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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
1章 《素直な気持ち》
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第16話 『素直な気持ち』

「藍っ!?」


「あの人が天白さんが探していた女の子ですか。でもなんであそこに……?」


「そんなん知るか!」


 僕は翼を広げ、飛んだ。

 赤い球体と同じぐらいの座標まで飛ぶ。

 赤い球体の中では藍が倒れていた。

 どうやら気絶しているようだ。

 くそっ。


「おい! 藍! 目ェ覚ませ!」


『………………』


 反応がない。もしかしたら、声が届いてないのかもしれない。

 だったら、この球体を壊すまでだ。

 僕は拳を振りかぶる。


「お兄ちゃん!」


 僕が球体に拳をぶつけるのを阻止しようとユリィちゃんが僕を呼ぶ。

 しかし、遅かった。

 僕の拳が球体に当たってしまった。

 そして吹き飛ばされた。


「っ!!」


 拳が吹き飛ばされたわけじゃない。

 僕の身体ごとが後ろに吹き飛ばされた。

 なんとか空中で体勢を立て直した。

 拳を見ると、肉が削がれて骨が剥き出しになっている。

 痛い。熱い。でも凄く痛い。

 思わず悲鳴を上げそうになったが、なんとか堪えた。


「お兄ちゃん! 多分この巨人の周りには目には見えない魔力の鎧みたいなものがあるんです!」


 流石魔法界の姫様と言ったところか。見ただけでそんなものまでわかっちゃうのか、見えないのに。

 それにしても、鎧? 

 エレアちゃんに作ってもらった魔力の膜のパワーアップ版みたいなものだろうか。


「おそらく、この魔物は人工的に造られたゴーレムの類でしょう」


 ティアラさんも場合が場合で完全シリアスモードに入っている。

 先程の変態顔はどこへやら。


「人工的? じゃあ誰かが造ったってこと」


「はい。推測ですが、魚住様を取り込んだことで起動したんだと思います」

 

 なんてことだ。

 ……僕がもっと早く来ていれば!

 

「何か方法はないんですか!?」


「わかりません。――が、とりあえず藍様を救出しましょう。もしかしたら寝てるだけかもしれませんし」


 いや、流石藍でもこんな状況で寝てはいないだろう。

 でも、死んでもいないはずだ。きっと生きている。


「藍! 早く目を覚ませ!」


『…………』


 しかし藍に反応はない。


「おい貧乳ううううううううっ!!」


『誰が貧乳じゃああああああっ!!』


 あ、目が覚めた。

 倒れていた藍は怒りの叫びと共に跳ね起きた。


『おい馬鹿龍也! もう一度言ってみなさい! もう一度言ったらぶっ殺すわ!』


「理不尽すぎる!」


 でも、いつもどおりの藍だった。

 良かった、と安堵する。


『って、ここ何処よ? なにここ? てゆうか龍也あんたなんで浮いてんの!? 翼!? コスプレ!?』

 

 藍は、赤い球体を内側から殴りつけている。

 どうやら状況を理解できていないようだ。

 逆にできていたら恐ろしいが。


「あー、これにはちょっとしたわけ」


「天白さん! 上!」


「ぅへ?」


 完全に気が抜けていた。

 藍が無事(?)だったことに安心しきっていた。

 エレアの声で上を振り向く間もなく全身に強い衝撃が二回受けることになった。

 一つ目は巨人がその巨大な手で僕を叩き落したのだ。

 手の大きさは僕よりも何倍も大きいし、おそらく普通の人なら蚊でも潰すようなものだったのだろう。

 二つ目は地面に叩きつけられた衝撃だった。

 地面に凄い威力で叩きつけられた僕は地面を抉り、小さなクレーターのようなものを作り出していた。

 おそらく内蔵も幾つか破裂し、骨だって何十本も折れているだろう。

 ……いや、わかんないよ? 痛み的にそんな感じがしただけ……。


「ぐふっ、げほっ、ごほっ……!」


「お、お兄ちゃん! 大丈夫ですか!?」


 ユリィちゃんたちが心配して来てくれた。

 

「大、丈夫っ……」


 本当は全然大丈夫ではないけれど、強がってみせた。

 巨人が襲いかかってくることに気を回せていなかった。


「みんな、お願いがある」


「お願い?」


「うん。ちょっとの間でいいから、巨人の動きを止めて欲しい」


 巨人を再び拳を振り下ろす。

 ティアラさんは僕たち三人を抱えてそれを避け、巨人から少し距離をとり僕たちを下ろした。

 馬鹿力だなあ、と思ったらティアラさんに睨まれた。


「それで、天白様は魚住様を助け出す方法を?」


「はい、見つけました。やってみなくちゃわかりませんけどね、魔法使うの初めてですし」


「よくわかりませんけど、わかりました! お兄ちゃんのお願いですから!」


 ユリィちゃんは巨人に向けて手を掲げて、叫ぶ。

 

