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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
2章 《知らない過去》
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第27話 『アリス、学校へ行く』

モブキャラとの会話は行を開けてません。あしからず。

 アリスは困っていた。

 その原因は自分の目の前の台所に置かれた四角い立方体だった。


「ど、どうしましょう……」


 仲良く自分を含めた三人で朝食を食べた後、いつも通り自分のご主人様を送り出して台所で食器の後片付けをしようと思ったら、それを発見した。

 それは弁当箱だった。

 誰のかと問えば、もちろん我が主のである。

 弁当を渡し忘れるなんて従者失格だ……。

 と耳と尻尾をだらんと下げて落胆する。


「おや? どうしたのアリスちゃん? まるで叱られた子犬みたいな顔して」


 その時、いつもは居間でゴロゴロしている夏海がひょこり顔出した。


「じ、実はですね……そのー、お弁当を渡し忘れまして……」


「なんだそんな事か」


 しかし、彼女はなんのことはないと涼しい顔をしていた。


「持って行ってあげたらいいじゃない」


「わふ?」


 夏海の言葉にアリスは目をパチクリさせた。


「学校に♪」



   ◆



「あっちゃー。弁当忘れた」



 学園に到着して自分の鞄から筆記具等を出そうと思い、漁っていたら鞄の中に弁当が入っていないことに気がついた。

 今日の鞄はいつもより軽い気がするなー、と思っていたが……勘違いではなかったか。


「さて、どうしようか」


 困った。

 財布は持って来ているが、あまり無駄な出費はしたくない。

 舞やニコ、大地に竜哉も頼めば昼食を分けてくれるだろうし、藍だって文句を言いながらもちゃんとくれるだろう。

 というか、藍は大地たちよりに比べれば、絶対分けてくれるということを経験でわかっている。

 後はツッキーだが……まあツッキーは多分是が非でも僕に分けてくれるだろう。

 しかし、あの変態のことだ。絶対何か要求を求めにくるはずだ。

 具体的には、「『あ~ん』したい!」だとか「『あ~ん』して!」だとかだろうな。

 それだったら一番無難な舞やニコに頼もうかな。


「おはようございます龍也さん。どうかしたんですか?」


 と悩んでいる僕に声をかけてきたのは舞だった。


「舞、おはよう。実は今日、弁当忘れっちゃってさ。それでお願いしたいんだけど――――」


「お弁当ですか? 今日は必要ありませんけど……」


 え? そうなの?

 キョトンとする僕に舞はこくりと頷いた。


「今日は調理実習でカレーを作ってお昼に食べるそうです」


「え? そうなの? 何にも聞いてないけど」


 え? もしかして僕ハブられてる?


「確か、その詳しい説明をされた日は龍也さんは休んでいましたよ。竜界に行ってた日です」


「それでも、もっと他にも知らせて欲しかったなあ」


「先生から貰ったプリントにも書かれてましたけど?」


「…………マジ?」


「マジです」


 自分の不注意でした。ごめんなさい。

 ところで何でカレーなんだろ。遠足とかキャンプだとかだと定番だけど。


「雨宮先生が提案したらしいですよ」


「あの担任教師か……」


 脳内のイメージ映像に、そうだ! カレーを食べよう! みたいなノリのラルク先生が見えた。


「とにかく今日はいらないんだね。ありがとう」


「いえ、どういたしまして」


 そう舞は微笑み返してくれた。

 舞と他愛もない会話する。

 この時の僕はこの後のHRで起こる騒ぎをまったく予測していなかった。

 ……逆に出来たら凄かったんだけどね。



   ◆



 チャイムが鳴り、ラルク先生が教室に入ってきた。


「ふぅい~、さっさと終わらせちゃおうかな~」


 相変わらず子供のような無邪気な表情で言う。

 さっさと終わらせるのはいいですけど、ちゃんとしてください。

 

