表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き竜の魔法  作者: 鬼狐
1章 《素直な気持ち》
18/38

第17話 『こいつ……強いぞ!』

『ドラゴンキィーック!!』


 説明しよう!

 『ドラゴンキック』とはドラゴンの姿でキックするという技なのだ! ……ただそれだけだ!

 このドラゴンの姿がキックできるような骨格をしていなかったら、できていなかった。

 右肩に直撃した(不意打ちだし仕方ない)巨人はぐらりと仰向けに倒れた。

 竜族の力なめるなよ! と心の中でガッツポーズしたものの、すぐに『やってしまった』と後悔した。

 約100メートルの巨人が倒れた衝撃の砂煙などでその近くにいてたエレアたちにも被害を受けることになることを気がつかなかった。

 案の定……、


「ちょっと――ッ! いきなり何すんですか!? 馬鹿なんですか!? 下手すりゃこちとらぺちゃんこでしたよお―――ッ!?」


『ごめええええええええええん!!』


 エレアに怒られた。

 エレアの近くにいた他のお二人もお怒りの表情だった。

 ユリィちゃんも頬を膨らませてぷりぷり怒ってる。

 ごめん、正直和むんだわ。

 というか三人とも今の僕の姿を見て何もリアクションしないな。


「まあ、天白様へのお説教は後にしましょう。あの巨人はまた起き上がってくるでしょう」


 ティアラさんの言うとおり、巨人は両手を地面につけて起き上がろうとしていた。

 さっきキックした時、攻撃できたから魔力の鎧はなくなったのは本当のようだ。

 

『僕がいない時、何か変化とかあった?』


「いえ、これと言って………あの、天白さん、もうちょっとしゃがんでくれませんか? ただでさえデカい巨人を見上げないといけないのに、あなたまで図体デカくなって首が痛いです」


『ごめんなさい』


 仕方ないじゃん。この方が戦いやすそうだったし。


「しゃがめ。いえ、伏せろ」


『酷くない!?』


 エレアが僕を虐める!

 僕は慰めて! と他の二名に視線で訴えた。

 ユリィちゃんが顔を少し赤らめた。


「お兄ちゃん、その姿カッコイイですよ。……すごく……大きいですね」


「ユリーシャ様、そのセリフは凄く卑猥です」


『卑猥なのはお前の頭の中だ、この破廉恥メイド!』


「ちょっと皆さん! 戦闘中です! もっと真面目にしてくださいよ!」


 エレアが僕たちに怒鳴る。

 そ、そうだよね。こんな危機的状況にコントしてる場合じゃないよね!


『ごめん……あれ? 元はといえば、お前の所為じゃあ……』


 いや、もういいや。

 振り回され続け、もう諦めた。長いものには巻かれてしまえ。

 そうこうしてる内に巨人が起き上がった。

 さて、一体どうやって倒すか。

 炎を吐いたところであまりダメージはなさそうだし、魔法は……僕あまり使えないし……。


『あれ? 僕あんまり役にたたないんじゃね?』


「そ、そんなことはありませんよ! ほら、ティアラも何か言ってあげて!」


「気を落とさないでください、天白様。あなたにはその脳筋と思われても仕方がない力があるじゃないですか!」


 ……ごめん、ユリィちゃん。心配かけて。

 あとティアラさん、僕をまったく慰める気ないですよねえ!?


「きゃあ!」


 エレアが吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられる。


『エレア! 大丈夫!?』


「げほっ。そんなこと言うなら、私みたく真面目に戦ってくださいよ」


 いや、お前がそれを言うと何か裏を感じてしまうんだが。

 ……でもそうだな。戦わなくちゃな!


「その粋です。天白様」

 

 ティアラさんの声がすぐ後ろから聞こえる。ゼロ距離ぐらいから。

 自分の背中を俯瞰できるぐらいの長い首で振り返ると、ティアラさんが僕の背に仁王立ちしている。


『降りてください』


「いえ、これからは私もお供します。ユリーシャ様はエレア様の治療をして頂いてもよろしいでしょうか?」


「う、うん。わかったっ!」


 ユリィちゃんはエレアに駆け寄る。


「さあ、天白様! GO!」


『犬みたいだからやめて!』


 叫びながら飛び立つ。

 ティアラさんは背中にしがみついている。

 ……あれ? 僕の背中にしがみつける部位なんてあったっけ? ……まあいいや。

 まるで蠅を追い払うように巨人は両腕を振り回す。


「次、右です!」


『うわっと!』


 ティアラさんの指示で僕は巨人の腕を避ける。


「次は上……と見せかけて左です!」


『うおっ!? あっ、遊ぶなああああっ!』


 こちとら真剣なんじゃあああ! 

