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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
2章 《知らない過去》
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第22話 『会話は続くよ、どこまでも』

前回少し短いので、今回少し多めに。

 竜族とは、強靱な肉体と優れた身体能力を持つ種族である。

 その力は地面や岩を軽々砕くほど。その為、接近戦を得意としている者が多い。

 また魔力を身体に纏わせることで、その力を更に強化することができる。

 それに竜族は完全な一枚岩である。

 竜族の王である竜王の一言に絶対服従と言っていいほど。

 それは掟などではなく、竜族一人ひとりの意志である事も一つの特徴である。



   ◆



「ちょ、ちょっと待って! どういうこと!? 僕が竜王を継ぐってこと!?」


「そういうことだよ。私が此処に龍くんを呼んだのは」


 わけがわからない。

 一体全体どうしてそういう考えになったのかわからない。


「だってさ、僕ついこの間竜族として力が覚醒したんだよ? それにまだ十五歳だし、僕なんかよりも適任の奴だっているはずでしょ」


 自分にそんな大役出来るわけがない。


「そ、それにセルザ姉! 第一僕に継がせなくても、現竜王であるセルザ姉がやればいいんじゃない? セルザ姉だってまだまだ大丈夫なんでしょ!?」


 僕の言葉を聞いたセルザ姉は、目を伏せた。


「……私には無理だ」


 まるで絞り出したような声だった。


「私はね、龍くん。先代である叔母様の代理人なんだよ。叔母様は退位してから龍くんが成長して竜王を継げるまでの間のね」


「代理人……?」


「うん。それにね、竜族が一枚岩なのは知ってるね。そんな竜族をまとめる竜王は自分を慕う民を愛さなければならないんだ。勿論恋愛感情じゃないけどね。でも、私にはそんなことは出来なかった。たかだか十数年程だったけれど愛し切れなかった。まあ、それでも竜族のみんなは私を慕ってくれてたけどね。……だけど、私には出来ないけど、龍くんはそれができるんだよ。心優しい龍くんは私なんかよりも竜王に適任なんだ」


 目を開いたセルザ姉はまっすぐに僕を見据えた。

 僕は避けるように視線を下に下げる。


「……荷が重いよ。僕なんか世界や政治なんか動かせないよ。僕なんて本来、この場にいられないような普通の奴なんだよ……」


「確かに今の龍くんには荷は重いかもね。……でもね、荷が重いというのなら、龍くん、今はまだ世界を動かさなくてもいい。その代わり、親ぐらい幸せにしてあげなさい。叔母様は龍くんが竜王になることを何より楽しみにしていたんだから」


「母さんが?」


「うん。『龍也が竜王になれば皆を幸せになれる』とか『龍也になら全てを任せられる』ってね。まるで見た目通り子どもが楽しい出来事を話すようにそれはもう楽しそうに語るんだよね、あの人」


「母さんが……そこまで……」


「龍ちゃんにはまだ学校があるし、龍ちゃんの生活がある。だから今は竜王の仕事は私が代わりにしておくよ。だから今までの生活となんら変わりなく生活してくれて良い」


 セルザ姉が頭を下げた。

 

「だから、お願いだ龍くん。天白龍也くん。私の後を継いでください」


 ……一体なんでこういう展開になってしまったんだろうね。

 僕はため息を吐いた。


「……わかったよ。というか元から断れなさそうな雰囲気だしさ」


 僕の言葉に吃驚した表情でセルザ姉が顔を上げた。


「え? 本当に? いいの!?」


「うん。でも、最初に言っておくけど僕じゃあ力不足かもしれないからね!」


 セルザ姉は子供のように顔を輝かせた。


「ありがとう龍くん~! お礼に私の“初めて”あげるよ~!」


 そのまま僕に飛びかかってきた。

 勿論避ける僕。


「ぎゃー!」


「ああん! 待ってよ龍くーん!」


 さっきまでのシリアスはどこへ行った!?

 くそう。これじゃあいつもと何も変わらないよ!

