しませ頂戴ね」
シルヴィアさんはそう言って、細剣を構える。
「ご期待に添えれますか――、ねっ!」
ツッキーは一瞬でシルヴィアさんの懐に詰め寄る。
しかし、シルヴィアさんはひるまず、ツッキーの胸元に細剣を突き刺した――のだが。
「!」
次の瞬間、細剣を突き刺されたはずのツッキーの姿が一瞬で砂になり散ったのだ。
「あっははー! 甘い甘い! ほら、もみもみ~!」
「きゃっ!?」
いつの間にかシルヴィアさんの背後にまわっていたツッキーは、シルヴィアさんのお胸をがっちりと掴んでいた。
やっぱりやりやがったなー! 僕の体で!
「おおっ! 服越しでもこの触り心地! お客さん、良いお召し物をお持ちのようですなあ。ぐへへ」
「ぁんっ! このっ!」
シルヴィアさんはツッキーの手をすぐに振りほどくと、大きく距離をとり、指を鳴らした。
その瞬間に木の上や地面から鎖が飛び出し、ツッキーの体を拘束する。
「おおっとと!」
「や、やってくれたわね」
腕で自身の胸を隠し、顔を紅く染めるシルヴィアさんの表情はとてもお怒りでした。
シルヴィアさんごめんなさい! マジごめんなさい!
「鎖で拘束か~。もっと、こう、エロいのがいいな~。触手とか触手とか」
そして、シルヴィアさんの胸を鷲掴みにした当の本人は平常運転でした。
ほんと一回警察に連れて行った方が、世のため、人のためかもしれない。
「いやだって、龍ちゃん。鎖で拘束されるのと、触手に拘束されるのとどっちがエロいと思う?」
《心底どうでもいいわ!》
「じゃあ、鎖か触手に拘束されているのが、獣耳の美少女だったとしら?」
《…………………》
「ほらー! やっぱり龍ちゃんも触手派だー!」
《ち、ちちちげーし! 想像してないし!》
「もう、終わりにしましょう。ええ。そうしましょう」
ヤバイヤバイヤバイ!
シルヴィアさんの表情が世界を滅ぼそうとする魔王みたいな表情になってるぞ!
「これで終わりにしてあげるわ!」
シルヴィアさんがそう叫んで空に向かって手をあげる。
すると、ツッキーの周りの木々からガシャンと機械的な音とともに何かが顔を覗かせた。
それは銃身を環状に並べている構造の機関銃――ガトリング砲だった。
《おおい! ヤバイぞツッキー! ガトリング法が僕たちを囲んでるぞ!》
「……ガトリング砲を跨いで回転させると流石に“痛気持ちいい”とはならなそうだよね~」
《お前さあ!! なあ、お前さあ!!》
自重してくれよ! ほんとマジで!
このままだと拘束されたまま蜂の巣だってわかんないかな!
わかんないな、だってバカだもん!!
「死ねえっ!」
今までのお姉さんっぽい話し方だったシルヴィアさんがものすっごい直球の暴言と共に手を振り下ろした。
それで流石に僕も死を覚悟した。まさかこんな死に方をするなんて思わなかった……。
激痛を覚悟で目を閉じる(体は動かせないけど)。
《……………………って、あれ?》
しかし、痛みが一切襲ってこなかった。
なんとガトリング砲は一つも作動することはなかった。
「そんな、どうして!?」
このことはシルヴィアさん自身も驚いていた。
「あはは。危ない危ない。いや~怖かったね~」
《ツッキー?》
いつも通りの呑気な声をあげたツッキーは拘束していた鎖を体を捻り、あっさりと解いた。
《ええええええっ!》
なんで解けんの!?
いくら僕は体が動かせないとはいえ、がっちりと体を拘束していた感触はしっかりと伝わっていた。
それでも、この変態はいとも簡単にそれを解いたのだ。
……まさか、何かの術か?
