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白き竜の魔法  作者: 鬼狐
序章 《覚醒のプロローグ》
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第10話 『真実と萌やし』

序章ラストです。

 冷蔵庫を開けるとそこは萌やしの楽園だった。

 要は冷蔵庫の中が萌やしに埋め尽くされていた。

 開けた瞬間、萌やしの雪崩が起きたぐらい。

 おそらく母さんが安いという理由だけで購入したんだろう。

 

「はあ……、仕方ない。今日は萌やし料理でいいか。……いいよね?」


 萌やしのパックを数個取り出しながら後ろで大量の萌やしに言葉を失ってる舞に尋ねる。

 その場のノリで全員が我が家で夕食を食べることになったのだ。


「あ、はい。いいですよ」


「うわ、龍ちゃん。何この大量の萌やし!?」


 居間からツッキーがひょっこり顔を覗かせて驚いた。


「母さんが買ってきたんだよー。まったくー」


 後で説教だな。

 当分萌やし料理だよ。

 あ、でも今日大量に消費すればいいか。


「でもいいよねー、萌やしって」


「……具体的には何がいいんだよ、ツッキー」


「だって、値段は安いのに萌やしって栄養あるらしいじゃん」


「そうだね」


「そういうところギャップに萌えない? 多分それが『萌やし』って書く由来だよ!」


「もしかして、あれ伏線だったのか!?」


『そういえば、龍ちゃん。食べ物のモヤシって、『萌やし』って書いたりするんだよ』


 確かにこんなこと言ってたけどさ。


「そう! 私は今日龍ちゃんの家で萌やし料理を食べることがわかっていたのさ!」


((絶対嘘だ。その場のノリで言ってるに決まってる……))


 僕と舞の考えがシンクロ率四百%を超えた瞬間だった。


「わかったから、料理しない人は戻ってくださーい」


「は~い」


 ツッキーは、元気に返事をして居間に顔を引っ込めた。

 少しは手伝ってくれる気はないのか。


「ツッキー先輩は料理できないんですか?」


「サラダ油と……醤油と……、え? ああそうでもないよ」


 冷蔵庫から食材らを出して台所に並べる。ああ、あと鶏むね肉。


「ツッキーは基本はできるし、簡単なものはできるけど、結構軽く済ませちゃうタイプなんだよ。ほらカップラーメンとか」


「はあ……、そんな食生活なのにあんなに大きく……」


 舞は居間の方を、というかツッキーの方を羨ましそうに見ていた。


「ごめん。何の話?」


「いえ、何でもありません」


 しかし舞の目は遠い目をしていた。

 ……安心しろ。舞も小さくないと思うから。これからだって成長すると思うから。


「ところで橘さんは料理しないんですか? 出来そうですけど」


「……何も言ってやるな。泣きたくなるから」


「……はい」


 僕たちは少々暗い空気の中で料理を始めた。


「それで、今回は何を作るんですか、先生?」


「はい。今日は手軽にできる萌やし料理を二品作りたいと思います」


「え? 二品もですか?」


「はい。まず『萌やしの豚肉巻き』と『萌やしと鶏むね肉の炒め物』です」


「テレビの前の皆さん、メモの準備は出来ましたか? それでは先生、早速お願いします! ……こんな感じでどうでしょう?」


「別に料理番組風にしなくてもいいんだよ?」


 冗談ですよ、と笑う舞には猫耳(+尻尾)は出ていない。

 出し入れが自由のようだ。

 

 僕は先程の会話を思い出しながら、萌やしのパックの袋を開けた。



   ◆



「先生が……送った……?」


 一瞬思考が停止する。

 それって、一体どういうこと……?


「だからー、龍也くんのところに魔物とか送ったのは私なんだよ~☆ 魔物が出た時さ、魔法陣が出たでしょ? あれ、転送魔法の一種なんだよね」


「……じゃあ、今日の……あの気持ち悪い魔物も?」


「うん。だからそう言ったじゃん」


 握り締める拳が震える。


「どうして」


「え、理由訊いちゃう? まー、別に隠すことじゃないからねー。これは実は龍也くんの為だったのだ!」


「僕の為って……?」


「ほら、あの時襲われたおかげに血の覚醒が起こったわけじゃない? 少年漫画のお約束じゃない? ピンチの時に真の力に目覚めるとかね」


 言葉が出ない。

 体の振動がどんどん大きくなる。

 もう抑えられそうにない。


「まあ、ケロベロスもどきの魔物の時は、まず最初にお約束②の『頼れる仲間の登場』だったんだけどねー。舞ちゃんが来てくれたおかげかもしれないね」


 限界だった。

 震える拳を机に叩きつけた。

 メシッ、メシッ、と机が軋む音が聞こえる。

 このまま叩き割ってしまいそうだ。

 