 赤と白の旗を持って『赤あげないで、白あげない』みたいなことするなよな!

 ティアラさんを振り下ろさない様に動いているのだ。

 その上、まだ体は痛みは完全に引いてない。


「それにしても一体何処に飛んでいくつもりですか?」


『最初に促したのはあなただったと記憶しているけれど……。とりあえず、さっき攻撃した右肩を集中攻撃! 同じ場所を攻撃をすればなんとか!』


「おバカちゃんみたいな発想ですね」


「うるせーやい!」

 

 攻略法がわからないんだから仕方ないだろ。

 巨人は頑丈である。

 僕の『ドラゴンキック』を直撃しても倒れただけで、右肩が潰れることはなかった。

 でも、少しでも傷がついているはずだ。

 なにせ爪や牙もダングステン以上の強度を持ってるし、尻尾だけで20階建てのビルを破壊できるほどのドラゴンの姿の本気の蹴りだから―――しかし。


『………………』


 絶句した。

 右肩と同じくらいの高さまで飛翔して見れば、そこに傷一つなかった。


『なっ、なんだよ……こんなのデタラメすぎるっ……!』


「この巨人の最も恐ろしいところは、巨大な巨体や反則的な攻撃力ではなく、その体の絶望的な頑丈さ――防御力だったということでしょうか」


『くそっ……』


 この状況、実際滅茶苦茶やばいんじゃないか!?

 さっきみたいなグダグダのコントみたいなことする余裕ないぞ!?


「天白様! 上です!」


『っ!』


 巨人の拳は振り上げられていた。

 マジかよ、さっきよりスピード上がってないか!?

 そして振り下ろされる拳のスピードは先ほどよりも格段に速かった。


「〈スロー〉!」


 ティアラさんが叫ぶと拳の速さは格段に下がり、まるでスローモーションになったようだ。


「まさかこんなにも早く動けるなんて――」


『っ! ティアラさん、左だっ!』


 もう一つの拳が左から薙ぎ払うように振るわれる。

 一瞬気が緩んだ僕たちは防ぐ手段がなかった。

 僕は出来るだけティアラさんに衝撃を与えないように体をずらし、それを受けた。

 僕の頑丈な鱗を越えて、僕の骨にまでその衝撃が響いた。相変わらずの反則級の攻撃力である。

 そのまま僕の体は吹っ飛ばされ、ティアラさんも僕の背から振り落とされた。

 

『させるかあ!』


 空中に振り落とされたティアラさんを傷つけないようにキャッチし、翼を含め包み込むように体で覆う。

 そのまま無数の木を薙ぎ倒しながら、地面にスライディングするように着地もとい激突した。


「天白様!」


「グルル……(いったぁ…)」


 体中がもうボロボロだった。

 体を少し動かしただけで激痛が走る。

 でもおそらく大丈夫。僕ならすぐに回復するだろうし。

 ティアラさんもどうやら無事なようだ。身を呈して守った甲斐があったな。


『ギリギリだったけどね』


「申し訳ありません、天白様。私が付いておきながら……」


 先程までおちゃらけてたのにいきなりしおらしくならないでください。

 これでは怒れないよ。


『いや、気にしないで。無事で何よりだ』


 僕は翼を広げる。

 よし、まだ飛べる。


「待ってください! あなたは怪我がっ」


『ティアラさん、僕が時間を稼いでいる間に“センター・ウッド”に連絡してもらえませんか。ユリィちゃんには悪いけどさ、姫様が危険な状態だと知らせれば親衛隊とか兵がすぐに来てくれるでしょう。あまり迷惑はかけたくありませんでしたが』


