第18話 『勇者アイの冒険譚(嘘)』
いつもどおりの文章力ですわ。
藍視点です。
龍也が行ってしまった。
あんなにも龍也と離れたくないと思っていたのにも関わらず、今はあまりその気持ちが噴き上がらない。
でもその代わりに……。
「あぁあああぁあああぁ―――――!! 死にたい死にたい死にたい! 殺してー! 誰か過去のあたしを殺してー! あの泣き叫ぶあたしを殺っちゃって! あれは違うの! 嘘! じゃないけど! でも恥ずい! いやああ! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい! 確かにあれが本心だけどさ! だけどさ! でもでもでも! 恥ずいよ! おのれあの変態! 帰ったらお仕置きしてやる! て、あいつはそれを喜ぶんだった! ああぁああぁぁああああぁ!」
羞恥心が溢れ出した。
もう死にたい。
「お、落ち着け。落ち着くのよ魚住藍。あんなの別に気にすることないわ。問・題・外!」
数回深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
よし。もう大丈夫。
もし今度龍也を見かけても―――大丈夫、の筈!
その場に腰掛け、辺りを見渡す。
周りには今まで見たことのない木々や植物で覆い尽くされていた。
「本当に異世界、なんだよね?」
急に恐怖心がぶり返した。
今この謎の異世界の森の中で一人きりなのだ。
龍也は安全だと言っていたが、何が突然出てくるかわからない。
「だ、大丈夫よ。あいつが、ああ言ってたし……」
『もしお前がまた何かに巻き込まれたら、助けに行ってやるよ。僕がお前を護ってやる!』
ぐはっ。
畜生。聞いてるこっちが恥ずかしい台詞を言いやがって。
でも、凄く逞しく見えた。
あんなにも格好良い奴じゃなかった気がするのだが……。
「って、なんであいつのことを考えてるよ! 馬鹿馬鹿しい」
違うことを考えよう。
べ、別にこのままだと龍也のことばかり考えそうとかじゃないけどね!
そ、そうだ。なんであたしがここに連れてこられたか考えよう!
しかし……、
「……まったく思いつかない」
まず今日の朝に普通に登校してたら、地面が突然光りだした。
地面を見下ろすと何か円状の絵が描かれていて、気がつけばここにいて。
適当に歩いていたら、また同じ円状の絵みたいなのを踏んで、気を失って。
目が覚めたら龍也がいて、赤い球体のようなものに入っていて。
その後は龍也と―――。
「だからその流れはいいっちゅーねん!」
自分にツッコミを入れてしまった。
話を戻そう。
でも……本当に何もなかったんだよなあ。
「漫画とかじゃあ、このペンダントの所為だったり……。いや、まさかそれはないわ~」
ペンダント摘まみ上げると、なんか光ってることに気がついた。
最初は光の反射だと思ったが、光は突然カッと光った。
「眩しっ!」
びっくりして立ち上がった。
光は一つの線になって森の中を走っていく。
ああ、これが俗に言う『光ファイバー』か。
……ふっ。あたし、ボケには向いてないみたいね。
「これって、付いていけばいいの?」
付いていかないとダメだろう。
と自問自答する。行くしかない。
足を進めようとしたが、すぐに踏みとどまった。
あいつ、ここで待っとけって言ってたよね。もしいなくなったら、あいつ心配するんじゃないか。
「で、でも、あいつだってあたしをほっぽって違う女のもとに行ったんだし、これぐらいはいいわよね。そうよ、別に行ってもあいつが帰ってくる前に戻ればいい話よ」
と自分に言い聞かせ、足を進めた。
◆
光ファイバー(なんか気に入った)を辿れば、洞穴にたどり着いた。
洞穴内にも光ファイバーは続いており、現在捜索中なのだが。
今は一人のはずなのに、全然怖くない。
あたし、もう何も怖くない。だって一人じゃないもの!
