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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
2章 《知らない過去》
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第25話 『早速黒歴史になりそうな演説』

 沈黙が支配する中、僕は言葉を続けた。


『僕はつい先日に覚醒したばっかりなんです。だから、力があるかもしれませんが、戦い方が分からないんです』


『その為に幼馴染みを危険な目に合わせてしました。もうそんな目に合わせたくないんです』


『幼馴染みのみならず、友達や面識の少ない知り合いも守ってあげたいんです。だから僕は強くなりたいんです!』


『まあ、竜王になっただけで強くなれたら世話ないですけどね。それでも、何もしないよりかはマシでしょうし。強くなるために利用させて貰います。ごめんなさい』


『先程述べたように僕は面識の少ない知り合いでさえ、助けたいと思っています。そして、僕が竜王になって竜族の皆さんと出会いました。皆さんと知り合い(・・・・)ました』


 僕は頭を下げる。


『だからお願いします! 僕にあなたたちを守らせてください!』


 僕は顔を上げる。

 バルコニーを見上げる人々は、ぽかーんと呆気にとられて固まっていた。

 

『以上です』


 同じくぽかーんと呆けているセルザ姉にマイクを返し、バルコニーを後にする。

 もう僕の中に不安はなくなっていた。

 ただ、全てを言い切った清々しさに満ちていた。

 もうどうにでもな~れ。



   ◆



 自室に戻ると何処かに行っていたニコが戻っていた。

 そして目が合った瞬間、思いっきり殴られた。


「なんで!?」


「お前が馬鹿か!」


 憤怒の表情で怒鳴られた。

 何故、キレられているのか。

 僕にはまったくわからなかった。

 あ~、お腹痛い~。


「なんだあの演説は! 『軽蔑してください』? 誰が演説でそんな事を言うんだ!?」


「え~と…………僕?」


「お前以外に誰がいるんだ馬鹿ヤロウッ!」


 むう、僕何か酷いことを言っただろうか。

 僕はただ本当の事を、本音を、気持ちを、想いをそのまま伝えただけだ。


「それが間違いなんだ! 何でもかんでも話せばいいという問題ではないのだぞ!」


「……ニコ、それは違うよ。確かに言い過ぎたかもしれないけど、言い過ぎなきゃいけない時もある」


「何を格好つけてるんだ!」


「ちょっと最後まで聞いてよ。僕は強くなりたい。皆を守るためには強くならなきゃいけない。でも、強くなるには皆の力が必要なんだ!」


「だからと言って、他にも方法があるだろう!? あれでは逆効果だ。あんな演説を聞いて信用し、信頼する輩だっていなくなってしまうぞ」


 そうかもしれない。

 でも、信頼や信用がなくなっても、また築いていけばいいんだ。

 僕はそう思う。

 そうでもしなきゃいけない。


「築けばって……そんな簡単なものではないだろ」


「簡単じゃない。そりゃそうだ。でも、こうでもしなきゃ人望なんて出来やしないさ。何も話してくれない人の方が信用も信頼もできないだろ」


「それはまあ…………そうだが……」


 顔を伏せるニコの顔を伺うことはできない。

 今、ニコはどんな顔をしているんだろうか。

 怒っているのか、悲しんでいるのか、哀れんでいるのか。

 僕にはそれがわからない。

 僕にわかる事と言えば、ニコが僕の事を心配してくれていることだ。

 信用し、信頼し、心配している。

 僕は顔を伏せたニコの頭を撫でる。

 アイリスやアリスを虜にした僕のフィンガーテクニックをなめるなよ。


「僕はまず、竜族の皆から信頼されるところ始めようと思う。……だから、ニコ」


 僕の呼び掛けで、ニコは顔を上げる。


「手伝ってくれないかな?」


 ニコは一瞬合った目線を足元に下げた。

 そして、


「………………そんなのズルイ」


 何かを呟いた。


「え? なんだって?」


「なんでもないっ!」


 ふんっ、と僕の手を払いのけるニコの頬は少し赤みが掛かっていた。


「ま、まあ、竜王の命なら仕方がないな。うん。まったくお前は昔から変わってないな! うん!」


「いや、命令とかじゃないんだけど……う~ん……まあ、いっか!」


 何がともあれ、こうしてニコの怒りは静まったのであった。

 と、その時。


「うんうん! 感動的だね。よしここでキス、イっちゃう!?」


 と、我が肉親の甲高い声が聞こえてきた。

 まあ、母さんなんだけどね。

 ……って、


「か、母さん!? いつの間に!?」


 振り向いた先――――唯一の出入り口であるドア前に母さんとアリスがいた。

 しかも、アリスの服装はメイド服である。か、可愛い!


「実はさっきからいたんだけどねー。ほら、二人がイチャラブしてるから迷惑かなー、と思った次第ですですー」


「ソッスカー」


 声かけろ。


「と・こ・ろ・で♪」


 母さんがニコに向かって一歩一歩跳ぶように足をすすめる。

 その表情は、すごくニヤついていた。


「ニヤニヤ」


「う」


 態々ニヤニヤと口にしながら近づいてくる母さんから逃げるようにニコは後退する。


「ニヤニヤ」


「うぅ」


 母さんがニコに一歩近づく。

 ニコが母さんに一歩離れる。

 母さんがニコに一歩近づく。

 ニコが母さんに一歩離れる。

 そしてついに、ニコの背中が壁にぶつかった!