「いやいや、術なんて使う必要ないよ?」
《じゃあ、どうやって?》
「ふっふっふっ。私は変態だよ? 得意な縛りは亀甲縛り! 縛るのも解くのもお手の物なのさ!」
初めてこいつが変態でよかったと思った瞬間だった。
「でもどうしてガトリングが……」
「いや~、シルヴィアさんはもしかしたら知らないかもしれないけど。この日本って国は、“銃刀法違反”って法律があるんだよ? だからこっそり弾をとって壊しておきました。えっへん!」
《いつの間に……》
「ふっふっふっ。私は変態だよ? 好きなプレイはSMプレイ! 去勢するのも不全にするのもお手の物さ!」
人生で何千回目のもう捕まっちゃえよと思った瞬間だった。
「というか、第一、化かしたり驚かせるのが得意な狐相手にトラップとか使われてもあんまり意味ないけどねー。鎖だって態と捕まっただけだし。あまり良い縛り具合じゃなかったけど」
「くっ……稲荷月道!」
「はいはい~?」
「あなたは天白龍也くんのことが好きなのかしら?」
「愛してます! あと毎日踏んでほしいです!」
その二つは普通は繋がらないんだよ、ツッキー?
「そう。……ならどうして邪魔をするの?」
「? 邪魔とは?」
「あなたが天白龍也くんを愛しているなら、彼の傍にいる五十嵐舞の存在はあなたにとって“邪魔者”じゃないの?」
「んー? あー、そーゆーことか」
ツッキーはシルヴィアさんの言いたいことを理解したのか、手を打った。
「わかってないなあ、シルヴィアさん。……さては処女ですね?」
「カチン」
「ああ、ごめんなさいごめんなさい! ちょっとした狐のジョークですから細剣を投げようとしないで! ほら、私も処女ですし!」
これは完全にツッキーが悪い。
「いやね、私は龍ちゃんのこと大好きだよ。すっごい愛してるし。龍ちゃん以上の男なんてこの世にいないし」
……ほんとこいつよくそんな恥ずかしい台詞、本人の前で言えるよな。
「だから、私は龍ちゃんにはずっと笑顔でいてほしい。もし舞ちゃんがいなくなったら…………きっと龍ちゃんは悲しんじゃう」
《ツッキー……》
「龍ちゃんには幸せになってほしいの! 例え私以外の好きな女の子とくっついても私は龍ちゃんが幸せだって笑ってくれたらそれでいいの」
お前ってやつは……。
「正妻になれなかったら、別に性奴隷でもセフレでも全然いいし!」
お前ってやつは!!
一秒でもまともでいられんのか! 僕の感動を返せ!
「あと変態の私が、猫耳黒髪の萌え萌え美少女を見す見す殺させるとでも!?」
《それが一番の本音じゃないよなお前!?》
それは言わなくてもいいだろ。
舞が美少女なのは認めるが。
「まあ、そんなわけで、私は龍ちゃんと舞ちゃんの味方なわけですよ」
「そう。……やっぱり、あなたたちはまだまだ子供なのね」
「?」
「やっぱりわかってないのよ。全てが未知の人外がこの世界に与える影響を」
「話は龍ちゃんからさらっと聞いたけど、別に今まで世界が滅びたことないよ?」
「それは私たちのような専門家が対処をしているからよ。あなたたちが知らないだけで、世界が滅びかけたことなんて山のようにあったのよ?」
「ほんとに?」
「本当よ」
《……あのさ、ツッキー。僕と代わってほしい》
「え~、もっとしたいこといっぱいあるのに~」
《いや、冗談とか抜きで》
ツッキーは少し渋っていたが、それでも承諾してくれた。
今度は魂が引きずり出されるような感覚がし、一瞬で体の自由が戻ってきた。
やっぱり自由に体が動かせるっていいなとしみじみと感じた。
「あの、シルヴィアさん。あの時言いましたけど、もう一度言わせてください」