「まずは」


 がらりっ、とラルク先生の言葉を遮るように扉が開いた。

 生徒たちの視線がその扉の方に一斉に注目する。

 そこに立っている人物にクラスメイトは息を呑み込んだ。

 そこに立っていた人物に僕は思わずズッコケたくなった。

 その人物はすたすたと教室に入ってきてぐるり、と見渡した。

 案の定、僕と目が合った。

 キラリと光ったその瞳は、まるで獲物を見つけた獣の様だ。

 そして、


「龍也さまっ!」


 と僕の名前を呼んだ。

 白色の髪を靡かせて、絶句する僕に駆け寄ってくる。

 そう、我が家の愛玩動物――――アリスだった。


「え? あ、アリス……? な、なんでここに……?」


「はい! 実はお弁当を届けに参りました!」


 そう言って、ランチクロスに包まれた弁当を渡してきた。

 アリスの表情はやり遂げたという満足感に満ちていた。


「え、あ、うん。そう」


 僕は生返事を返すだけだった。

 その時人間よりも五感が敏感なアリスは自分に向けられている好奇な視線を感じていた。

 状況がイマイチ掴めていないクラスメイトの視線である。


「えと……」


「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」」」


 突如上がった絶叫に僕とアリスは吃驚する。

 生徒達は揃って狂喜乱舞しながらアリスに殺到する。

 アリスは後退り、狂喜する生徒達に怯えていた。


「キャアァーッ! 超可愛いいぃぃ――っ!

「きゃっほう! 女神が降臨なされた!」

「僕、このクラスにいて良かった……!」

「髪もサラサラ! ねえねえ、どこのシャンプー使ってるの?」

「アリスちゃんだっけ? 外国人? 何処に住んでるの?」

「さっき天白くんのこと、様付けしてなかった?」

「お願いします! 貴方のおっぱいマウスパッドを作りたいのでスリーサイズと危険日を教えてくださいませ!」

「待て佐藤! その質問の必要性がまったくもって皆無だぞ!」

「いきなりで申し訳ないけど、これをつけてくれないかしら?」

「村上さん、あなた……どうして猫耳カチューシャを!?」


 ツッキーに匹敵しそうな変態も含めて生徒達はアリスに詰め寄る。


「えと、あの、……その……わぅぅ」


 アリスが今にも泣きそうだ!

 こんな時こそ、事情を知る藍たちなら! と藍たちを視線で探すとニコや舞と何か話し込んでいた。

 助けてやれよ女性陣!


「おい天白! お前の知り合いだろ。さっさと俺らに紹介してくれ!」


「あ、うん。わかった。わかったから離れてあげて。凄く怯えているから」


 クラスの男子に急かされ、渋々アリスの紹介をすることになった。


「えっと、この子の名前はアリス。僕の母さんの知り合いの娘さんで……えーっと、今はちょっとした事情で僕の家に預かっているんだ」


 勿論デマカセである。

 『もしもの時』用に考えていて良かった。


「美少女との同棲は男のロマンだ。異議のある者は廊下に出ろ」

「佐藤! 否定はしないが抑えろ!」

「美少女とのひとつ屋根の下で朝フ○ラから夜のギシギシアンアンまで…………ごくり」

「村上さん! あなたもよ!」


 ……まさかここまでの変態が潜んでいるとは思いもしなかったよ。


「で、今日僕が弁当を忘れちゃったからアリスが弁当を届けてくれたんだけど……」


 こくり、と僕の言葉に頷くアリス。


「でも、今日ってさ」

「うん。調理自習があるから弁当いらないんじゃなかったっけ?」


 生徒達が顔を見合わせた。

 えっ……、とアリスは言葉を詰まらせた。


「そのー……、アリスさん。実はですね、僕の不注意で今日は弁当いらないこと知らせてなかったんだ。本当にごめん!」


「あ、いえ、別にいいんです。気にしないでください。でも……」


 アリスは自分が届けた弁当に視線を向ける。

 そうだ、アリスは態々僕の為に持ってきてくれた弁当をどうしよう。

 このままじゃあ、もったいない。

 ……いや、僕の責任だから無理してでも僕が全て食べよう。


「あ、じゃあ俺たちが弁当を食べるぜ!」


 突然、一人の男子が手を挙げた。

 

