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異世界ライフは山あり谷あり  作者: 常盤今
第6章 西方アルタナ王国救援編

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 私の周囲から人がほぼいなくなった。

 残っているのは初老の参謀と従卒の少女だけだ。

 少女は毅然とした表情をして立っている。

 こんな状況下で大したものだ。

 しかしよく見ると手が微かに震えているのがわかった。

 必死に恐怖に抗おうとしている少女に畏敬の念すら抱いた。

 そしてその姿を見た私はある種の決意を固める。


「住民を街から脱出させることはできませんか?」


「!? この包囲されてる中で、ですか?」


「防壁が突破されるとすれば攻勢が激しい西側か南側でしょう。北側と東側を守る戦力は健在のはずです。北は王都を目指す魔物に行く手を塞がれますから東に脱出させるのです。東の森の中には小さな村が点在していますから、辿り着ければ生き残ることも叶いましょう」


「し、しかしながら、確かに東側の魔物の動きは鈍いですが包囲が薄い訳ではないのです。城門から出たらまず間違いなく壊滅しますぞ」


「10代後半の男子と40代の男性、10代後半と20代の女性に武器を持たせなさい。街中の馬車を集めて子供と妊婦、それと食料を乗せるのです。

 防壁が破られたら北側の防壁守備隊を急いで東側に移動させ、合流次第東門から脱出。弓兵は防壁上から援護させるように。

 最優先に脱出させるのは子供と妊婦が乗った馬車です。住民と魔物を混戦状態にさせて上手く隙を突きなさい」


「それでは住人にかなりの犠牲が……」


「街に留まっても殺されるだけです。1割でも2割でも生き残れるなら手段を選ぶべきではありません」


 私も父上と同じ道を歩もうとしている。

 結局非情の王の娘という枠組みからは逃れられないということらしい。


「姫様も共に脱出を!」


「私は王直々にこの街の死守を命ぜられています。

 急ぎなさい。残された時間はそう多くはありませんよ」


「っ、了解しました」


「あなたも行きなさい」


「わ、私は姫様のお傍に」


「人手が足りません。あなたも従卒とは言え軍人なのですから命令には従いなさい」


「わ、わかりました」


 参謀と少女が指令室を出て行った。

 遂に私一人になってしまった。


挿絵(By みてみん)


 誰もいない部屋で静かに時を過ごしていると慌ただしくこちらに向かってくる音が聞こえる。

 もう防壁が破られた?

 まだ早い。もう少し時間を稼がないと脱出の準備が整わない。


「申し上げます! え、援軍が到着し南の敵を蹴散らしております!!」


 南?

 王都からの援軍なら北方からのはずだが……


「どこからの援軍ですか?」


「わかりません! すぐに報告するよう命令されまして……」


「すぐに戻って詳細を調べて報告するように」


「ハッ!」


 どういうことだろう?

 ルミナス大要塞から退避して来た守備隊だろうか?

 南からの援軍などそれ以外には考えられないが……

 状況の変化に困惑していると、また伝令と思わしき足音が聞こえてきた。


「も、申し上げます! 東側の敵勢、援軍の魔法攻撃により壊滅しつつあり!!」


 今度は東??


「来援はどこの軍勢か?」


「しかとはわかりませぬ!」


「防御に余裕ができたのなら南防壁に部隊を送るよう指揮官に伝えなさい」


「了解しました!」


 そんな援軍などあちこちから来るはずもない。

 このレグの街は王都防衛の為の捨て石にされたのだ。

 私がここで死ぬのも王家への批判を逸らす為の人身御供であったはず。

 臣下たちに謀(はか)られているのだろうか。

 しかしそのようなことをする意味なんて……

 あ、また伝令の向かってくる音が……


「申し上げます! 西側の魔物を魔術士が魔法攻撃で撃退しております!!」


「だからどこから援軍が来た…と言うの…か……ま、魔術士?」


「は。街の南西の角に突然魔術士が現れまして、北と東に向けて猛烈な魔法攻撃を開始して魔物を駆逐しております」


「その魔術士は1人なのですか?」


「1人であります!」


 この死地にたった1人で駆け付けてくれた魔術士が魔物を蹴散らしている!

 自分の胸に熱いモノがこみ上げて来るのを感じる。


「西側の防衛状況はどうか」


「防壁に取り付き登ろうとしている魔物に対応していますが、魔術士が後続の魔物を撃破していますので余裕を持って対処できております」


「ならばそなたは南の防壁に行き、そこにいる参謀に指令室に戻るよう伝えてから西側に戻りなさい」


「かしこまりました!」


 自分の目で確かめに行きたいがこの指令室を空にすることはできない。

 焦れったい時間が続く中、またも慌ただしく駆けて来る音が。


「き、北側の魔物は魔術士により壊滅しました!」


「北側防壁の様子はどうか?」


「はっ、その後は各隊交代で休息を取るとのこと」


「では休息の終えた部隊の中から1つ選んで西側に回すよう指揮官に伝えなさい」


「了解です!」


 それにしても魔術士1人の戦果にしては巨大すぎる。

 各方面に現れた魔術士はそれぞれ別人か?

 気にはなるがそれは今はいい。

 街を囲んでいた魔物を撃破したとなると明日を迎えられる可能性が出てきた。

 南からの魔物の流入は続いているので、いずれはまた街は包囲されるだろう。

 ルミナス大要塞に続く南の道に土魔法で防塁を作って防衛戦を行うか?

 街の各防壁に部隊を分散配置するよりまともに守れるかもしれない。

 その場合は王都に向かった魔物が引き返してくるとガラ空きの街が襲われてしまうので、その動向には細心の注意を払わなければいけない。だが、やる価値はある。

 参謀達が戻ったらさっそく検討させねば。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 レグの街は四方を魔物に包囲されていた。

 魔物は南から来るので、街の南側がもっとも数が多い。

 次いで西側が多く、この2つの方面で街の防壁を挟んで激しい攻防が行われている。

 北と東は街を包囲しているものの数は南と西よりは少な目で、街への攻撃もそれほど激しくはないようだ。


 魔物がひしめいてる中に降りるのは無謀なので、街の東に広がる森の中に降りる。

 おそらく現在街を囲んでいる魔物だけなら倒せるはずだ。

 問題なのはその後で、魔力を消耗しきってまたすぐ街が包囲されるようではもうどうにもならない。

 その場合は姫だけ救うか?

 ここで死んだことにしてもらって別人として生きてもらうとか。

 無理だろうなぁ。街の住人やたくさんの部下を見殺しにして自分だけ逃げるなんて、それができるのならわざわざ指揮官として前線に出てこんな包囲された街を守ってないだろう。

 う~~ん。

 だったらせめて街の住人だけでも逃がすか?

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