第36話 『トラップ』
明けましておめでとうございます。
今年もゆっくり書き続けていきます。
ツッキーに取り憑かれました。そして、女の子になりました。
……どうしてこうなった。
《いや~、初めてやってみたけど大成功だったねえ!》
直接脳内に話かけてくる能天気なツッキーにため息が出る。
大成功ってどこが大成功なのだろうか?
《え? だって、こうして龍ちゃんと性的……ではないけど、心と体が一つになれたんだよ?》
なれちゃいましたねえ。不本意ながら。
《でも、いずれ性的にも一つに……》
そんな未来が来ればいいですね!!
《あと、龍ちゃんが狐耳の美少女になっちゃったんだよ!? これを“大成功”と言わずになんと言うの!!?》
「“大失敗”だよ!!」
「ど、どうしたの?」
ツッキーの戯言に耐え切れずに、ついに叫んでしまった僕に対して、シルヴィアさんから心配の声を掛けられた。
ただ、その眼は完全に危険な人を見るようなそれになっていた。
「あ、いえ、すみません。ちょっと取り憑いてる奴と話してただけなんです」
「そ、そうなのね。なんだか表情を見る限り……その、大変そうね」
敵である彼女にまで同情されてしまうとは……。
《それにしても、本当にシスターさんだね~。…………くそっ、エロい生物がどっかにいないかなぁ》
「それで、あなたに勝てたら舞を諦めてくれるんですよね?」
「ええ、そのつもりよ」
「わかりました。今すぐ始めましょう。さっさと始めましょう。とっとと始めましょう」
「あなた……死んだ魚のような目をしてるわよ」
「早く人間に戻りたいんですよ」
正確には、人間じゃなくて竜人だけどね。
そんな細かいことはいいか。
《えー? でも、龍ちゃん、この姿になって半分嬉しかったでしょ?》
そ、そんなことねーし! 別に狐耳と尻尾なんて嬉しくなんかねーし!
《そんなこと言っても、私は龍ちゃんに憑りついてる状態だから龍ちゃんの思ってることわかるよ?》
な、なんですと?
くっ、すぐにケリをつけなければ!
「あなたの勝利条件は、私に『参った』と言わせること」
「えっと……それだけ?」
「ええ」
「マジ?」
「もちろん。でも、そう簡単にいくかしら」
シルヴィアさんは不気味に微笑んだ。
《龍ちゃん、いくらシスター服の美女でも戦闘中にエロい妄想しちゃだめだよ!》
「するかぁ!!」
僕は叫ぶと同時にシルヴィアさんへ駆け出した。
シルヴィアさんの手には何も握られていなくて、武器らしきものは見当たらない。
見る限り丸腰のようだ。
今のうちに一発でも攻撃を仕掛ければ!
そう思って、駆け出したのだが……。
「………ぅへ?」
何かを踏んだと思ったら、視界が文字通り百八十度変わっていた。
シルヴィアさんの方向に走っていたはずなのに、僕の視線の先にあるのは、さっき僕がいた場所。
しかも、それが上下逆さまで映っている。なんで僕の頭上(?)に地面があるの?
次の瞬間、僕は頭から地面に落ちた。
「きゃんっ!」
何とも可愛らしい悲鳴が出た。
いや、そんなことはどうでもいい!
《きゃああ――――っ! 龍ちゃんの悲鳴かわいい! 脳内録音しなくちゃあ♪》
いや、そんなことはどうでもいい!!
一体何が起こったんだ!? 何か踏んだと思ったら空中で逆さまになってた!
《ハァハァ。あのね、ハア、龍ちゃんはね、ハァハァ、トラップに引っかかったんだよ》
「トラップ!? そんなものがあったのか!」
つか、息整えようぜ。
「そう、トラップよ。まあ、今のはちょっとわかりやすい悪戯のつもりだったんだけど」
シルヴィアさんは、涙目で打ちつけた頭を擦る僕を微笑ましそうこちらを見ている。
「因みにここには、百八個のトラップを仕掛けておいたんだけど」
「ひゃっ……!?」
「て言っても、貴方が狐を憑かせてきたからねぇ。その所為で、トラップの内の五十三個が無駄になっちゃったわ」
それでも、さっきのを抜いて五十四個もトラップが残ってるのか……。
いや、逆にツッキーが付いたことで半分近くトラップが使えなくなったことをラッキーだと思えばいいんだ。
「そうだ! まだまだこれからだ!」
自分に言い聞かせて、立ち上がる。
そして、再び何を踏んだ感触が靴の下から感じた。
「……あれ?」
その瞬間、細長くて鋭い何かが僕目掛けて飛んできた。
「うおあっ!」
間一髪でそれを避けたが、バランスを崩して尻もちをついてしまった。
細長い何かは僕を通り過ぎ、シルヴィアさんの方へと飛んでいく。
「はい。キャッチ」
シルヴィアさんはそれを掴んで止めることで、それが何なのかハッキリとわかった。
「さ、細剣?」
それは細身の剣――細剣だった。
「そう。トラップの一つに隠しておいたの。よかったわね、天白龍也くん。これで残りのトラップは五十三個よ」
そう微笑みかけてくるシルヴィアさん。
「アハハ……多いなあ」
乾いた笑いしか出てこない僕。
僕、もう駄目かもしれん。
◆
「ひいいいいい!」
あれから数十分後、僕は森の中を逃げ回っていた。
《龍ちゃん! 逃げてばかりじゃ勝てないよ!》
「そんなこと言っても! 流石にこんなにトラップがいっぱいだ、とおぉっ!?」
言ってる傍から足元に張ってあったワイヤーに引っかかり、つんのめりなる。
突然、つんのめりになった僕の前後左右から石の壁が地面から生えてきた。
「何これ!? いきなり囲まれた!?」
ていうか、ワイヤーに引っかかっただけで地面から石の壁が出てくんの!?