「〈バインド〉!」


 叫ぶと同時に巨人の周りに無数の魔法陣が展開される。

 

「おお、あんなにたくさんの魔法陣を一斉に展開するなんて凄いですね」


 エレアが関心の声をあげる。

 魔法陣から光の鎖が飛び出し、巨人を拘束する。


「お兄ちゃん、今です!」


「ごめん、ありがとう!」


 まだ痛む翼を羽ばたかせ、藍のところまで飛ぶ。


『龍也……!』

 

 藍が不安そうな顔をしてる。意外とレアだ。


「大丈夫。すぐに出してあげるから、ちょっと離れてて」


 藍は言われたとおり、数歩下がる。

 僕は球体目掛けて突進する。


「〈トランスペアレント〉&〈ホール〉!」


 叫ぶ。

 球体に魔法陣が描かれ、そこに体当たりする。

 ぽん、と僕の体は球体に吸い込まれるように入った。

 そしてズルリと足を滑らせ、球体内で転倒する。


「……鈍臭」


 ほっとけ!

 起き上がり、辺りを見渡すと赤一色。

 ガラスのようなものだろうか。


「ねえ、龍也。さっきの……」


「ごめん。後でいい?」


 『さっきの』とは僕の使用した魔法のことだろう。

 〈トランスペアレント〉は数少ない無属性の魔法である。

 効果は、『実態のない壁を通り抜ける』というものだ。

 実態のない、つまりは空気や音や魔力(・・)の壁などしか通り抜けることが出来無いのだ。

 普通のコンクリートや木材の壁は通り抜けることが出来無い。

 こういう不便というかあまり必要のない魔法が無属性には多いらしい。

 〈ホール〉は、文字通り穴をあける魔法である。

 基本どんなものでもあけることができるが、それだけだ。


 僕がここに侵入することができたのは、〈トランスペアレント〉で魔力の鎧を通過し〈ホール〉で球体本体に穴をあけ、侵入するという至極簡単なものだ。


「藍、脱出するから僕に掴まってて」


「い、嫌よ!」


 藍は少し顔を赤くし拒否する。


「いいから早く!」


「ああ、もういいわよ!」


 藍は、僕の左腕を掴む。

 

「いくよ!」



  ◆



 結果大成功。わーい。

 巨人は赤い球体から藍を救出したと同時にその場に倒れた。

 藍が動力源だったのだろうか。

 ちなみにユリィちゃんによると魔力の鎧も消えているらしい。


「凄いですねお兄ちゃん! 私無属性の魔法初めて見ました!」


 地面に着地するや否やユリィちゃんが瞳をキラキラさせてやってきた。


「いや、別に凄くないけど。……どちらかといえば、ユリィちゃんの方が」


「いいえ! そんなことはありません。私なんてまだまだです! 9才ですもん!」


 マジで幼女だった。母さんのような合法ロリじゃなかったんだ。


「まあ、とりあえず、これで一件落ちゃ―――」


 ゴトリと巨人の指が動いた。


「…………!」


 戦慄する。

 もう終わったんじゃないか!?

 巨人は地面に手をつく。立ち上がるつもりだろうか。


「天白さん! あいつが立ち上がる前に魚住さんを連れてできるだけ遠くに!」


「はあ!? いきなり何を」


「魚住さんを庇いながら戦うの難しいんです! だから安全な場所に!」


 エレアの言うことはもっともな正論だった。

 僕は藍の手を握る。


「わかった! すぐに戻ってくるから!」


 そのまま手を握ったまま走り出した。

 藍が走りながら何か言っているようだったが、聞かずに走った。



   ◆



 離れた場所まで走ってきたので、普通の人間の藍は肩で息をしていた。

 聴覚と嗅覚で魔物がいないことを確認する。


「よし。ここは安全だ」


「あ、あんた、体力ありすぎよ」


 竜族ですから。

 藍は次第に呼吸を整える。


「で、さっきのは何? ここどこなの? あんたの翼って本物なの?」


 いきなり質問責めにされた。

 ちょっと落ち着いて欲しい。


「落ち着けるはずないでしょ!!」


 その通りである。ごめんなさい。

 でも、藍には出来れば話したくないんだよなあ。


「と、とにかく、僕はこれから三人の元に戻らくなくちゃいけないから、その話はおいおい……」


 僕は藍に背を向け歩き出した。


「待って!」


 が。

 藍の呼び止める声に足を止めた。


(このままだと龍也がどっかに行っちゃう……! 言わなくちゃ……! 自分の素直な気持ちを!)


