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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
2章 《知らない過去》
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第29話 『急襲』

久々の執筆でいつも以上に腕が鈍って……。

 私の両親は、今日の朝から沖縄に旅行に行きました。


 どこかの懸賞に沖縄旅行のペアチケットが当たったらしいです。

 本来なら私もその旅行について行こうかと思っていましたが、偶然にも今年が私の両親が結婚してから丁度二十年になるので、両親に二人きりで行ってもらうことにしました。

 新婚当時の気分を少しでも味わって欲しいという娘からの小粋な贈り物なのです。

 というわけで、今日は一人です。

 両親がいないため、少し気を緩め過ぎたかもしれません。

 携帯の画面に表示されたデジタル時計を見るともう午後七時でした。


「少しはしゃぎすぎましたね」


 幾ら両親が不在だからと言っても、ショッピングモールで買い物をし過ぎました。反省です。


「それにしても、誰もいませんね」


 周りを見ても誰もいません。

 いくら夜の七時でも誰か通りかかると思うんですが……。

 まるで、人よけの魔法が発動してるみたい――――、


「五十嵐舞」


 背後から名前を呼ばれ、振り返りました。

 そこにいたのは、修道服を着た女性とウエディングドレスを纏った無表情の小学生(高学年)ぐらいの女の子でした。


「…………」


 何でしょうこの二人組。

 修道服とウエディングドレスに共通点があるんですか?

 というか、どうして私の名前をご存知なんでしょうか?

 私はスカートの中の拳銃にこっそり手をかける。


「あの、何処かで会いましたか? だとしたら、すみません。私はあなた達を覚えていません」


 修道服の女性は、首を左右に振りました。


「いえいえ。初対面よ。初対面過ぎて笑っちゃうくらいに」


 そう言いながら、ころころ笑う修道服の女性。

 あの……笑えないんですが……。


「だったら、挨拶が必要ですね」


 スカート内の拳銃をひそりと握りました。


「ええ、そうね。挨拶がてら――」


 私はスカート内から瞬時に拳銃を取り出しました。


「死んで頂戴ね」


 修道服の女性が言うのと同時にウエディングドレスの少女が地面を蹴りました。


「っ!」


 一瞬で私との距離を縮められた。意外と脚力が半端ないです。

 少女はいつの間にか振り上げていた拳を振り下ろしました。

 私は両手の拳銃の銃身を咄嗟に盾にしてガードしました。

 しかし、その少女の拳は小学生とは思えない、まるで鉄球をぶつけられたような力でした。


「重い……っ」


「…………重くない」


 無表情のままウエディングドレスの女の子は答えました。

 その声は無機質(・・・)というかまるで人形(・・・・・)のようで――――。

 

「!」


 そう思った時には、女の子の足が目前にありました。

 咄嗟に顔を逸らして紙一重でかわしました。

 そして、バックステップで女の子から距離を取ります。


「…………あなた人間じゃないんですか?」


 先程の攻撃、あれは人間にしては速過ぎます。

 だとすれば……。


「…………そう。…………かもしれない……?」


 しかし、返ってきたのはそんな曖昧な言葉でした。


「ふふ。しかし、中々やるわね。人外だからかしらね」


 修道服の女性がウエディングドレスの女の子の横に並びました。


「どうでしょうね。私にはわかりません」


「あらそう? それでも、いつまで戦い続けられるかしらね」


 修道服の女性は細剣を構えました。

 確かに二対一だと分が悪いです。

 どうにかして逃げないといけませんね。

 それにしても、どうしてこの二人は私を狙っているのでしょうか。

 それを訊いたところで答えてくれる気もしませんが……殺す気満々ですし。


「ちょおおお――――と待ちなさい!」


 突然響き渡った声と共に私と二人の間に何やら飛んできて、地面にブッ刺さりました。

 地面に刺さったそれはチェーンソーでした。

 しかも、その刃は未だ回転して地面を抉っています。


「ちょっとあんた、どうしてあたしの友達に手を出してるのかしら?」


 私と二人の間に立ったのは、藍ちゃんでした。

 藍ちゃんは地面に突き刺さったチェーンソーを引き抜きました。

 どうやらチェーンソーをブッ刺したのは藍ちゃんだったようです。

 というか、チェーンソーってどこでそんな危険なものを……。


《 とうっ! 》


 すると今度は、街灯に照らされてできた藍ちゃんの影から一人の女の子が飛び出しました。

 