「どうして……どうして、舞や橘を巻き込んだ!!」


 感情のまま怒鳴り散らす。


「僕の力を目覚めさせるとかどうでもいい! どうして舞たちを巻き込んだ! 舞だって怪我をしたし、酷ければ命に関わっていたかもしれないんだぞ! それだけじゃない! 下手をすれば周りの一般人にも危害が加わるかもしれなかった! 危険過ぎなんだよ! あれで僕が死んでたら意味ないだろ! つーか、それなら今日のだってそうだ! もう力に目覚めたし必要なかっただろ!? 橘は舞のように銃すら持ってなかったし戦えないんだ! それにあの化け物が暴れまわっていたら校舎がボロボロになるし死者だってたくさん出ることになってた! 結果的にツッキーが校舎を破壊したことになったけどね! でも、僕のように戦える人はそう多くはいないはずだろ!」


 メシッ、メシッ、と軋んでいた机がついに耐え切れなくなり真っ二つに割れた。

 全てを吐き出す。

 胸の中の怒りを全て。


「……あの、龍也さん。あまり先生を責めるのは筋違いです。私にも非があります」


 先程から黙っていた舞がそう言うと自分の服のボタンを外し始めた。


「はっ!? ちょ、やめっ、何やってんの!?」


 舞は第三ボタンまで外すと服をずらし右肩を露出させた。

 確かその右肩はあの時にケルベロスに裂かれたはず。

 だから、包帯が巻いてあって当然のはず――なのだが。


「……あれ? 包帯がない? というか傷がない!?」


 そこには傷がなかった。まっさらである。

 チラチラとブラとか胸とかに視線が行きがちだが、右肩を見据えても傷なんてどこにもなかった。まっさらである。

 とても綺麗な肌をしていらした。


「(ねえねえ、あゆみちゃん、あゆみちゃん!)」


「(なんですか、稲荷先輩。いきなり小声で)」


「(あの龍ちゃんにおっぱい見せてる猫耳の可愛い女の子の名前ってなんて言うんだっけ?)」


「(別におっぱい見せてるわけじゃないと思いますけど……。天白くんと同じクラスの五十嵐舞ちゃんです)」


「(五十嵐舞ちゃんね、ふふっ。私好みの美少女ね。なんだか色々教えてあげようかな。ふふふふふふっ)」


「(……何も聞かなかったことにしよう)」


 橘はこめかみを押さえて項垂れた。

 

「も、もう、いいですか、龍也さん?」


 そう訪ねてくる舞の頬はほのかに赤い。

 舞は自ら行った露出行為だったけれど、やっぱり恥ずかしかったようだ。

 舞、色々体張りすぎだ。


「ああ、うん。是非そうして」


 舞はボタンを閉じていく。


「この耳と尻尾を見たらわかりますが、私は人間ではありません。……それに、あの時に傷は自分で態と受けたものなんです」


「態と!?」


 僕は耳を疑った。

 態と? 一体どうしてそんな真似を……。


「実は先生から前もって言われていたんです。だから、龍也さんの役に立ちたくて……」


 しゅん、と落ち込む舞。

 先程のラルク先生の言葉を思い出す。

 ピンチの時に真の力に目覚めるとか……でも、それは……。


「だから、私の所為でもあるんです」


「でも……橘のことだって」


「それなら心配ないよ。天白くん」


 僕の言葉を無理やり遮るように橘は言った。


「私は結局怪我がなかったわけだし、天白くんが守ってくれたし。ほら、終わりよければ全てよし、て言うしさ。だからもういいんじゃないかな?」


「でも……」


「…………へー、天白くんて被害者の私たちが許しても加害者を許さない心の狭~い人だったんだー。しーらーなーかったなー」


 食い下がる僕に対して容赦ない一言。

 もちろん冗談なんだろうけど、心に響いた。

 

「……わかったよ。橘たちがそこまで言うなら仕方がない。……先生、さっきはすいません。いきなり怒鳴ったりして」


 ああ、やっぱり僕は口喧嘩はどうも弱いようだ。


「うーん。今日とこの前の戦いの時は、人よけの魔法を使ってたから周りの一般人には危害を加えるつもりがなかったんだけどさ、私は龍也くんに殴られるぐらいの覚悟はしてたんだけどなー」


「それだけ聞ければ十分ですよ」


 もう終わったことだ。だからもう気にするな、と自分に言い聞かせる。


「優しいね龍也くんは。だけど、優しすぎるのは如何なものかな。ほら、優しすぎて恋人に尻に敷かれるみたいなー」


「いや、恋人なんていませんよ」


(だけど、その尻に敷かれる龍ちゃんのお尻に敷かれるのが私の役目なんだけどね! ああ、龍ちゃんの椅子になりたい!)