 もう時間がない。

 僕はティアラさんの返事を聞かずに飛んだ。

 翼を羽ばたかせるだけでも激痛が体を走り抜ける。

 ……あはは。このままじゃあ死んじゃうかもな。いくら回復力が高くとも、それに追いつかない程の怪我をしてたんじゃ意味がない。


「グゥ……ググルゥ……(こんなことなら……もっとアリスをもふもふしとけば良かった……)」


 ああ、今頃僕の帰りを待ってるんだろうな。

 忠犬ハチ公みたく。健気だなあ。

 巨人の拳を避ける。

 避けれたのはいいが、体が思うように動けない。

 もう一つの拳が迫る。

 ああ畜生。藍とだって約束したのになあ。

 もし死んだら怒鳴られるな。それともさっきみたいに泣いてくれるかな。

 怒られたらアリスに慰めて欲しいな、てもうその時には死んでるよね。

 そう死を覚悟した瞬間。


「龍也さま!」

 

 と。

 空の上から我が家の忠犬ハチ公の声が聞こえてきた。

 幻聴かな、もうそんなに酷い状況なのか。


「龍也さまに触れないで!」


 また幻聴が聞こえたと思ったら、僕に迫っていた拳がズルリと落ちた。

 拳だけじゃない。腕の関節の辺りからズルンと落ちた。

 驚きのあまり言葉を失う僕は巨人の腕と共に落ちていく人狼少女の姿を見掛けた。


『アリス!?』


「はいっ!」


 アリスは元気一杯な返事をするとそのまま地面に華麗に着地。

 僕を見上げてニコリと微笑んだ。きゃ、きゃわわわわ。


『え、なんで? なんでここにいるの!?』


 僕も同じく地面に着地する。

 着地した衝撃で足が悲鳴をあげたが、今はそれどころじゃない。


「はい。実は龍也さまの帰りが遅いので、龍也さまの匂いを辿ってここまで来たんです!」


『ここまでって……異世界まで!?』


「はい。私は龍也さまの従者ですから!」


 微笑むアリスがイケメンすぎる。

 アリスは本当にいい子だ。なでなでしてあげたい! でも今の姿じゃあ逆に傷つけてしまうかも!


「それで、そのぉ……」


 アリスが顔を赤くしてもじもじし始めた。

 ん? 一体どうしたんだ?


「りゅ、龍也さまは誰と逢引してたんですか!?」


「グラアアアア!! (してねええええ!!)」


 思わず念話ではなく普通に絶叫してしまった!

 母さんめ。帰ったら説教だ。

 

『してないから! こんな状況でしないし!』


「こんな状況じゃなかったらしてたんですか」


 治療されていたエレアがジト目でこちらを見てきた。

 んなわけあるか馬鹿チンが。


「そうなんですか?」


『そうそう! 母さんのでっち上げだ! というよりもあの巨人をどうにかしないと!』


 巨人を見上げると片方の腕がなくなったことに困惑しているのだろうか、あまり動きが見られない。


「そうですね。では私が行ってきます! 後は私に任せて下さい!」


 とアリスは豊かな胸を張って宣言した。ぽよよーん。


「ご安心ください。龍也さま達には指一本触れさせません!」


 さっきの腕を切り落としたことがある所為か、すごく頼もしいぞ。

 アリスはそのまま飛んだ(・・・)。いや、跳んだ(・・・)

 一回のジャンプで巨人の肘辺りまで跳んでるだから、こんな間違いもあるだろう。

 人狼であるアリスの脚力は一度戦ったことがあるとはいえ計り知れないものだった。

 アリスが巨人のもう一つの腕まで一気に跳び、自分の()を構える。


「右腕――」


 そして右腕を切断(・・)した。


「「「…………」」」


 僕たちは絶句した。

 先程まで攻撃しても傷一つ付けられなかったのにも関わらず、この人狼少女はいとも容易く切断したのだ。

 そのまま右腕と共に落下するアリスは落下中に右腕だった岩を足場にして右脚まで跳んだ。


「右脚――」


 右脚を切断し、今度は左脚に跳んだ。


「左脚――」


 左脚までも切断した。

 支えがなくなった巨人の胴体が落下する。

 アリスは再び跳ぶ。まるで忍者の様だ。


「――胴体切断」


 そのまま胴体までも切断してしまった。

 おそるべきアリス(クロー)だ。

 あんなに可愛いのにやることがえげつない。

 跳んでいる最中スカートの中から黒い布地が見えたことは言わない方が良さそうだ。

 あんなの貰ってたっけ? そういえば、昨日ブラを買ったって言ってたからその時ついでに買ったのか?


