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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
1章 《素直な気持ち》
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第12話 『母・親・承・認!』

今回は普通に龍也視点です。

 目が覚めたら馬乗りにされていた。

 ……また……僕が下なのか。


「おはようございますっ、龍也さまっ」


 僕に跨ってにっこり微笑む狼耳少女。

 ぴこぴこ動く耳と合わせると破壊力は抜群だ。

 うん、いい心がけだね。笑顔で挨拶は重要だね。

 でも僕の上でしないでもらいたい。


「お、おはよう、アリス」


 狼耳少女――アリスは僕から下りるとベットの脇にちょこんと正座した。

 尻尾をぱたぱたと揺らして、こちらを見るアリスは、餌の前で『待て』をしてる仔犬のようだ。

 はあ……和むなあ。


「……えっと、なんで僕の上に?」


「夏海さまが龍也さまを起こすときにこのように起こすと喜ぶと聞きまして」


「喜ばねえよ!」


 そんな趣味はありません!


「す、すみません。ご迷惑でしたか……?」


 耳を伏せて尻尾の動きも勢いが急速にダウンした。

 すごくしょんぼりしてる。

 ……ごめん。罪悪感はあるんだけど、可愛い。


「あ、いやっ! そんなことないよ。むしろ起こしてくれてありがとうね」


 微笑んで見せたが、ニヤけてないか少し心配した。

 しかし、アリスは僕の言葉にぱああ、と顔を輝かせた。

 しょぼんと垂れた耳はピンと立ち上がり、尻尾のぱたんぱたんと勢いよく振られている。

 感情が表に出やすい子だな。だが、それがいい。


「……ところで、僕のことは普通に呼んで欲しいんだけど」


「ダメです」


 即答された。

 アリスも舞に似て頑固なところがあるようだ。


「これは、龍也さまの――主人の供をする者として当然のことですので」


 強い意志が感じられた。

 うーむ。ここで拒否するのは野暮というものだろうか。


「ええっと……じゃあ、もうそれでいいです。でも外ではその呼び方はやめてよ? 変な誤解を生むから」


「はい。龍也さまにご迷惑はおかけしません!」


 むんと豊かな胸を張るアリス。

 揺れる豊かな二つのお山。

 そういえば、ブラ付けてなかったんだっけ。

 服の上からでもよくわかるよ、その揺れは。


「……服は大丈夫?」


「え? あ、はい。大丈夫です。尻尾の穴も開けてもらいましたし」


 アリスの尻尾はまだぱたんぱたん揺れている。

 補足しておくと彼女の尻尾や耳は舞のように出し入れが出来るらしい。便利だね。

 アリスの今の服装は、ドルマンニットとキュロットである。

 実はコート一着しか持っていおらず、下着すら持っていないアリスは舞や橘からいらない服をいただいたのだ。

 ……まあ、僕の家には女性用の服が母さんの子どもの服しかないしね。

 ところで、穴を開けっちゃたそれは家の中でしか使えないね。


 くきゅるるるるるるる、とどこからか腹の音が聞こえた。

 僕ではない。ということは……?

 ちらりとアリスの顔を窺う。

 

「わ、わぅ……」


 顔を真っ赤にし自分のお腹におさえる。

 ああ、アリスの行動はいちいち可愛いなあ。

 なんだかツッキーと長年つるんでるから女の子を見る目が変わってしまってる気がする。


「え、えっとえっとえっとっ! 実は朝食を作ってたんです! 龍也さまもすぐに来てくださいねっ」


 アリスは、ドタバタと部屋から出て行った。

 アリスを見てると飽きないな。

 ……やばい。思考がツッキーのようになってきた。

 僕は健全だ! 僕の周りはまともな奴が少ないんだから、僕がしっかりしなくちゃ!