「しゅたっ!」


 と、影から飛び出した女の子は自分で着地音を言いながら着地しました。


「ふっふっふっ。まさかこんなところで修道服を見られるなんて! 奇跡! アンビリーバボー!」


 ……なんだか凄く喜んでいます。

 あ、ああ、この子がついこの間龍也さんから聞いた凛ちゃんですね。

 想像以上の性格にびっくりです。


「ふふふ。まさか喜んでもらえるなんて思わなかったわ」


 と修道服の女性は笑う。

 私も同意します。


「そんなことはどうでもいいのよ凛。あたしが言ってるのは、どうして舞ちゃんを襲ったのか訊いてるのよ」


「『どうして』と問われても、それが仕事なの」


 修道服の女性は、そう言ってほほ笑みました。


「ふーん。まあ、どうでも良いわ。そんなことよりも、舞ちゃんをイジメたら許さないわよ――――」


「藍ちゃん……」


「――凛がね!!」


「あれっ!? 私ッ!?」


 全てを凛と呼んでる少女に任せた藍ちゃんは、ドヤ顔をしていました。

 ……藍ちゃんって、偶にボケキャラにシフトしちゃいますからねえ。


「ちょっと、あーちゃん! あーちゃんも頑張ってよ!」


「頑張るわよ――明日から!」


「今、この場から頑張って!」


 よくこんなシリアスというか真面目な場面でボケちゃいますよねー。


「あたしは明日のあたしを信じてるの!」


「今の自分も信じて!」


 ……もうそろそろ止めてあげないとダメかもしれませんね。


「あー、私たちはあなたたちの漫才に付き合っている時間がないのよ。私はあまり人よけの魔法は得意じゃないし」


 そう二人の漫才(?)に終止符を打ったのは修道服の女性でした。そりゃそうです。


「じゃあ、どうするのかしら。このまま戦う? 殺し合う?」


 藍ちゃんがチェーンソーを振り回しながら言いました。

 危ないです。非常に危ないです。

 拳銃でガン=カタのような戦いをする私も人のこと言えませんが、チェーンソーは危ないです。


「いえ、今回はいいわ。別に急ぎの仕事でもないから」


「いさぎが良いわね。……でも、後悔するんじゃないわよ。今回を逃したら今よりも確実に舞ちゃんを狙いにくくなるわよ」


「あら、それはどうしてかしら? まさかあなたがボディーガードにでもなるつもり?」


「そのまさかじゃないわよ。あたしなんて本来なら戦いを観戦する傍観者なのよ。正直戦い慣れてるあんたとこうやって向かい合ってるだけでも足が竦んでの動けないのよ。か弱い乙女だから」


 か弱い乙女はチェーンソーを振り回さないと思うのですが……。


「あらあら。それは困ったわね。じゃあ、どうするつもりなのかしら」


「別に。なんのことはないのよ――――」


 藍ちゃんは、言いました。

 なんの躊躇もなく淡々と答えました。


「あたしの幼馴染がなんとかするわ。それだけよ」


 ………………。

 全部龍也さんに丸投げした――ッ!!?



