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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
2章 《知らない過去》
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第24話 『語り継がれる名演説の最初の文言』

長らくお待たせしました!

 翌日。

 未だに慣れない豪華な自室で僕は頭を抱えていた。


「うぅ、まさか本当に翌日にやるなんて」


 有言実行にもほどがある。

 ヨーロッパの大礼服みたいな格好をしているが、全くその様な威厳がまったく出せていなかった。

 

「仕方がない。あの人が言ったことだしな」


「そうですねえ」


 同じく同室で待機していたニコとアイリスが苦笑しながら呟いた。

 

「それにしても先程の式は中々見られるものではありませんでしたね。わたくし、感動のあまり腹筋が崩壊しそうでした」


「言うな。思い出しただけで頭が痛くなる」


「ぐぅ……二人して」


 そんな酷いこと言うなよ。仕方なかったんだ。

 現時刻、もうすでに王位継承のセレモニーは終わっていた。

 ああいや、正確には終わっていないんだけど。

 まあ、何も練習もなしのぶっつけ本番だったので、まじで始終ガッチガチでワタワタしてコケた記憶しかない。

 というかよく覚えていなかった。どうも記憶が曖昧だ。

 ただ頬を赤らめた女性方と、太腿を抓って必死で笑いを堪えるお偉いさん方がいた記憶はある。

 その上、それが竜界全土に生中継された。この世界にもテレビのようなものがあるようだ。びっくり。

 ……ああ、穴があったら入りたい。ニコに引きずり出されそうだが。

 そして、これから新竜王として民にエールを贈るらしい。

 うん、就任演説なんて何も考えてないや。


「どうすんだよこれどうすんだよこれどうすんだよこれ」


 これ以上、僕を辱める気なのか!?

 頭を抱えてぶつぶつ呟く僕にアイリスは問いかけた。


「そういえば、龍也様。昨夜はお楽しみ頂けましたか?」


「……昨夜?」


 アイリスの言葉にニコは怪訝そうな顔をした。


「え? あ、うん。あれは良かったよ」


「そうですか、それは何よりです」


 僕とアイリスのやり取りに余計に眉を顰めるニコ。


「恋愛に関しては僕はあんまりだったんだけど、アイリスのお蔭でちょっと良いもんだなあ、て思ったよ」


「……恋愛?」


「そう言って頂けたなら光栄です。因みにどの辺りが一番良かったですか?」


「僕はベットの上でのやり取りとかキス辺りが一番良かったかな」


「キス!?」


「ええ、実はあれはわたくしもお気に入りなのですが、少しマイナー過ぎると仰る人もいるそうです」


「そうかな? 僕からしてみたら、いいと思うんだけど。あのやり取りが頭から離れないよ」


「実はあれには続きがあるのですが……もし必要があれば」


「是非!」


「い、いい加減しろ! 破廉恥がっ!」


 ニコの蹴りが右肩に直撃。

 ぐおお。なんかばきっと音がした気がするが……大丈夫か? 僕のライトショルダーは?