「……とりあえず、着替えよう」


 僕は昨日のあの後のことを思い出しながら、クローゼットから制服に手をかけた。



   ◆



「どう? 服の大きさはだいたい同じくらいなんだけど」


「あ、はい。大丈夫ですよ。ありがとうございます」


「いや、いいよ。流石に年頃の女の子をコート一枚で天白くんの家に放置するなんて、ねえ」


「地味に傷つくな」


 夕食後、舞と橘は一度家に帰り、いらない服などを態々持って来てくれた。

 僕の部屋はアリスの着せ替え部屋になってしまった。

 舞と橘はやけに乗り気にアリスに着せ替え、ツッキーは着替えるアリスを息を荒げて舐め回すように見ていたらしい。もちろん僕は追い出されたので、母さんから聞いた。

 そして、居間でお披露目みたいになってこの会話。地味に傷つくわ。

 

 少しアリスと話をしてわかったことは、彼女は名前や一般的な知識以外の全ての記憶を失っていた。

 つまりは、アリスが僕を襲っていた時の記憶も失っているのだ。

 そのためアリスには、帰る場所がない。家がないのだ。

 いや、帰る場所はあるかもしれないが、それに関する記憶を損失してるのだ。

 だから、僕の家でせめて記憶が戻るまで住むことになった。

 僕の家は母さんと僕の二人だけしかいないのにも関わらず、思いのほか広い方のため部屋が余っている。


 舞たちにお礼を言いながら微笑むアリスの顔にはどこか不満の色があった。

 本人は必死に隠しているようだが、尻尾も不満げに揺れている。


「アリス。僕が言うのもなんだけど、不満があったら言ってね」


「い、いえ、そんなことは……」


 僕がそう気遣うと慌てるアリス。


「そうですよ。龍也さんの言うとおりです。遠慮なんかする必要ないですよ」


「でも、こんなに色々していただいて……」


「心苦しいのはわかるけど、遠慮ばっかりしてると天白くん、何を仕出かすかわからないよ」


 舞と橘も追撃する。

 いや、橘の言うことは信じるな。


「え、ええと、実は、ちょっと言いにくいですけど。……胸の辺りが少しキツイです……」


 彼女も魔法を使えるようだ。空気が一瞬で凍った。

 ……そりゃあ、言いにくいよな。


「あ、あは、あははは。そ、そーだよねー。アリスちゃん胸大きいものねー」


「た、たしかに私たちなんかのブラとはサイズが全然合わなかったですしねー」


 あはははー、と乾いた笑いをする二人。

 ……が、頑張れ!

 どこか遠くを生気の感じられない目で見ている二人は何も見えてないらしい。

 具体的には、オロオロするアリスの胸と自分の胸を交互に見て、勝ったなり! とガッツポーズを決める変態狐を視界に入ってないぐらい。


 ツッキー>アリス>>メールさん≧ラルク先生>>>>舞>>橘>>藍>>母さん


 という方程式を想像してしまったことを許して欲しい。


「でも、どうするの? アリスちゃんのブラは」


 少女漫画から目を離さずに母さんは尋ねた。


「そーですねー。ブラのサイズは合わないですもんねー」


「どうしましょうかー。あははは」


 お願い! 元気出して二人共!

 しかし、心の中で応援しても彼女らの目には生気は戻らない。


「まあ、もう夜も遅いからね。明日買えばいいんじゃない?」


 と提案したのはツッキーだった。

 ツッキーにしては普通の意見だった。


「ちなみに今日の私はブラをつけてないしね! 先っちょは絆創膏を貼ってるよ!」


 なぜ付け足した!?

 