   ◆



 その後、名前の知らない二人組は何処かに行ってしまいました。


「で、さっきの人たちって誰? 愉快痛快奇々怪々が服を着て歩いてるあの二人組は」


「わかりません。さっきいきなり襲われて……。でも、藍ちゃんはどうしてここに?」


「ちょっとあたしの幼馴染のところにご飯をたかりに行くのよ。あ! 丁度いいから舞ちゃんも来なさいよ! 今日ご家族が旅行に行ってるんでしょ?」


「それはまあ、そうですけど。龍也さんは……」


「あいつなら別に気にしないでしょ? ほら、さっさと行くわよ」


 藍ちゃんに背中に押され、龍也さんの家に向かうことになりました。

 凄く龍也さんに迷惑です。

 しかし、背中を押されながら、ふと思いつきました。

 さっきの二人組はいきなり去りましたけど、またすぐに戻ってきて襲いかかってくる可能性もあります。

 その可能性を考えた上で、藍ちゃんは少しでも安全な龍也さんの家へと私を連れて行こうとしているだということを考えていたようです。

 ……やっぱり藍ちゃんは頭良いですね。


(あ~、早く行ってご飯食べたいな~。べ、別にあいつが作ったものとか関係なく!)


 藍ちゃんはそんなことを微塵も思っていないことをこの時の私は知りませんでした。

 だけど、羨ましいです。そこまで龍也さんに頼れる藍ちゃんが羨ましいのです。

 私も昔のように(・・・・・)龍也さんと…………。

 


  ◆



「いらっしゃい。上がって」


 私の突然の来訪に龍也さんとアリスちゃんは嫌な顔一つせず、迎い入れてくれました。

 しかし、龍也さんの顔は何か悟っているような表情でした。


「ちょっと汗かいちゃったから、風呂借りていい?」


「あ、はい。浴槽は既に洗っていますので、お湯を入れますね」


 藍ちゃんが言うと、アリスちゃんがそう答えた。

 アリスちゃんが万能過ぎます。感心します。


「それじゃあ、一緒に入りましょう舞ちゃん」


 と感心していたところで藍ちゃんに誘われました。

 ……どうしてそんな考えに?


「問題ないわよ。こいつん家は結構風呂広いのよ」


「関係がないですよ!?」


「だって、広いお風呂に一人ってなんか寂しいでしょ。それに女の子同士なんだから恥ずかしくないでしょう」


「はぁ……、わかりましたよ。別に断る理由もないですしね」


 藍ちゃんと一緒に入ることになりました。

 まあ、別に下心はないでしょうしね。……多分。

 とりあえず、お湯が入るまで居間で待たせてもらうことになりました。

 龍也さんが夕食の準備をしているのに、なんだか申し訳なくなりました。



   ◆



 互いに二人で洗いっこして、二人並んで入浴しました。

 いくら少女とはいえ、女子高生が二人並んで入れる浴槽は大きいと思いました。


「あのコスプレ二人組の目的は何なのかしらね」


「それは……わかりません」


 心当たりがないとは思えませんが、正直なところはよくわかりません。


「あのっ」


 と、扉の向こうの脱衣所から声をかけられました。

 声の主はアリスちゃんでした。

 

「代わりの服ですが、私の寝巻きでもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。ありがとうございます」


「それでは、ここの籠の中に入れて置きますから」


 そう言うと脱衣所から出ていく音がしました。


「うーむ。やっぱり気が利くわね」


「そうですね。アリスちゃんは龍也さんに似て、とても優しい子です」


 思わず二人でアリスちゃんの気づかいに感心しました。


「……それにしても、凄く殺る気だったわね。あいつら」


「はい。藍ちゃんが来てくれなかったら、私は確実に……」


「何とかなったから良かったものだけどね。正直、あの時は――――本当に怖かったわ」


 チェーンソーを振りまわしていた藍ちゃんも怖かった、とは口が裂けても言えません。というか、言ったら藍ちゃんに口が裂かれます。


「あの時は後ろに舞ちゃんがいたし、凛もいたから大丈夫だったけど、あたし一人だったらどうにもできなかったわ」


「………そうですか」


 それでも、あの状況で私の助けに入ってくれた藍ちゃんは凄く強くて素敵でした。


(なんだか舞ちゃんに凄い尊敬するような目でみられてるんだけど……、あたし何か言った?)