 ……うん。大丈夫だ。問題ない。ちゃんと上まで動く。

 それにしても、


「何すんだよ! ニコ! 暴力反対だ!」


「お、お前が悪いんだろう!? お、お前が昨夜イリスと……その……イチャイチャと……」


「はあ? 昨夜? アイリスから恋愛小説を借りてただけだよ?」


「……恋愛小説?」


 昨夜、ベットの広さや柔らさがどうも身体に合わなかったようで眠れなかった時、丁度遅くまで仕事をしていたアイリスから一冊の恋愛小説を貸してもらったのだ。

 結局、それに嵌ってしまい一睡もせずに読了。

 おかげで滅茶苦茶眠いんだが、仕方ない。自業自得だ。

 因みに先程の会話を補足を足してリピートすると、


『そういえば、龍也様。昨夜は(読書を)お楽しみ頂けましたか?』

『え? あ、うん。あの本(あれ)は良かったよ』

『そうですか、それは何よりです』

『恋愛(小説)に関しては僕はあんまりだったんだけど、アイリスのお蔭でちょっと(恋愛小説も)良いもんだなあ、て思ったよ』

『そう言って頂けたなら光栄です。因みにどの辺り(場面)が一番良かったですか?』

『僕はベットの上でのやり取りとかキス辺りが一番良かったかな』

『ええ、実はあの場面(あれ)はわたくしもお気に入りなのですが、少し(シチュエーションが)マイナー過ぎると仰る人もいるそうです』

『そうかな? 僕からしてみたら、いいと思うんだけど。あのやり取りが頭から離れないよ』

『実はあの本(あれ)には続編(続き)があるのですが……もし必要があれば(お貸ししますが)』

『是非!』


 なのだが、一体何処に誤解される要素があるんだろう。

 気まずそうに視線を逸らすニコをニヤリと意地悪そうに微笑みながら見つめるアイリス。


「おやおや~? ニコ。あなたは一体どう聞き間違えたのですか?」


「いや、それはその……うぅ」


 破廉恥とか言ってたけど、本当にどう聞き間違えたんだ?


「まあでも、あなたの考えは……少し間違っていないかもしれませんね」


「は?」


「だって……私は、龍也様にその……“初めて”を奪われたのですから」


 頬を赤らめたアイリスの爆弾発言に、一瞬で顔を熟したトマトの様に赤くしたニコは僕を睨みつけ、


「な、ななななん、何やってんだああああ!?」


 僕を全力で殴りつけた。


「どぐえっ……!!」


 床に崩れ落ちる僕に背を向け、


「ふ、不届き者おおおおおおおおぉぉ……!!」


 と叫びながら部屋から飛び出した。


「うぐぅ、手加減なしかよ。普通の人間だったらあまりの衝撃で爆散してるぞ」


「ふふっ、大丈夫ですか? 龍也様」


 笑顔で僕に手を差し伸べるアイリス。

 黒いよ。その笑顔黒いよ。

 僕はアイリスの手をとり、立ち上がる。


「アイリスも何言ってんだよ。僕、何もしてないぞ? まったく何もしてないからな!」


「おや、龍也様もどうやら思い違いをしているようですね。わたくしの言った“初めて”というのは、殿方に胸を触られたのは初めてです――という意味です」


「す、すいませんでした!!」


 土下座した。

 いや、本当にすまないと思っている。

 昨晩の大浴場で不慮の事故とは言え、女性の胸を(直で)触ってしまったのだ。土下座するしかあるまい。


「いえ、いいのです。………ふふふっ」


「?」


 突然嬉しそうな笑みを浮かべたアイリスを見て僕は首を傾げた。

 いきなりどうしたのだろうか。


(うふふっ……ニコ、わたくしだってそう易々と負ける気はありませんわ。あなたは、服越しに胸を触らせたようですが、わたくしの場合は生ですからね! 生ですよ! その差は天と地程の差があるのですから!)


 嬉しそうな笑みから勝ち誇った笑みに変えたアイリスを見て僕は再び首を傾げた。

 一体彼女の身に何が起こったというんだ。

勝ち誇った笑みを浮かべるアイリスは不意に何処からか(何処から?)懐中時計を取り出した。


「おや。もうすぐ予定の時間ですね。龍也様、ご支度を」


「はいはい。ま、支度なんてないんだけどね」


 僕は不安と緊張だけを持って、アイリスに導かれながら部屋を出た。



  ◆



『いや~! セレモニーの龍くん可愛かったよね~! なんかワタワタというかオドオドしてた初々しいところとか超可愛いかったよね! 合法ロリの叔母様の童顔とかちゃんと受け継いでてさ~! 少し未熟っぽいけど、それが逆に可愛さを倍増してるっていうかさ! 萌えるーわ!』