 ニコはニヤつく母さんに追い込まれてしまった!

 ……なんだこの絵図。


「ニヤニヤ」


「……な、なんですか?」


 ニコの口から絞り出されたような声は震えていた。

 おおう、ニコが怯えている。

 さすが先々代竜王!

 追い詰められたニコに母さんは相変わらずニヤついた顔で止めの一言。


「ニコちゃん、かわいっ♪」


「っ!」


 一瞬で顔が赤くなり、


「う…………う、わあああああぁぁ!」


 と絶叫すると僕の部屋から飛び出した。

 う~ん、デジャブ?


「……ところで母さん。何しに来たの?」


「ん? あれ? ニコちゃんスルーするの? ……スル(・・)ー……する(・・)……ぷふっ」


 おいこら。勝手に一人で笑うなよ。

 まあ、ニコはその内帰ってくるでしょ。

 僕の質問には笑う母さんの代わりに若干空気だったアリスが答えた。


「えっと、先程の龍也さまの演説の“あんけーと”? をしてきたんです」


「アンケート?」


「はい。皆さんが龍也さまの演説を聞いてどう思ったか、訊いてきたんです」


 へえ。さっきからアリスの姿が何処にも見えないと思ったら。


「あ、私は龍也さまの演説、すごく良かったと思います! 例えば、えーっと、あの、あ、あそことか!」


 どこだよー。

 まあ、アリスなりに気を使ってくれてるんだろう。

 後で頭を撫でてあげよう!


「あー、でもさっきのは酷評しか集まらない雰囲気だなー」


「いやいや~、そんなことはまったくこれっぽっちもなかったりするんだよ」


 やっと笑いが収まった母さんが話しに混ざってきた。


「とりあえず、国民は龍也の演説にどう思ったのか!? 聞きたい? 聞きたい? しょーがないなー! じゃらららららら!」


「こいつ……ウザイぞ!」


「ねえ。最近さ、口悪くない? 私母親なんだけど」


 本当にウザキャラ化してるので仕方ない。


「まあ、いっか! えーっと、まず『龍也様、流石!』『年長者として支えがいがあるな! ガッハッハ!』『もうキュンキュンだよ!』『龍也様かわいいよ龍也様』『龍也さまーッ! 私だーッ! 結婚してくれーッ!』『〈ピ――――――――――――――――――――――――〉』とかね」


「とりあえず一言。毎度毎度最後のピー音の人、誰だよ!?」


 って、あれ!? なんか好評もらってる!?


「な、なんで?」


「なんでって……やっぱ感動したんじゃない? いくら竜王が心優しいという共通点があるとしても私含めて龍也のようなキャラなんていなかったもん。さっすが我が息子!」


「そ、そうなんだ……。まあ、とりあえず良かったよ。あー、安心したら眠たくなってきたな。寝ようかな?」


 昨晩は一睡もしていない。

 それなのに起きていられるのは竜族だから?


「ダメだよ龍也。夜のパーティーまでにも龍也にはインタビューとかもっとすることがあるんだから」


 母さんの言葉に僕は硬直した。


「い、インタビュー? とか? 今、とかって言った? とかって?」


「ほらほら~、休んでる暇ないよ~」


「嫌だー! 僕は休むんだー!」


 僕の悲痛の叫びを無視して母さんは、僕を部屋から引きずり出した。


「あの、龍也さま……後で私の尻尾モフりますか?」


 アリスの言葉に僕は泣きながら頷いた。



   ◆



 『祝! 龍くん竜王就任おめでとさんパーティー!』。

 そうでかでかと書かれた看板を見て、僕はため息を吐いた。

 セルザ姉よ。もうちょっとマシなネーミングにしようぜ。

 因みにパーティーだからと言って美味しそうな御馳走が沢山あるとは言え、羽目を外せない。

 あれから色々あったが、それらで疲れているように悟られずに気丈に振舞う。

 イケメンに誘惑されたり、豪快な大男の人に頭をポンポンとされたり、美女達にセクハラされたりしても気丈に振舞う。

 …………あれ? これらって竜王に対してするものなの?

 心が折れそうになって再びため息が出た。


「ため息を吐くと幸せが逃げちゃいますよ?」


 とロリィなボイスが真後ろから聞こえてきたのだ。

 こ、この金髪猫耳を連想させるようなロリィボイスは!