(まあ、稲荷先輩のことだからこんな場面でも性的な事を考えてるんだろうなあ)


 ニヤニヤするツッキーを横目で見ながら橘はそう思った。


「龍也~、お腹空いたよ~。料理作って~」


 母さんが後ろから抱きついてきた。

 狼耳少女やツッキーのような二つの豊かな柔らかいものの感触がしない。

 もう容姿的にも晩御飯をねだる子供に見えるんだが。


「ん。了解」


 短く返事を返すと母さんはすんなり僕から離れた。


「あ、じゃあ私たちはもうそろそろお暇しようかな」


 橘が席を立とうとする。


「ついでだから食べていけばいいよ、晩御飯」


「え? でもいいの?」


「遠慮しなくていいよ、この前の廊下の時みたいにお言葉に甘えろよ」


「じゃあ、お言葉に甘えましょ」


 橘は再び席に着いた。

 ツッキーは食べる気満々みたいだしね。


「龍ちゃんの手料理……龍ちゃんの手の分泌物がついた料理……ハアハア」


 ……とか言ってるしね。

 いや、おにぎりを握るわけじゃないんだから。

 ラルク先生はいつの間にか家の少女漫画(母さんの)を真剣に読んでいた。

 帰る気なさそうですね。

 舞は、


「お母さんに連絡しました!」


「あなたも食べる気満々ですね」


 携帯を片手にドヤ顔の舞に苦笑する。


「じゃあ、作ってこようかな」


 僕は立ち上がる。

 私も手伝います、と舞も立ち上がった。



   ◆



「で、この塩麹と混ぜた鶏むね肉をフライパンに入れて頂戴」


「は~い」


 塩麹と混ぜた鶏むね肉をサラダ油を敷いたフライパンに入れていく。

 

「じゃあ、この間に萌やしに豚肉に塩こしょうをしたやつを巻いといて」


「分かりました」


 舞は慣れた手つきで萌やしを巻いていく。

 なんというか、こんな風に料理するのが新鮮だ。

 肉の表裏をさっと色が変わったあたりで、洗っておいた萌やしを加える。

 肉などの水分を萌やしに絡ませるように炒める。


「じゃあ、今度はその豚肉を巻いたやつをこっちのフライパンに入れて」


「はい」


 投入します~、とサラダ油を敷いたフライパンに豚肉を巻いた萌やしを入れていく。

 もちろん、違うフライパンです。

 まあ、あとで洗い物が多くなるけどね。


「あ、蓋をしてね。油とぶから」


 フライパンに蓋をして蒸し焼きにする。


「じゃあ、悪いけどその戸棚から皿を取ってきてくれるかな」


「わかりました」


 舞は戸棚の中から皿を数枚取り出す。

 ……なんだか、舞を良いように使ってる気がする。

 本人は気にしてなさそうだけどね。


 そんなわけで残りの仕上げも終え、盛り付けも終わった。

 うーん。なんかもうちょっとバリエーションを増やしても良かったかな。

 でも量をいっぱい作ったからいいや。

 僕は少し小さめの皿を食品用ラップフィルムで包む。


「それって、上の女の子のご飯ですか?」


「うん。まだ寝てると思うけど。もしもの為に置いとこうかな、て思って」


「……やっぱり龍也さんは優しいですね」


 舞の顔はどこか心配そうだった。


「それを言ったら、舞だってそうだろう? 僕のために怪我をして」


「いえ……、これはもう治ってますし」


 舞はこの前傷がついた右肩を摩る。

 もう傷は治ってる。でも、それでも……。


「舞、約束して欲しいことがある」


「約束、ですか……?」


「うん。僕の為だと言うのなら、僕の為に怪我をしようと思わないで欲しい」


 僕の為に傷つかないで欲しい。


「……じゃあ、龍也さんも約束してください。私の為に傷つかないでください」


「……わかった約束する」


 舞は微笑んで小指を差し出した。

 僕は自分の小指を舞の小指に絡ませた。



   ◆



 僕は階段を上がりながら、色々なことを思い返していた。

 入学式の日の襲撃とか、ドラゴンになったこととか、狼耳少女と戦ったり……エトセトラエトセトラ。

 

 ……あれ? この短期間でこれって、僕の高校生活大丈夫か?


 誰かに「大丈夫だ。問題ない」と言って励まして欲しい気持ちに浸りながら、僕の部屋の前についた。

 寝てたら机にでも置いておこうと思いながら、ドアノブに手をかける。


「あれ? そういえば……」


 ドアノブにかける力を弱まる。

 確かあの狼耳少女は、母さん曰く人狼らしい。ツッキーは、見た目的に九尾の狐とかだと思うけど。


 ……舞はなんだ?


 いや、もしかしたら猫又とかかも。でも尻尾は一本だったし。

 じゃあ、ファンタジーではよくある獣人みたいな感じなのか?

 それとも――――。

 

 しかし、僕の思考は自分の部屋の中からドタンという音にかき消された。

 この何か落ちたような音は、もしや……。

 ドアを開けて確認すると狼耳少女はベットの上ではなく床の上にいた。

 額をおさえているところを見ると頭から落ちたらしい。

 狼耳少女はまだ状況を把握していないようで不満というか困惑した表情をしていた。

 しかし、涙目で上目遣いで見てくる少女はすごく可愛く見えたりする。狼耳付きだし。

 

「か、可愛い」


 思わずそう口から漏れてしまうほどだった。


「……わふ?」


 狼耳少女は目をパチクリさせた。

はい。終了です。


ちなみに次の章では、あまり出番のない幼馴染がメインです。

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