……なんか死亡フラグっぽくなった。
「一体どこまで進めばいいのかしら。……ん?」
洞穴内に横道を発見。
光ファイバーはまっすぐ進んでるけど、また戻ってくればいいわよね。
と横道へと足をすすめる。
「これは石碑?」
進んだ道から少し広くなった場所。
その中心に、石造りのオブジェのようなものがポツリと据え置いてあった。
なんかあたし、こういうのゲームで見かけた気がするぞ。
その石碑の台座に錆び付いた剣が突き刺さっている。
さながら選ばれし勇者を待ち続ける《伝説の剣(仮)》のようだ。
「なんか格好良い……」
なんだこの台座に剣が刺さっていれば抜きたくなる謎の欲求は!
「ま、まあ、べつに本当に引き抜きつもりはないし。でも、ちょっと柄だけでも……」
柄を少し握る。なんか感動。
なんかキャラが変わってるなあ、と思いつつ少し引っ張る。
ずぽっ。
ん? 気のせいかな?
今すごくイヤな音が聞こえた気がする。
手には《伝説の剣(仮)》が握られている。
「抜けちゃったあああああっ!」
抜いてしまった!
というか意外とあっさり抜けちゃったよ《伝説の剣(仮)》!
「……ま、いっか!」
抜けちゃったものはしょうがない。
もう一度突き刺す。
しかし、抜けてしまった穴はガバガバに広がっており突き刺さらない。
……はっ! 描写がなんか卑猥に!?
こここ、これはあの変態に毒されたんだ! あたしの所為じゃない!
「……もういいか。持ってこ」
剣を担ぐと元に道に引き返す。
もうあの穴は使いものにならないし、もうちょっとこれが太ければなあ。
……またしても卑猥な表現に……。
◆
そして再び光ファイバーを辿れば、今度は巨大な門にぶつかった。
光ファイバーはこの門の前で途切れていた。
ここから先に行けってことかしら。
あたしは門に手をかけ―――。
『お待ちください』
突然背後から聞こえた声に急いで振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
「誰!? どこにいるの!?」
辺りを見渡すが誰もいない。
『お待ちください』
『あなたに伝えたいことがあります』
声が四方八方から聞こえてくる。洞穴の壁や虚空から聞こえてくる。
「つ、伝えたいこと?」
『はい』
『私たちはこの洞穴に住まう精霊です』
精霊? 精霊ってファンタジーにお馴染みの?
『貴女に全てを語りましょう』
『貴女には全てを知った上で協力していただきたい』
「それって、あたしじゃなければダメなの?」
『はい』
『貴女でしかいけない』
『それに貴女がこの世界に来たことにも関係しています』
この世界に来たことにも関係? え? じゃあまさか!?
「あたしがここに連れてきたのは、あんたたちの所為なの!?」
『いいえ』
『それは違います』
『貴女をここに連れてきたのは』
『ハタナカ リンです』
ハタナカリン? 畑中凛ってもしかして……!
「もしかして凛はいきてるの!?」
『順に追って説明します』
『この世界に一人の魔法使いがいました』
『魔法使いは使い魔を欲しました』
「使い魔って、小説とかによくある?」
『使い魔は、魔法使いと契約した魔物です』
『使い魔は、魔法使いと主従関係になります』
『契約を結べば、魔力のやりとりや五感の共有などが可能になります』
「うーん。ごめん。魔力とかよくわからないからカットで」
『わかりました』
『では、話を戻します』
『魔法使いは使い魔を自分の手で作り出そうとしたのです』
自分で? 魔物とかっていうのって自然にいるんじゃないの?
『魔法使いはこの世で一番強い最強の魔物を作り出そうとしたのです』
誰にも敵うことができないオリジナルの化物を作り出そうとしたのか。
『魔物を作るのに人間の魂が必要でした』
『魔法使いは、異世界から人間の魂を呼び出しました』
『人間の魂はある女の子の魂でした』
「その……女の子の魂って、まさか……!?」
『はい』
『ハタナカ リンです』
絶句した。
まったく全然関係のない赤の他人の魂であっても物のように扱うなんてそんなの許される筈がない……!