「じゃあ私も!」

「アリスお姉様のためなら……!」

「ドンと任せろ!」

「いっぱい食べちゃうお!」

「アリスちゃんもペロペロ!」

「村上さん、あなたのキャラが濃すぎるわ!」

「俺はアリスちゃんを(性的に)食べたいです!」

「佐藤、お前は欲望に忠実なだけかもしれんが、お前の好感度ダダ下がり中だぞ。自重しろ!」

「前向きに善処します」

「こ、こいつ政治家並にあてにならんぞ!」


 次々に手を挙げる生徒達。

 その光景にアリスはおどおどしながら尋ねた。


「でも……、いいんですか?」


「「「もちろん!」」」


 遠慮がちに尋ねたアリスにサムズアップする我がクラスメイト諸君。

 こいつら多分どっかで打ち合わせしてるんだろうな。


「皆さん、ありがとうございます♪」


「「「きゅ――――――――ん♪」」」


 お礼を言うアリスの満面の笑みの神々しさに生徒達は悶えた。

 中には悶絶し、鼻血を出している者も少なくない。


「では。これ以上いたら皆さんの勉強のお邪魔になりますので。私はこれで……」


「えー! もうちょっと居ようよー!」

「そうだ。一緒に授業受けようぜー」

「なんなら私たちが教えてあげるから!」

「ならば俺がアリスちゃんの椅子になろう」

「佐藤、もうお前はアリスちゃんの十メートル範囲に近づくな!」

「では私がアリスちゃんのメス犬になるわ」

「村上さん、あなたは一体何が目的なの!」


 帰ろうとするアリスに生徒達は制止の声をあげる。

 それを聞いてアリスは再びおどおどし始めた。


「でも私、部外者ですし……」


「その心配は無用だよ!」


 その時、アリスの言葉を遮る様に扉が開かれた。

 そこには腰に手を当て仁王立ちするラルク先生がいた。

 先生の顔は酷いドヤ顔だった。


「何が心配は無用なんですか?」


「ふっふっふ。実は先程学園長にお願いしにきたのさ。そしたらアリスちゃんを一緒に授業を受けさせてもいいとお許しが出たんだよ」


 あんたそんなことをしていたのか……。

 通りでさっきの騒ぎに参加していなかったんだ。


「おお、ナイス先生!」

「先生ありがとう!」

「俺、一生あんたに付いて行くぜ!」

「ところでアリスちゃん。俺だけの専属メイドになってくれ!」

「佐藤! ぶっ飛びすぎだ!」

「えと……すみません。お断りします……」

「なん……だと……がくっ」

「おい佐藤のヤツ、呼吸してないぞ! 保健室! 保健室に運べ――っ!」


「……ということになったけど、アリスはどうする?」


「え?」


「アリスは授業受けたい?」


「えっと、それじゃあ……お言葉に甘えさせていただきます♪」


 そんなわけで今日一日、アリスの体験授業が始まった。







 

 

 

 ――――結論、アリスは勉強が大の苦手である。

 (具体的には、九九ができない)

佐藤、村上……お前たちが真の変態だ!


あ、因みにおまけはバレンタインネタです。


べ、別におまけのネタ切れとかじゃないんだからね!


 ~おまけ~


 小学生当時のバレンタイン。


藍「ん!」


龍也「これってチョコ? くれるの? ありがとう!」


藍「か、勘違いしないでね! これはね、お、幼馴染として仕方な~く! あげるんだから!」


龍也「あ、うん。ごめんね。変に気を遣わせちゃったね」


藍「…………」


 結論、鈍感にツンデレは通用しない。

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