「…………」


 演説の為、セルザ姉の元に向かったのだが、彼女はマイクのようなものを片手に王宮のバルコニーで老若男女相手に何やら熱弁していた。

 というか、なに熱弁してんだ馬鹿野郎。僕のトラウマを可愛いとか言うなや。

 何故ライブイベントみたいな喋り方なんだ。


『さてさて! それではみなさんお待ちかね! 新竜王である龍くんに語って貰おうかな! ――――龍くんカモーン!!』


 もうちょっと真面目にやろうぜ、セルザ姉。

 僕はピクピクと震える口端を堪え、出来る限り緊張を隠して一歩進んだ。

 空を見ると数体(でいいんだよな?)のドラゴンさん方がカメラのような機材を持って飛んでるんだが、あれで竜界全土に生中継してるのか?


「龍くん、名演説を期待してるよ?」


「任せて。セルザ姉」


 僕はセルザ姉からマイクを受け取ると、バルコニーの上から広大の大広場にいる大勢の人たちを見下ろした。

 老若男女、様々な人たちが僕に視線を向ける。

 その光景に僕は怯んだ。やっぱり緊張してしまう。

 興奮している色々な声が鼓膜を震わせる。


「竜王様~!」

「きゃー! 龍也さまー可愛いー!」

「こっち向いてー!」

「龍也様かわいいよ龍也様」

「龍也さまーッ! 私だーッ! 結婚してくれーッ!」

「〈ピ――――――――――――――――――――――――〉」


 ……震えが止まった。

 なんだいつもと一緒じゃんか。

 僕はため息を吐くとマイクを強く握り締め、国民に対して言い放った。


『は、初めま()て!』


 噛んだ。第一声で噛んだ。

 涙が出そうだ。というか出た。

 定番中の定番ネタだが、何もこんなところでならなくても!

 しかも、()てって! ()てって死にたくなるわ!

 シーンと静まり返る人々。

 チラリと振り向くと自ら手を抓って笑いを堪えるアイリスと腹を抱えて爆笑しているセルザ姉の姿がそこにはあった。

 死にたい。飛び降りたい。丁度高~いバルコニーだしね。

 次の瞬間、人々は歓喜の声を上げる。


「可愛いー!」

「ふむ。第一声で噛み、涙目で顔を赤く染め恥じる仕草……男の子なのに萌える! いや、男の娘だから萌える! 龍也様……恐ろしい子!」

「うぉー! 龍也様ーッ! 俺だーッ! 掘ってくれーッ!」

「〈ピ――――――――――――――――――――――――〉」


 良かった。竜族に変態が多くて助かった。

 僕は咳払いすると、もう一度挨拶をする。


『初めまして。えーっと、今日から第百十七代目竜王になりました――天白龍也です!』


 今までで一番大きな歓声が上がった。

 

『それで、あの、えっと、最初に皆さんに言っておきたいことがあります』


「「「な~~~に~~~~?」」」


 ……これが竜族か。思ってたのとなんか違う。

 これはあれか。僕は『いいかな?』と問えば、『いいとも~!』と返してくれるだろうか。

 ならば、耳の穴をかっぽじってよく聞け!


『僕は皆さんが考えているような人ではありません。何故なら僕は強くなるために、強さを求める為だけに――私利私欲の為だけで竜王になりました。軽蔑してくれても構いません』


 沈黙がその場を支配した。

 ~おまけ~


ニコ「龍也の性癖がどんどんオープンになっていってるように思えるのですが……」


セルザ姉「それは多分覚醒した時に影響かもね。あれが本当の龍くんだったりして♪」


ニコ「親友として親友の隠された性癖が赤裸々になっていくのは、少し恥ずかしいです」


セルザ姉「親友? 好きな人でしょ?」


ニコ「………………」


セルザ姉「痛っ! やめっ! 無言で脛を蹴らないで! あうちっ! あんっ! も、もっとぉ! もっと私を蹴ってえええぇぇ!!」

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