『落ち着いてください』
「落ち着けるわけないでしょ! そいつは今どこにいる!? 今すぐ不全にしてやる!」
『魔法使いは死んでいます』
『百三六年前に絶命しました』
「百? ちょっと待ってよ。凛はそんな昔の人じゃないわ」
明らかにおかしい。
だって数年前にあたしは凛と話していた。
時間の流れが可笑しすぎる。
『異世界から魂を召喚するのに時間や場所は関係ありません』
『それが過去でも未来でも現在でも同じことです』
「……ちっ」
舌打ち。
まさかそれで何億といる人間の中から凛の魂が……!
『話を続けます』
『魔法使いは今までにない魔物を作り上げました』
「成功したの?」
『いえ』
『失敗しました』
は? 今さっき作り上げたって。
『力が強すぎたのです』
『そして暴走した魔物は誰にも止められませんでした』
『魔法使いは数人の仲間と共に魔物を封じ込めました』
『この奥に』
精霊の声はこの門の奥を指していた。
門をよくみると小さな文字がたくさん刻まれていた。
「で、あんた達はあたしに何をさせたいの?」
『ハタナカ リンを助けてあげて欲しいのです』
大体わかった。
わかったが、どうやって?
だって凛はもう……。
『いえ、ハタナカ リンの魂はまだ生きています』
『魔物の中でずっと』
「本当に!?」
『はい』
『だから、彼女は力を振り絞り貴女を呼んだのです』
『だから、貴女にはその剣を使いハタナカ リンを助けてあげてほしい』
「本当に《伝説の剣》なの!?」
え、マジで?
『はい』
『それは選ばれし人にしか抜くことができません』
「マジで!?」
結構簡単に抜けちゃったんだけど。
これってそんな凄いものなの? 錆びてんだけど。
『その剣は刺した魔物から魔力を吸収する力があります』
「ちょ、ちょっと待って! まさかその魔物を倒せって言うの!? さっき力が強すぎたとか言ってたじゃない!?」
『封印され続け、力が弱っているのです』
『それに倒す必要はありません』
『弱らせて契約すれば良いのです』
「契約って使い魔に、てことよね。そんなこと……あたしには荷が重すぎる……」
『強要はしません』
『貴女に無理はさせません』
「……あー! もう! わかったわよ! 何よその言い方! とりあえず、これを刺せばいいんでしょ!? いいわよ、やってやろうじゃない!」
あたしは門に手をかけた。
『ありがとうございます』
『御武運をお祈りしております』
「別にいいわよ、そんなの。あいつはあたしの友達だからね」
門を少し押せば、見かけによらずすぐに開いた。
……なんかこの剣とか門とか見掛け倒しが多いな。
あたしは門の奥に這入っていった。
◆
部屋内の中心にそいつは体中を鎖で縫い付けられていた。
下半身は蛇、背中からは一対のボロボロ翼と無数の触手が生えている。顔は蜥蜴というよりもドラゴンの様で胴体は鱗がびっしり。大きさは先程の岩の化物に比べれば大分小さいが私からみたら相当デカイ。
あれが……凛なの?
「凛、聞こえる? 聞こえるんだったら目を覚ましなさい!」
あたしの叫びに魔物は二対の合計四つの目を開いた。
ギョロリと動く目玉にあたしは少し怯えた。
怖気つくな、魚住藍。さっきの粋はどうした。
自分に言い聞かせると、魔物を見据えた。
「帰りましょ。貴女の家族は今どこで何をしてるか知らないけど、こんなところでいてないでさっさと戻りましょ」
『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――――――――!!』
魔物は叫んだ。
そして体を起こし始める。ぱきんという鎖が千切れる音が聞こえた。
「ほら、あんた外で遊びたいって言ってたじゃない。ちょっと時間が経っちゃって色々変わってると思うけど、何のことはないわ」
魔物は再び叫んだ。
同時に背中の触手が一斉にあたしに襲いかかった。
「っ!」
次の瞬間、視界がカッと光だした。
デジャヴを感じた。
「眩しっ」
光が引いて周りが見え始めた。
いつの間にかあたしと触手との間に一匹(?)の水縹色のドラゴンがあたしを護るように立っていた。
『〈バインド〉』
ドラゴンが呟くと同時に光の鎖が魔物を拘束する。
魔物が呻き声に似た叫び声を出した。
あ、あんた……!