 私の視線に何か感じた藍ちゃんは、何か気まずそうに顔を逸らしました。


「もうそろそろ上がりましょう。龍也さんたちをあまり待たせるのは悪いですし」


「そうね」


 藍ちゃんも頷いて、私たちは浴室から出てました。

 そして、アリスちゃんから貸してもらったパジャマを着ました。


「…………まあ、他人の物だからサイズは合わないわよね」


「…………そうですね。主に胸囲の部分が……」


 あは、あははははははははははは。


「「はあ……」」



   ◆



 居間へと向かうと机の上には多くの食べ物が並べられていて、五人分のご飯が準備されていた。

 ……あれ? 五人分? 一人多い気がするんですが?

 えーっと、龍也さん、アリスちゃん、藍ちゃん、そして私。……やっぱり一人多い気がするんですが?

 それについて尋ねようとした瞬間、声が聞こえてきました。

 藍ちゃんの影の中から。


《 ちょっと、あーちゃん! ストッププリーズ! 》


 藍ちゃんの影の中から飛び出したのは凛ちゃんでした。


「ちょっとどういうこと! 私がちょっと影の中で、ぐーすか寝てる時に入浴するなんて! 私も一緒に入りたかったよ!」


 凛ちゃんは、頬を膨らまして藍ちゃんに詰め寄ります。 

 しかし、藍ちゃんは涼しげな顔で応じました。


「だって、あんたと一緒に入ると絶対セクハラするでしょ?」


「おいおい、あーちゃん。私がそんなおっさん染みた真似をするとでも?」


「当たり前じゃない」


「あれっ!? 即答!? 何それ酷い!」


 なるほど。凛ちゃんもツッキー先輩のような女の子なんですね。


「うわーーん! りゅ~~~く~~~ん!!」


「へぶらっ!」


 涙目になった凛ちゃんが龍也さんにタックルをしました。

 な、なんて羨ま…………です!


「うぅぅ……じゃあ、りゅーくん。一緒に入ろ?」


「「「はあっ!?」」」


 異口同音で驚愕しました。

 い、いきなり何を言ってるんですか!?


「あ、あんた、何て事いってんのよ! この痴女!」


「ふーんだ! 私に黙ってお風呂に入るなんて意地悪な事するなら、私はりゅーくんと一緒にお風呂でイチャイチャするもんねー!」


 ……そうは言っても、勝手に巻き込まれた龍也さんは……。


「凛、流石にそれは無理かなー……なんて」


 と顔を少し赤くして応えた。

 そ、そりゃそうですよね。そんな羨まし……ことなんてそうそうできるものでもありませんよ。

 それを聞いた凛ちゃんは崩れ落ちました。

 自業自得と言えばそうなんでしょうが、少し可哀想過ぎな気も……。


「うわああん! りゅーくんのバカ! アホ! バカ! アホォ!」


「罵倒が二種類しかない!?」


 号泣です。

 と絶望に打ち拉がれている凛ちゃんに救いの手を差し伸べたのは、勿論アリスちゃんでした。


「あの、もしよろしければ、私と一緒に入りませんか?」


「え? いいの?」


 思いがけない救いの手に目をぱちくりとさせる凛ちゃん。

 勿論その問いにアリスちゃんは頷きました。


「やったあ! ありがとうスーちゃん! やっぱり心の大きさは、胸の大きさとイコールなんだね!」


「おや? こんなところに雑音が出る穴があるわ。うるさいから塞いじゃお~と」


「いやあああああ! 初めてもまだなのに! 拡張しちゃう! ガバガバになっちゃううううううう!」


 ……この二人、実に仲の良いですね。

 でも、藍ちゃん。流石にそれは人体の限界を超えちゃうんじゃ……?


因みに凛はスーちゃん(アリス)とは龍也ん家の勉強会の時に面識があります。


 ~おまけ~


凛「はじめまして~! 私は畑中凛だよ! よろしくね!」


舞「私は五十嵐舞といいます。よろしくお願いしますね」


凛「ん~。舞……じゃあ、“まーちゃん”って呼ぼう!」


舞「凛ちゃんって、結構フレンドリーなんですね」


藍「(初対面で名前にちゃん付けの舞ちゃんもずいぶんフレンドリーだと思うけど)」

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