   ◆



「あ、この味噌汁おいしい」


 下に降りれば、既に机に朝食が並べられていた。

 焼き魚に味噌汁に納豆におひたしとご飯、至って普通な和風朝食セットである。

 アリスは律儀に僕が来るのを待っていてくれたようだ。

 母さんはもうすでに食べ始めていた。薄情者め。

 いただきます、と手を合わせ食事前の挨拶をし、味噌汁を一口。


「お口に合って良かったです」


 アリスは嬉しそうに尻尾を振った。


「でも、凄いね。昨日来たばっかりなのに」


「いえ、昨日あれから炊飯器などの使い方を教えてもらいましたし、これぐらいはしておかないと」


「すごく美味しいよ」


 結局、全員(アリス除く)帰宅した後、アリスは電化製品の使い方を教えて欲しいと頼んできた。

 教えている途中で気づいたことは、アリスはどうやら電化製品に関しての知識を忘れているのではなく、元から知らない(・・・・・・・)みたいだった。

 それでも彼女はすぐにその操作方法を記憶していった。


 僕とアリスは朝食を食べながら軽い会話していると、母さんが僕とアリスの顔を交互にまじまじと見て一言。


「二人共仲いいね。子作りしちゃえば?」


「ぶふっ!!?」


 僕たちは、味噌汁を盛大に噴き出した。

 ああ味噌汁よ、ごめんなさい。


「な、何言ってるの!?」


「そ、そうですよ! いきなりそんな……!」


 あたふたと慌てる僕たちにニヤリと愉快そうな顔をする母さん。


「だって、昨日あったばっかりでしょ? それなのにそんなに新婚夫婦のように話しちゃって。まあ、こんなに美味しい料理を作れるアリスちゃんだし~。……うんっ! 龍也のことよろしくね!」


「い、いや、勝手に話を進めないで!」


「えー、じゃあ、藍ちゃんとかツッキーちゃんとか舞ちゃんとかあゆみちゃんとかの方が好みなの? あっ! もしかして全員攻略しちゃうの? ハーレムエンドしちゃうの? 全員孕ませちゃうの? それはそれで母親として燃える展開だからいいけどね!」


「しないよ!」


「えっ!? じゃあ、私!? いや、隠しルートで私を狙うのは……ね? 私にはだぁりんがいるし、近親相○はまずいと思うよ、うん」


「そっちの方がねえよ!」


 顔をほのかに染め、モジモジし始める母さん。

 ちらりと、アリスを見れば顔がこっちは完全に赤く染まっている。

 いますぐこの場から逃げたいと思った。

 ど、どうするどうすれば、この状況から逃げられる!?


「ああ、味噌汁が溢れてるー! 雑巾もってこなくちゃー!」


 席を立ち、洗面所にダッシュする。


「ああ、私が行きましゅよ!」


 アリスも立ち上がった。

 彼女もあの場を逃げたかったようだ、噛むほどに。



   ◆



 洗面所。

 別に狭いわけではない。余裕でスペースがあるが、同い年ぐらいの美少女(狼耳付き)と一緒にいるのはちょっとドキドキするというか心拍数が上昇するというか。


「ご、ごめんね。母さんが変なことを言って。別に悪気が……あると思うけど」


「い、いえ。いいんです。でも、ちょっと恥ずかしかったというか…………嬉しかったというか……」


「え? 嬉しかった?」


「な、なんでもありません! 気にしないでください!」


「う、うん」


 そして沈黙。

 どうする。さっきと全然変わらない。この場からも逃げ出したい。


「りゅ、龍也さまには」


「え?」


「その、いい人がすぐにみつかると思いますよ。ツッキーさんとか舞さんとか橘さんとか私なんかよりも可愛くて優しくていい人がいっぱいいますよ」


「いや、アリスだって可愛いし優しい良い人だと思うよ」


「そ、そうでしょうか? 私は……」


「さっきも言ったけど、味噌汁美味しかったし。具体的には、えっと、毎日食べたいくらい!」


「ま、毎日!?」


「だから、そんな謙遜することないよ。もうちょっと自信を持ってもいいよ」


「………………」


「……あれ?」


 アリスの顔は再び真っ赤に熟していた。

 ……あれ? もしかして僕、ものすげえ恥ずかしいこと言ったんじゃない?


「げっへっへっへ」


「ッ!?」


 ドアの向こうから下心剥き出しな笑い声が聞こえた。

 がちゃりとドアが開き、母さんが顔を出した。


「もう、こんなところでにゃんにゃんすることないのに~。ベットの上でして来たら?」


「してない! しない! あと隠語が若干古い!」


「淫語?」


「隠語!」


「大丈夫、学校には私が伝えておくよ。ああ、あと避妊具も買って来なくちゃね」


「前提で話をしないで!」


「もう、安心してよ! 絶対に二人を邪魔しないよ。……その、龍也が3《ピー》をしたいって言うなら話は別だけど」


 だから頬を染めるなあ!!