「ちょっと――ッ! いきなり何なのよ!? 馬鹿なの!? いきなり発光して下手すりゃこちとら失明しとるわあ―――ッ!?」
『なんで私が怒られてるんだ!?』
こいつ直接脳内に……!
ドラゴンのツッコミの声は耳からではなく直接脳内に響いてきた。
テレパシーというやつなのだろうか。
『それに別に私が発光した訳じゃないんだが……』
言い訳は結構よ。
というか、ちょっと声が高いな。
もうちょっと低い声かと思ってたんだが……。
「あっ、メスなのか!」
『最初に気づけ!』
だって、ねえ?
ドラゴンのオスかメスかの見分け方なんて知らないし。
あ、一人称が『私』だったな。
「で、なんであんたのようなドラゴンがここにいるのよ?」
『それはこちらの台詞なのだが……。まあ、唯の通りすがりだ』
「いや、唯の通りすがりがこんな洞穴の最深部に来るわけないでしょ」
『…………』
あ、黙った。
嘘はもっと考えてから嘘つけよ。
「丁度いいわ。なら暇竜。ちょっとあたしの手伝いをしなさい」
『なんでそんな命令口調なんだ』
なんて言うのかしら、なんか龍也や雷土や大地たちと似たようなパシリっぽいから。
『パシリ言うな!』
「ああん? 何か文句あるの?」
『なんで助けに来たのに、凄まれないといけないんだ……』
ドラゴンは不満そうに眉をひそめた。
……いや、表情なんて読み取れないからなんとなくだけどね。
ドラゴンは空中に魔法陣を浮かび上がらせると、腕を入れ巨大な剣を引っ張り出した。
ドラゴン専用武器なのだろうか、滅茶苦茶デカいんだが。
「……ん? あれ、えーと?」
『どうかしたのか?』
「いや、今の動きどっかで見たなあ、て思って。確か日曜の朝8時にやってるあの特撮もの……ほら、シャバドゥビタッチヘンシーンって」
『確かに似てたけども!』
なんて。
そんなコントを繰り広げていたら、魔物を拘束していた光の鎖にも罅が入り始める。
『どうやらあまり時間がなさそうだ』
「ホント、どっかの誰かさんが漫才なんて始めるから」
『…………』
無言でジト目された。
やめてよ。全部あたしの所為みたいじゃん。
「で、話を戻すけども」
『わかった。力を貸すぞ。……というか、私はお前を死守しなくちゃいけないんだが……』
最後辺りのテレパシーが聞き取り難かった。
テレパシーなのに『聞き取れない』って可笑しな話だが。
「え? なんだって?」
『いや、なんでもない』
ドラゴンは長い首を横に振る。
その時、魔物を拘束していた光の鎖が砕け散った。
『くるぞ!』
「オーライ!」
あたしとドラゴンは剣を構えた。
勇者アイの戦いはこれからだ!
ご愛読ありがとうございました。鬼狐先生の次回作にご期待ください。
…………なんちゃって☆
~おまけ~
龍也「母さん。そういえばさ、僕がドラゴンの姿になると服が消えて元に戻ると服も元通りってどういうこと? まさかのご都合主義的な?」
夏海「うにゃ。それはねえ、予め龍也の服に魔法を掛けてて、ドラゴンの姿になると勝手に転送されるようになってるの。で~、人の姿に戻ったら服は再び転送されるってわけ」
龍也「なるほど。じゃあ、転送された服は何処に行ったの?」
夏海「龍也のクローゼットの中に送られるように設定してあるよ。だってさ、人間の姿に戻ったら全裸! とか女の子だったらまだしも龍也のような男の子だと需要が少ないっていう感じだし」
ツッキー「龍ちゃんの全裸見たああああああああああああああああああい!!」
夏海「需要が近くにあった!」
龍也「いらん!」