『藍ちゃんはやっぱり自分に素直にならないとダメかもね』


 あの時、あの変態が言っていたのを実行するチャンスだと藍は思った。


「……ねえ。龍也、ここに残ってよ」


「いや、このままだと三人が」


「龍也はあたしが大切じゃないの?」


「はあ!?」


 なっ!? いきなり何言って……!

 混乱する僕を見据えながら藍は言葉を続ける。


「龍也はあたしを助けに来てくれたんじゃないの? 変なところに突然連れてこられて、龍也が助けに来てくれたと思ったら、何も説明してくれないでまたどっかに行っちゃうし……。ねえ、あんたはあたしのことを大切じゃないの?」


「……っ!」


 藍は泣いていた。

 瞳からポロリと涙が溢れ落ちる。

 藍が泣いているのを見るのは久しぶりだった。

 いつも強気な幼馴染が今はしおらしい。

 

「あたし、すごく怖かった。携帯も圏外だったし、誰もいないし、わけわかんなくなって、すごく……すごく怖かった! ……龍也が来てくれた時は嬉しかったんだから……」


「藍……」


「……あたしは、あんたのことを大切に想ってる。あんたはあたしのことを」


「大切に決まってるだろうが!」


 僕は未だ泣き続ける藍の肩を掴む。


「お前のことをずっと大切だと想ってる! だからここまで来た! そりゃあ、時間掛かったし道草みたいなのも食ってたけどさ! それでも、お前のこと心配でここまで来たんだ!」


「龍也、あんた……」


「この状況だって話せない理由がある。藍だって不安なこともわかってるつもりだ」


 僕は指で藍の涙を拭う。


「でも、今は行かせて欲しい。あいつらは、お前を助けるために手伝いをしてくれたんだ。エレア達も大切な奴らなんだ」


「……いい……」


 藍は、僕の服の掴む。

 決して離したくない想いで僕の服を掴んだ。


「もういいから、あたしは何も聞かないから……このことだって忘れるから! もう何もいらないからあっ! だから、だからぁ! お願いだから……今だけは、一緒にいてよぉ」


 藍の顔は泣いてるせいで、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

 そんな藍の頭を撫でる。少し泥がついていた。

 ずっとこの森にいてたんだもんな。


「……ごめん。本当にごめん。お前が僕のことをそこまで想っていたなんて知らなかった。凄く嬉しかった。お前の口からそんなことを聞けて良かった。……だけど、お前の気持ちに応えることは出来無いよ」


「龍也……」


「その代わり、戻ってきたら全部話すよ。藍に隠してたことを全部。腹を割って話そう」


「…………」


「僕は、みんなのことを大切だと想ってる。母さんもツッキーもエレア達だって、みんなのことを大切で大好きだ。みんなのことを護りたいと思ってる」


 藍は俯いた。

 どんな表情をしているのか見えなくなった。


「勿論、藍も同じだ。同じぐらい大切で大好きだ。もしお前がまた何かに巻き込まれたら、助けに行ってやるよ。僕がお前を護ってやる! だから、今は行かせて欲しい!」


「……わかった、わかったわよ。仕方ないわね」


 僕の服から手を離し、自分の涙を乱暴に拭う。


「絶対、絶対に戻ってきなさいよ。……あと、ちゃんと護りなさいよ」


「約束するよ。……あー、流石の藍でも僕に惚れないように注意しとけばいいよ?」


 元気づけるようにおどけて言ってみた。

 結構恥ずかしいよ!


「……何言ってんのよ、バーカ」


 藍は笑った。

 僕もつられて笑った。


(……もうどうしようもなく大好きなのよ、馬鹿龍也)

はい。やっと素直になれました。駄文でわかりにくいですが。

1章『素直な気持ち』完結! ※嘘です。


 ~おまけ~


 龍也が藍とイチャコラしてる同時刻の天白家。


アリス「龍也さま、遅いですね」


夏海「もしかしたら、逢引してるのかも!」


アリス「あの、逢引とは何ですか?」


夏海「それはね、愛するカップルがね、こっそり《ピ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――》しちゃうというものなのよ!(※冒頭しか合ってません)」


アリス「わふっ!? そ、それは本当ですか!?」


夏海「ええ、本当よ。(※紛れもない嘘です)さあ、アリスちゃん、龍也たちを探し出すのよ! そしてこう言うの! 『私も混ぜてください!』ってね! …………あれ? もういない? ムフフ。本当に逢引してたら良いのになー」



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