《龍ちゃん、隣の壁がどんどん近づいてきてるよ!》
「うそぉ!?」
ツッキーが言った通り、左右の壁がどんどん近づいてきている。しかも意外と早いぞ!?
ど、どうする? 前後も壁で塞がれてるし、このままだと逃げられずにぺっちゃんこだぞ!
「え、えとえと! あっ、ほ、〈ホール〉!!」
少し前に巨人との戦いで使った穴をあける魔法で、壁に穴をあけてそこから脱出する。
振り返ると先程迫ってきていた石の壁が轟音と共にぶつかっていた。
ぎりぎりだ……!
そして再び前を向くと、微笑むシルヴィアさんと目が合った。
「脱出お疲れさま」
そういいながら、細剣を素早く突き刺してくる。
「だから怖いですよぉ!」
それを全力で躱して隙をついて逃げ出す。
どうやらツッキーが憑いたことで、体が軽やかになったようだ。
竜人の状態がパワー型だとすれば、今の状態はスピード型だと例えよう。
でも。
「な、なんだか……た、体力がなくなってる? はぁ……はぁ……こ、こんなはずじゃあ……」
竜人として覚醒してから格段に体力や持久力が上がったはずなのに。
すぐに息が上がってしまう。
僕は木の陰に身を隠した。
《確実にその姿になったからだろうね。女の子の体だし》
「そうだよなあ。あと、胸が……重い」
僕は自分の胸部を見下ろしながら言う。
その胸部は自分の小さかった体(自虐)が女の子になってさらに縮んだ体と不釣り合いなほどその存在を主張していた。
まあ、要するに。
《ロリ巨乳だね!》
「…………ロリって言われるほど小さくねえし」
まずロリじゃねえし。
まだ成長期だし!
まだまだ大きくなるし!!
《まだそのおっぱいは進化を残しているというの!?》
「身長の話だよ!!」
おっぱいはもういいよ!
どうせこの戦いが終わったら元に戻るんだし!
《えー。龍ちゃんの体には、まだまだおっぱいの可能性を秘めてると思うんだよ!》
お前は僕の何処を見てきてそう思ったんだ!
もういいよ! 閑話休題!
「でも、どうしようか。攻撃しようとしたらトラップに誘導されるし、このままだと一方的だし」
《ふっふっふっ! 龍ちゃん、私に秘策があるのだよ!》
「だが断る!」
《ええっ! 酷くない!? まだ何も言ってないのに~》
いやだって、ツッキーの作戦の所為で僕はこの体になってるわけだし。
さすがにこれ以上俺の体に何かあったら……。
《大丈夫だよ! 少なくともこのままの状況を続けるよりかは、マシだと思うよ》
ぐぬぬ。
認めたくないが、ツッキーの言う通りである。
このまま逃げても埒が明かないし、攻撃しようにも躱されてトラップに引っ掛けられてしまう。
「でもなあ、ツッキーだもんなあ」
《迷ってる時間はないよ~、龍ちゃん~》
ぐぬぬ。ここはツッキーに従うしかないのか。
「……わかった。その秘策とやらをお願いするよ」
《ほい来た! それじゃあ、選手交代だね、龍ちゃん!》
「え、どういう……?」
言い終わる前にまるで魂が引きずり込まれるような感覚に陥り、そのまま体の自由が利かなくなって膝をついてしまう。
あれ? なんか体に力が入らなくなったですが?
「天白龍也くん、みぃーつけた♪ どうしたの? もう疲れちゃった?」
そうこうしてる内にシルヴィアさんに見つかってしまった。
でも、僕は膝をついた状態から動けなかった。
意識がないわけじゃない。なのにまったく体が動いてくれない。
まるで、誰かに体の主導権を奪われたような。
《……って、まさか……!》
膝をついていた僕の体は突然、立ち上がった。
もちろん、僕の意思ではない。
体が勝手動いている。
誰かに体を動かされている。
そして、また僕の意思とは関係なく、僕(?)の口が動いた。
「さーてっ! “ラブラブ☆パワーで合体大作戦”フェイズ2だよ! こんこん♪」
そうして、僕(?)は両手で狐のようにした。
もちろん、僕の意思ではない!
そんなあざとい仕草なんてするわけがない。
要するに。
《ツッキー、やっぱりお前かああああああああっ!》
ツッキーに取り憑かれました。そして、女の子になりました。
その上、体のコントロールを奪われました。
……どうしてこうなった。
おそらくこの話は、またすぐに修正します。
~おまけ~
夏海「龍也がついにロリ巨乳に!」
龍也「だからロリって言われるほど小さくねえし! 母さんよりでっかいし! 縮んだって言ってもほんのちょっぴりだし!」
夏海「別にムキにならなくても……。むしろ大きくなったおっぱいを張るべきよ!」
龍也「くそー。なんで女になっただけならまだしも、なんで胸が大きくなるんだ」
夏海「うーん。憑りついてるツッキーちゃんが大きいからなのかな? あ、でも、私とダーリンの家系ってどっちも胸が大きい人が多いから、それでかな?」
龍也「……その割には、母さんは全体的に小さいけど」
夏海「ふっふっふっ! 私はね、この小説ではロリババア枠を狙ってるの。だから、私には巨乳も貧乳も関係ないの! ロリであることに誇りを持っているの!」
龍也「そんな誇り捨てちゃえよ」
夏海「というか、ダーリンも私のこの体に欲情してくれるから♪ キャッ♪」
龍也「僕の両親もう駄目だ!!」