 セルザ姉と捕まったら(性的に)襲われるリアル鬼ごっこが開始されそうになったその瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します。御菓子の準備をお持ちしました」


 ドア越しから聞こえた声はアイリスのものだった。

 やけにタイミングが良い。

 もしかすると話が終わるまでドア前でスタンバイしてたのだろうか。

 どうぞ~、とセルザ姉の招き入れる声でアイリスが入ってきた。

 

「ッ!?」


 そしてその姿に言葉を失った。

 露出度が高いコスチュームにスラッとした脚には網タイツ。

 頭に兎耳、腰にはちょこんとした尻尾。

 そう、バニーガールの衣装だった。

 しかも豊かな胸部がバニーの衣装によってこれほどまでか! と叫びたくなるように強調され、色っぽく見えた。


「な、なんでそんな格好を!?」


「あ、あまり見ないでください」


 そ、それは、難しいんじゃないかな。

 視線が無意識に兎耳と胸に視線が行ってしまう。

 

「ふふふ、実は龍くんのためにイリスちゃんにバニー衣装を着てくるように頼んでおいたんだよ」


 ああ、そういえば廊下で何か耳打ちしていたな。

 まさかこんなことを頼んでたんなんて……セルザ姉、グッジョブ!

 それにしてもアイリスは兎耳がよく似合うな。

 アイリスは頬を仄かに赤く染めながらもケーキや紅茶を机の上に並べていく。

 頭の兎耳がピコピコ動いてる。

 あれは作り物だろうか? それにしては上手く出来てるなあ。


「いや~、龍くんが竜王継いでくれて良かったよ! というわけで、イリスちゃん。明日の継承式の準備をよろしく伝えといてね」


「あ、明日!?」


「はい。畏まりました」


「畏まっちゃった!?」


 そんな急にできるもんなのか!?


「龍くん、竜族の団結力を甘く見ちゃあダメだよ」


 えー、明日も学校あるのに。

 これは断れない雰囲気だな。


「龍くんが竜王になってくれたということで、イリスちゃん」


「はい」


「龍くんに頭撫でて貰いなさい」


「脈絡ないぞオイ!?」


 セルザ姉の言葉に何故か頬を染め、硬直したアイリスの代わりに僕がツッコミを入れた。


「ユリィちゃんから聞いたよ~。龍くんの撫で撫では世界一だって」


「ユリィちゃんが!?」


 確かにユリィちゃんに頭は撫でたことはあるけど、なんでその事を知ってる!?


「異世界って言っても王族同士だし、そりゃあ付き合いもあるよ」


「それはそうだろうけど……」


 ユリィちゃん、世界一だとか言ってたのか。買い被り過ぎだぞ。


「で、ででででででですが!」


 先程までフリーズしてたアイリスがいきなり絶叫した。


「りゅ、龍也様にご迷惑では!!?」


「え? 別にいいけど」


 むしろさり気なく兎耳をモフモフしたいよ。


「ほらほらイリスちゃん! 殿方から膝枕してもらう上に、頭撫でて貰えるんだよ? こんな経験したことないでしょ?」


「よ、余計なお世話です!」


 拒否するアイリスを無視し、セルザ姉はアイリスを担いで僕の座るソファに横にさせる。


「さあ、龍くん。存分にしちゃって!」


「はあ」


「や、優しくお願いします……」


 それは何かが違う気がする。

 僕はアイリスの頭を撫でた。

 うわ、柔らかい。

 結構長くて量があるのに流れるように滑っていく。

 それはいいんだけど……。


「あっ……んんっ……そ、そこは……」


 なんか色っぽい声がもれてるんだけど!?


「なんか撫でていくとどんどん淫れていってる気がするんだけど! というかこの兎耳本物っぽいんだけど!」


 僕はその耳を触りながら言う。

 こ、この触り心地は本物だぞ!


「ふふふっ、気になるかな? その正体は実はこれです! じゃじゃーん!」


 と。

 セルザ姉は胸の谷間から(どこに入れてんだ)一つの瓶を取り出した。

 小さな瓶の中には黄色いエナジードリンクのようなもので満たされている。


「これはメールちゃん作『獣耳が生えちゃう薬』なんだよ! 文字通り、これを飲んだ人はイリスちゃんのように獣耳が生えるんだ!」


「嘘ん!」


 あの人、こんなものを作ってたのか!? 実にけしからん!

 実にけしからんでも素晴らしい! そのような夢のような薬がこのように存在するのか!


「竜王になる龍くんに特別にプレゼントするよ」


「マジでっ!? ヤッター!!」


 『獣耳が生えちゃう薬』を――ネーミングセンスはともかく――受け取る。

 勿論違う方の手はアイリスを撫で回している。

 どうしよう、誰に飲ませよう。橘とか藍とか……は駄目だな。絶対に殺される。ここは無難に母さん辺りか?

 

「はああんっ……りゅうやしゃまぁっ! もっと! もっとおねがいしましゅ……!」


 どんどん呂律が回らなくなり、淫れていくアイリス。

 一体彼女に何が……?