 その後、家を出るまで母さんに弄られる羽目になった。


『まさかアリスちゃんが弁当を作ってたなんて! これぞまさに愛妻弁当だね!』


『ほら、アリスちゃん! 龍也にいってらっしゃいの“ちゅー”は!?』


 だとか。正直勘弁してほしい。



   ◆



「おはようございます。龍也さん」


 自分の机に置いて席に着いたら舞がいつもどおりのスマイルで挨拶してきた。

 どうやら昨日の出来事はなかったことになったようだ。

 昨日は帰る後ろ姿もふらふらとゾンビみたいだったし。


「おはよう。舞」


「アリスちゃん、大丈夫でしたか?」


 僕は頷いた。


「うん。元気だよ。今日の朝ごはん作ってもらっちゃったし、弁当も作ってもらったし」


「べ、弁当!?」


 うん? 舞の表情が青ざめていくぞ? なんか何かに憑かれたみたいにブツブツ言い始めたぞ!?

 

「龍也さん!」


「ぅへ!?」


 急に言われて変な声が出た。久しぶりに出た気がする。


「きょ、今日一緒にお昼食べましょう!」


「う、うん。別に良いけど」


 良いけどさ、なんでそんなにムキになってるの?

 それから、舞と他愛もない会話をしていると藍が教室にいないことに気づいた。


「あれ? 藍は来てないの?」


「ツッキー先輩のところに行きましたよ」


「へえ。ツッキーのところにねえ」


 ……それ大丈夫なの?

 いや、大丈夫か。ツッキーのセクハラを藍なら撃沈させられる。


「でも、ちょっと遅いですね。もうそろそろチャイムがなりますよ」


 時計を見れば、HRの始まる五分前だった。


「うーん。心配ないと思うけど、見てこようかな」


 教室から出ようとしたら、舞と出会い頭のごっつんこになりかけた。危なかった。


「ああ、藍。なかなか帰って来ないから、もしかして気づいてないのかと思ってた」


 そう言うとなんだか不機嫌というか不愉快そうな顔をされた。解せぬ。


「あっそ。で、あんたは何処行こうとしてるのよ。チャイムなるわよ」


「いやだから、お前を探そうとしてたんだよ」


「なっ!?」


「まあ、舞からツッキーに呼ばれてたことを聞いたから、別にあんまり心配してなかったけどさ」


 藍の顔がみるみる赤く染まる。

 もしかして、ツッキーにセクハラされたのだろうか。

 あ、顔を伏せられた。

 僕はそこで藍が首にペンダントを下げていることに気がついた。


「あ、ところで、そのペンダントって……」


 僕はそのペンダントを指差す。


「ああ、今日机の中に見つけたのよ」


 へえ。そんなの持ってたのか。


「よく似合ってると思うよ」


 感じたことを口に出した。

 藍の顔が先ほどよりも赤く染まっていく。もうトマトみたい。

 藍はスリッパは取り出し、全力で僕の頭に叩きつけた。


「いだっ!」


「な、なに言ってんよ! お世辞なんかいらないわよ! バカっ!!」


 悶絶する僕を通り過ぎ、藍は自分の席に着いた。

 その藍の後ろ姿はどこか切なげで、震えてるように見えた。


 その後、藍とはまともに喋ることなく帰宅することになった。


 ――翌日、藍は突然消息を絶った。

母・親・承・認! 

まあ、アリスは良妻賢母的ヒロインにする予定ですからね。


 ~おまけ~


 龍也が学校で授業受けてる同時刻。


夏海「さあ、下着売り場に来たわよ! さあ、アリスちゃん勝負下着を選んで! 清純そうなピンク? 白? それともセクスィーな黒?」


アリス「ええと、もうちょっと控えめな……」


夏海「何言ってるのよ! 想いの人が同じひとつ屋根の下にいるのよ! 何時エロゲ的な展開になるかわからないのよ! 常時勝負下着を付けるべし! 勝負下着と思える下着しか買ってあげないからね!」


アリス「ええっ!?」


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