「? あら。もしかして、天白龍也くん? やっと体を返してもらえたの?」
「はい。……あの、さっきは、ツッキーがすいません……」
ツッキーの代わりに頭を下げた。
本当に申し訳ない。
《え~。私別に何もしてないよ~》
「はあ。別にいいわ。……あなたも苦労してのね」
《二人とも酷くない?》
酷くないです。
「話を戻します。最初に会った時、言いましたよね。舞はあなたが言うようなことは絶対にしないって」
「言ってたわね。でも、彼女自身の意思とは関係なく起こってしまうことだってあり得るの。被害が出てからでは遅いのよ」
「だったら僕が食い止めます。僕が舞の傍で、舞のことを見張ります。舞が無害だってことを証明してみせる」
「あなたに対処できるとでも?」
「してみせる。あなたたちに舞を殺させない。絶対に!」
「そういうところが子供だって言ってるのよ」
「そうだよ! 僕も舞も子供だ! まだ高校生になったばっかりだ! 始まったばっかりなんだよ! だから終わらせるもんか!」
「……聞き分けのない子供にはお仕置きが必要かしら」
シルヴィアさんの雰囲気が変わる。
今までにないほどの威圧感に身体全体を締め付けられるようだ。
いや、今まで戦ってきた奴らよりも痛烈な殺気だ。
これが危険な人外を処分する専門家の本気か。
……でも負けるわけにはいか――――。
《はいは~い! まず、龍ちゃん落ち着こうね~》
突然先程と同じように体の自由が利かなくなった。
一瞬でそれがツッキーに体の所有権を奪われたのだと察した。
「ふぅ~。龍ちゃんの体は扱いやすいね。やっぱり相性がいいのかな!」
《うおおぁい! 今そんな場合じゃないだろ!》
最終決戦だよ! ふざけてる場合じゃないんだよ!
「だから落ち着いてよ、龍ちゃん。ラブ&ピース! 無駄な争いはしなくていいんだよ。私がなんとかしてあげるから」
《いや、それが心配なんだよ!?》
さっきまでの言動、思い出してみてよ!?
「あのー、シルヴィアさん? あ、私ツッキーだよ」
「……稲荷月道?」
「露骨に嫌な顔しないでよ!?」
僕とツッキーが入れ替わったことを知った瞬間、シルヴィアさんが露骨に嫌な顔をする。
いや、そんな顔にさせるようなことお前してたんだよ。
「こほん。まあまあ、龍ちゃんの代わりに相手してくださいません?」
「あなたを相手にする気なんて、微塵もこれっっっっっぽっちもなんてないわ」
「ちょっ、そんなこと言われたら…………ちょっと興奮しちゃうかも」
「…………」
《ほらー。そういうところだってー》
話が一向に進まない。
シルディアさんの目が未だかつてないほど冷め切っていた。
ただね、シルヴィアさん。その目は逆効果なんですよ。
「はうっ。そのゴミを見る目、興奮しちゃう。あ、いやじゃなくて。この対決ってシルヴィアさんに『参った』って言わせれば勝ちなんですよね」
「そうよ」
「とりあえず、この対決に勝てば、あなたは舞ちゃんから手を引いてくれるんですよね」
「そういったはずよ」
さっきからシルヴィアさんの反応が冷たすぎる。
仕方ないとは思うけど。
「じゃあ、無理に説得せずにあなたに勝っちゃえばいいわけですよねっ!!」
「!!」
シルヴィアさんの周りに大小色々な大きさの魔法陣?が一気に展開され、無数のうねうねした何かが飛び出した。
さっきから色んな所から壁がでたり鎖がでたりガトリング法がでたりしたわけだが、陣から飛び出したものは一番異様なものだった。
少し緑色でテカってるうねうねしたもの――触手だった。
《うわ、きもっ!》
ほんとに存在したんだ! マジ気持ち悪い!
リアルで見るとマジキモイ!