「あ、言い忘れてたけど。その薬は副作用でね。全身性感帯のように感じやすくなるんだって」


「それを先に言え!」


 これ以上は危険だと本能が察知し、アイリスの頭から手を離そうとするとがしっ、と腕を掴まれた。


「しゃせませんよぉ~、りゅ~やしゃまにはも~とも~~~と、なでなでしていただきたいんでしゅから~」


 うおっ! このバニー、意外と力が強い!

 一体何が彼女をここまでさせるのか!?


「ああ、私もイリスちゃんの年齢を把握してないけど、婚期は確実に逃してて今慌てぶはっ!!」


 セルザ姉が全て言い終わる前にお腹を押さえながらどたりと倒れた。

 視線を下に下げるとアイリスの拳がセルザ姉に向けられている。

 当たってないのに……。拳圧でも飛ばしてたのか。どこの少年漫画だよ。


「さ~、じゃまにゃおひとはいにゃくにゃりましたよ~。もっとにゃでにゃでしてくだしゃいよ~。にゃんでしたら、あたまだけじゃにゃくからだのほうも」


「……何を、してるんだ」


 アイリスの言葉を遮るように僕の隣から男の声が聞こえた。

 小学校の頃から聞き慣れたこの声は――――。


「雷土っ!?」


 そう、神田雷土だった。


「なんでここに!? って、そんなことよりもアイリスをどうにかしてくれない」


「あ、ああ。よくわからないが……おい、イリス! いい加減に龍也から離れろ!」


 雷土はアイリスを引き離そうとするがアイリスは僕の体をがっちりホールドして離れない。


「ニコォ、わたくしまけましぇんよ~。かくごしておいてくだしゃい~!」


「何を言ってるんだ! ぐぬぬ……このままじゃあ拉致があかん。龍也」


「ぅへ?」


 いきなり名前を呼ばれて変な声が出た。


「もうしばらくこのまま撫でてやれ。そしたら何も起こらずに終わるかもしれん」


「ええー。……やってみるけどさー」


 再び頭を撫でると幸せそうな表情で僕の体に頬を擦り付けてきた。

 効き目とかいつ終わるんだろう。

 雷土は倒れているセルザ姉を起こした。

 

「ふーっ、ニコちゃんを此処に呼んでおいて良かった」


「まったく。貴女というお方は……。というか、その名を言わないでください。龍也の前ですし……」


 ん? ニコ? 誰それ?


「もういいんじゃない? もう此処に連れてきた時点で話さなきゃだし。さあ、楽になるためにさっさとイってしまうんだ!」


 ……なんか最後の一言、この人が言うと裏を感じる。


「なんだか最後の一言、貴女が言うと裏を感じますよ」


 どうやら雷土もそう思っていたらしい。


「……仕方がないか。どうせいずれは話さなければいけないことだしな」


 雷土はやれやれ、とどこか諦めの表情で僕の方へ向き直った。


「龍也。今から突拍子のないこととか言って大丈夫か?」


「ん? いや、もう大分驚かされたからな。もうこの先どんな事実を聞いても驚かない自身があるよ」


 そうかそうか、と雷土は苦笑した。

 そして、もう一言。


「〈イリュージョン〉」


 と呪文を唱えた瞬間、雷土の体を光の膜のようなものが包みんだ。

 その膜はすぐに光の粒子になって飛散した。

 そこにいたのは小学校からの付き合いの男子高校生ではなく、同じ学校の指定の制服(男子用)を着た男装女子がいた。

 ……………WHO?


「そ、そんなまじまじ見られると恥ずかしいんだが……」


 男装女子は恥ずかしそうに目を伏せた。


「え、えっと……」


「さあ、ここで種明かし! 龍くんの親友の神田雷土の正体は、この娘――――ニコ・アラカルトちゃんでした~!」


 僕は勿論驚きのあまり絶叫した。

会話が長い……終わらないなあ。

因みに、龍也がユリィちゃんを撫でた経緯は第17話のおまけで。


 ~おまけ~


 体育祭で好きな競技。


龍也「パン食い競争。パン貰えるから」


藍「100メートル走。楽だから」


ツッキー「わたしは~」


龍也&藍(どうせ『大玉転がし』とか『玉入れ』とか言うんだろうなあ)


ツッキー「八人九脚! 一斉に走り出すことで横一列にならんだメロンたちが揺れに揺れて―――」


龍也「うん。薄々気付いてた」


 ※蒼春学園では二人三脚ではなく八人九脚らしい。

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