 というか、どうやってアリスはいとも簡単に切断できたんだろうか?

 よく見ると切断面が綺麗に斜めに切られている。

 切れ味も抜群のようだ。


「もしかしてあの巨人、劈開性でもあったのかな」


 人間の姿に戻り、ぼそりと呟いた。


「劈開性?」


 エレアには聞かれていたようだ。


「鉱物学などで使われる用語で、結晶や岩石の特定方向への割れやすさを表す言葉です」


 ティアラさんが僕の代わりに答えてくれた。


「例えばダイヤモンドは最高の硬度をもっていますが、正八面体の面に対して平行に簡単に割れます」


 そう続けた。意外と博学なのかな。

 というよりもいつからいたんですか。


「実は結局連絡するか悩んでいる最中に巨人の様子がおかしかったので戻ってきたのですが……これはエグい」


 ティアラさんでも引いていた。

 そりゃそうだ。


「ティアラ! 大丈夫だった!?」


 ユリィちゃんがティアラさんを心配して駆け寄る。


「ええ。天白様が身を呈して守っていただきましたから」


 こうしてみると二人はいいコンビだと思うんだが……。


「ユリーシャ様はお怪我はありませんか? いえ、ここは私が検査いたしましょう。まず、その控えめなちっぱいから――」


「おいこら。自重しろロリコンメイド!」


 さっきまでのシリアス空気を返せ!


「ふぅ、終わりましたよぉ~!」


 アリスは額の汗を拭うとまるで何事もなかったようにこちらに駆けてきた。


「これで終わったのかな。最後が……うん、あれだったけど」


「いえ、多分まだでしょう。もしあれがゴーレムだとすれば、最後は粘土へと変わる筈ですから」


「ええっ!? じゃあまだ続くの!?」


「ゴーレムが動き出さないということは安全でしょうが、ゴーレムを破壊するのには、ゴーレムの額に付いた『emeth(真理)』と書かれた羊皮紙の『e』を消して『meth(死んだ)』にすればいいのですが」


「でも、元から頭部なんてなかったし」


「あの~」


 アリスが何か言いたそうに小さく手を上げた。


「どうしたの? 何かわかった?」


「いえ、先程あれを切ってる時にこれを見つけて……」


 と一枚の半皮紙を広げた。

 そこには『emeth』という文字が書かれていた。


「おそらく体の中にあったものだと思います」


「…………」


 ティアラさんは無言で『emeth』の『e』を消して『meth』にした。

 すると同時に巨人だったそれは、どろどろの粘土へと変わり果てた。

 先程まで大苦戦してたのにアリスが瞬殺してしまった。


「…………なんか私たち馬鹿みたいですね」


「そうだな。理由はわからないけど馬鹿みたいだな」


「えっ? えっ? えっ?」

 

 状況を理解していないアリスはオロオロし始める。

 はは、アリスは何も悪くないよ。ただ……ただねえ……。


「僕たちの苦労はなんだったんだああっ!!」


 僕の叫びは、さながらドラゴンのようだったそうだ。

 あ、しまった。竜族だった。

ラストは呆気なく終わるのが僕のジャスティスです!

でも、アリスとの戦いの時だって、最後は呆気なかったですね。何故でしょう?

次回は藍視点! 一体誰が彼女を異世界に呼んだのかが判明しちゃうぞ!


 ~おまけ~


龍也「アリス、ありがとうね。なでなでしてあげよう!(なでなで)」


アリス「わふぅ、わ、私は当然のことをしただけですぅ」


龍也「よーしよしよしよし」


アリス「くぅ~ん♪」


エレア「……なんだかんだ言って、一番の変態は天白さんかもしれませんね」


ティアラ「可能性はありますね」


ユリィ「いいなあ、私もお兄ちゃんになでなでされてみたいです……」


 因みにその後、ユリィもアリスの勧めでなでなでしてもらうことになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