「いやっ! ちょっ、きゃあっ!」
そして気持ち悪い触手に囲まれたシルヴィアさんはあっさりと捕われてしまった。
……嫌な予感がする。
「ふっふっふっ。別に殴り合い、斬り合いの喧嘩なんてする必要はないんだよ。――そう相手の心を折っちゃえばね!」
「な、なにをする気っ!?」
ツッキーの不敵な笑み、もとい下心剥き出しの笑みにシルヴィさんの顔が引き攣る。
「さっき鎖で縛ってくれたお礼に、触手で気持ちよくしてあげようかな~って」
ツッキーの言葉に反応するように、シルヴィアさんに巻き付いていない触手が不気味にうねうねしている。
「…………」
シルヴィアさんは絶句した。
顔色もみるみる血の気が引いていくのが見てわかった。
「じゃあ、早速――」
「ちょ、ちょっと待って! と、とりあえず話し合いましょ!!?」
シルヴィアさんが今までないほど焦っている。
体をじたばたと動かすが、拘束している触手はビクともしなかった。
見た感じコンニャクみたいなそれなのになあ。
「確かに前座無しは少し怖いですよね」
「そ、そういうことじゃないの! わ、わかった! 『参った』! 降参! 私の負けでいいから!!」
「大丈夫! ……痛いのは最初だけですから」
「話が全然通じてない! 助けてえ! 龍也くうううううううん!!」
《……ごめんなさい。僕、身体の自由が利かないんです》
「それじゃあ、録画スタート♪」
「いやああああああああああああああああああああああっ!!!」
そうしてシルヴィアさんの触手プレイが開始されてしまった。
シルヴィアさん、あなたの事は忘れないよ。
そして、カメラで録画までしているツッキーは、本当に最低だと思った。
僕はできるだけ彼女の尊厳のために彼女のあられもない姿を見ないように努めた。
もちろん体は動かせなかったけど。
◆
「うぅぅっ、ぐすん、ふぇっく、ひっく、ふぇっく」
数分後、触手から解放されたシルヴィアさんはなんだかよくわからない液体でベタベタのびっちゃびっちゃになっていた。
《……あーあ、泣ーかしたー、泣ーかしたー。せーんせーに言ったろー》
「さ、流石に普通の人にはやり過ぎたかなあ。あはは」
目の前で大の大人が大泣きしている。
しかも原因が原因である。居た堪れない。
「と、とりあえず、泣き止んでくださいよ~」
「ぐすん、ぐすんっ」
「もうだいじょ~ぶでちゅよ~」
《おい、やめたれ》
ツッキーは赤ちゃん言葉であやそうと試みたようだ。
トラウマになるぞ。少しはそっとしてやれ。
「うぅっ、こどもじゃ、ひっく、ない、もん……」
こっちはこっちで幼児退行してやがる。
……なんだろう、この状況。
「よし。龍ちゃん、チェンジ!」
《あ、こいつ!》
そして再び戻ってくる体の感覚。
ツッキーが全て僕に丸投げし、身体の奥の方に引っ込みやがった。
「くそっ、逃げやがったか。……あの、シルヴィアさん」
「ひっく、にゃによぉぉ……」
「僕たちの勝ちってことで良いですよね……?」
《うわお。龍ちゃんも泣いてる人に追い打ちかけるねえ》
うるさい。こうでもしないと話が進まないんだよ。
「うああぁぁぁん、もういいわよぉぉ、すきにしなさいよぉ……」
こうして、僕たちは見事(?)シルヴィアさんに勝利したのであった。
《やった! これで一件落着だね!》
一件落着、なのか?
戦いで荒れた一面となんかよくわからない液体でびっちゃびっちゃになって大泣きしている修道女。
そしてその場で遠い目をしている狐耳の女の子(男)。
果たしてこんな光景を見た第三者は一体何を思うだろうか。
……とりあえず、泣きじゃくるシルヴィアさんを泣き止ませよう。
これ、先程の戦いよりも骨が折れるかもしれないな。
作者すら内容が追憶の彼方です。
~おまけ~
ツッキー「龍ちゃん龍ちゃん! “お年玉”あげる~」
龍也「最初に言っとくけど、『お年玉は、わ・た・し!』とか巨乳を持ち上げて落として“落とし玉(乳)”っていうオチはなしだからね」
ツッキー「…………」
龍也「ワンパターンすぎる」
ツッキー「こ、こうなったら龍ちゃんのおっぱい落とすし!」
龍也「他人のおっぱいを落とすな!」
藍「……あんたたち、新年から何言ってんのよ」