「ユリィちゃん?」


 振り返れば、ユリィちゃんとティアラさんの姿がそこにはあった。

 しかも、ドレスアップバージョンだった。

 ユリィちゃんはピンク色のフリフリドレス。

 ティアラさんはメイド服ではなく、藍色のカクテルドレスを身に纏っていた。


「はい! ユリィです!」


「今にも絶望しそうな顔をなされておりますが……大丈夫ですか?」


「え? そんな顔をしていました?」


 それはまあ、こんな慣れないところで主賓やらされてますから。


「でも、態々よく来てくれたね」


「はい! セルザハート様からご招待していただきました。あ、お兄ちゃん、竜王就任おめでとうございます!」


「あはは。ありがとう。でも、僕なんてまだまだだよ」


「いえいえ、そんなことありませんよ。あの演説(・・・・)すごくよかったと思います!」


 ユリィちゃんの言葉に僕は笑顔のまま固まった。


「…………聞いちゃった?」


「? はい。ちゃんと聞かせていただきました」


「ソッカー」


 遠い目をする僕を不思議そうに首を傾げるユリィちゃん。

 いいんだ。何も気にすることはないよ。

 なんでかな。色々な人に演説のことを言われた為、あの演説が若干黒歴史になりかけている。


「それに私は竜界――と言いますか、竜族とはそれなりに関係があるのですよ」


「関係?」


「実は私のお父様が竜人だったんです」


「マジで!?」


 じゃあ、つまりユリィちゃんはクォーターってことなのか?

 竜族の血を少なからず受け継いでいるってことなのか。


「はい。とは言え、血があまり濃くありませんでしたから、お兄ちゃんのようにドラゴンの姿にはなれないのです。勿論、一部だけの変化もできません」


「へえ」


 なるほど。


「おやや? そこにいるのは龍也くんかな?」


 と僕に新たに話しかけてくる一人の女性がいた。

 

「あれ? もしかしてメールさん?」


 というかメールさんだった。


「ん? ボクだよ? 誰だと思った?」


 僕が彼女に対して躊躇したのは彼女の格好にあった。

 出会った時の汚れた白衣にメガネ、ボサボサ頭のメールさんではなく、アースカラーのドレスに着て髪の毛もちゃんと梳してあって化粧もしている。

 やっぱり格好が変わるだけで印象がだいぶ変わるな。

 メールさん、美人だからこうしてちゃんとオシャレをすればモテると思うんだが。


「いや~、行くならちゃんとおしゃれしていけー、て妹がうるさくてね」


「へえ。妹いたんですね」


 すると僕の言葉にきょとんとするメールさん。

 あれ? 僕、おかしなこと言ったかな?


「もしかして、龍也くん……気づかなかった?」


 え? 何が?


「質問その一。ボクの名前はなーんだ? フルネームで答えなさい」


「? メール・アラカルトでしょ?」


「質問その二。ニコの名前はなーんだ? フルネームで答えなさい」


 ニコ? なんであいつが出てくるんだ? ニコの名前って確か、ニコ・アラカルト…………ん?


「あれ? もしかしてニコってメールさんの……!?」


「そう! 我が妹なのだ!」


 な、なんだってーッ!?

 まさかの姉妹!? 全然似てませんが!?


「うんまあ、よく言われるよ」


 よく言われるのか。

 そう言おうとした時、後ろから思いっきり抱きしめられた。

 柔らかい二つの感触に戸惑いながら、自分にへばりついている女性に視線を向けた。

 そこにいたのは、相変わらずの赤いドレスを着たセルザ姉。


「龍くん、やっと見つけた~」


「ど、どうしたの?」


「もうそろそろで神界と魔界の王女様方が来ると思うから、龍くんスタンバッといて?」


「ファッ!?」


 え? 呼んだの!? 呼んじゃったの!?


「当たり前じゃん! ユリィちゃんを呼んどいて、他を呼ばないわけにはいかないよ! というか、会っておいた方がいいでしょ?」


「そりゃあ……まあ……」


「ほらほら♪ いいかり行くよ~! あ、ユリィちゃんはごゆっくり~♪」


 そのまま若干放心状態の僕をセルザ姉は引っぱて連れ出す。

 ああ、多分聞かれてるんだろうな、あの演説。

 僕は、他世界の王女様方にどんな挨拶をしようかではなく、なんてディスられるか必死にシュミレーションするのであった。

神界&魔王の王女ズは次回出てきますか?


い、いいえ。出ません。


い、いずれ出てきますから! 番外編の短編とかで!


 ~おまけ~


 パーティーでなんと豊かな胸を見せびらかすように胸元がざっくり開いたドレス(多分セルザ姉がチョイスした)を着たアリスを見たユリィの反応。


ユリィ「あ、圧倒的な敗北です……」


ティアラ「そのように気にすることはございません」


ユリィ「うぅ……でも、お兄ちゃんだって男の子だから、その、大きい方がいいと思うし」


ティアラ「そんなことはありません。あのような年をとれば垂れる脂肪の塊なんぞ、気にすることはありませんよ。ユリーシャ様はちっぱいだからこそ価値があるのです!」


ユリィ「ち、小さくないよ!」


ティアラ「というか、正直に言いますと大きいと動きづらいですし、肩が凝るんですよ。ふふん♪(ドヤッ)」


ユリィ「うにゃああ! ティアラがいじめるよう!」


龍也(ユリィちゃん、頑張れ!)

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