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「店主、入り口と中央にいる男はこの店の者か? 違うなら先手を打ちたいのだが」
「み、店を警護している者です。ご安心ください!」
「そうか……」
「ツトムさん?」
「あ、ああ」
力を抜き、ルルカを離した。
「警護の者が何か粗相でも?」
「いや、こちらが勝手に警戒しただけだ。相当な手練れを雇っているのだな」
「この業界、少しの油断が命取りですので」
こちらの世界でも貴金属店は狙われ易いらしい。
店員の数が少なく、扱っている商品が高額で、持ち運びし易いとくれば当然か。
「こちらへ」
個室に通され、机の上に奥から持って来た布に包まれた物を置いた。
店主が布をめくると中から眩い光が……
「うぉ」「あっ!」
「こちらが当店最高級の首飾りでございます」
豪華絢爛としか形容しようもない艶やかさだ。
確かにこの品なら姫様への献上品に相応しいのだろうが。
しかし……
「これはいくらなんだ?」
「500万ルクにございます」
「ご、ごひゃ……」
見ろ。ルルカなんて絶句してしまったではないか。
良くニュースで見る豪華な宝石類と同等の匂いというか何かを感じたのだ。
確かに500万ルクは高いが、むしろ手持ちで買えるのかよと思ってしまったぐらいだし。
だってあちらは~億円で文字通り桁違いだ。
「他にはないのか?」
多少高くても買うつもりだったが、さすがに500万はちと高い。
菓子2品の利益の3割という収益に対して、とても釣り合う出費とは思えないのだ。
「他の品ですと王族の方への献上品としては格が2つ3つ落ちてしまい、当店としてはお薦めできません」
う~ん……
仕方ないのか?
安い品を求めて他の店に鞍替えしたとしても、その店に献上品に相応しい品があるとは限らず、仮にあったとしても数十万ルクの為に余計なリスクやゴタゴタを背負うのかという話だよな。
これでお礼と共に姫様との縁が繋がるのなら……繋がってしまっていいのだろうか?
厄介事に巻き込まれるのではないか?
悩みは尽きないが、他に選択肢がある訳でもないか。
「わかった。これにしよう」
「ツ、ツトムさん??」
「ありがとうございます」
「献上用の包みというか豪華な感じにしてもらえるか?」
「はい。それはもちろん」
包装してもらう間ルルカと2人で店内を見て回る。
「よろしかったのですか?」
いくらなんでも高過ぎだろうが、ってことなんだろうな。
「さっきオークを大量に売ったから大丈夫だ」
「それなら良いのですが……あら」
ルルカが陳列してある商品の中の1つに目を留めた。
中々凝った造りの首飾りだ。
値段は40万ルクか。
「気に入ったのか?」
「い、いえ、そのようなことは……」
チラチラ首飾りに視線を送りながら言っても全然説得力がないぞ。
「お客様はお目が高い! こちらの品を手掛けた職人は近年王都でも人気が急上昇しておりまして、中々品が回ってきません。この首飾りもとあるお貴族様のご注文でしたが、キャンセルとなりまして先ほど陳列したばかりでございます」
どこからともなく女性の従業員がやって来てアピールを始めた。
試着を熱心に薦めるのをルルカは懸命に断っている。
「それも買おう」
「い、いけません! このような高価なものを」
「毒を食らわば皿までという言葉もある。ここぞという場面で一気呵成に攻めるのは戦いも買い物も同じだ」
「は、はぁ……(また妙なことを言い出したわ)」
「さぁ、皆の分もルルカが選ぶのだ!!」
「は? み、皆の分とは?」
「まず同じランクでロザリナのだろ、2人の家族の分……ロザリナの妹と母親、ルルカの娘と母と祖母の計5つ、あとティリアさんのも買うか、これらは1ランク下ので」
「私の家族まで……、そのようなお気遣い本当に申し訳なく……」
「ルルカ、これは気遣いではない。そう、いわば挑戦なんだ!」
「挑戦……ですか?」
「よく考えてみろ。ろくに知りもしない姫様に500万の品を献上するんだぞ。身内にも相応に散財しないと割に合わないだろう」
「そのようなものなのでしょうか?」
「失礼します。お客様準備が整いました、こちらへ」
店主が呼びに来た。
「品を選んでおいてくれ」
再び個室に通された。
机の上には500万の首飾りと高級そうな木箱に包装紙が置いてある。
「このような高級品はお客様の目の前で包むのが当店の規則でして」
中身のすり替え防止の為か。
首飾りを入れた木箱はあっという間に包まれて麻袋に入れられた。
机の上に白金貨5枚を出した。
「確かに。こちらが品物と当店の品質証明書でございます」
「品質証明書とは?」
「そちらの首飾りが500万ルクの価値がある品であることを保証する書類でございます」
「これは一緒に献上したほうがいいのか?」
「はい。証明書のほうは側仕えの者にお渡しください」
「わかった」
「しかしさすがでございますね」
「何がだ?」
「いえ、このような高価な品は値切るのが普通でございます。それをそんな素振りも見せずに即金で御購入とは……
さすが老舗のノーグル商会から紹介されたお客様です」
「王族への献上品なんだし、値切らないのが普通だと思うがな」
「さらに当店でご購入されるのであればそちらは勉強致しますので」
「期待しておこう。それでここの商売とは関係ないことを1つ聞きたいのだが」
「なんでございましょう」
「実は……」
店内に戻るとルルカが真剣に商品を吟味していた。
「どうだ? 選び終えたか?」
「いえ、ロザリナの家族には会ったことがないのでどうしたものかと……」
「ふむ。ロザリナのはどれを選んだんだ?」
「こちらです」
ルルカが選んだのは小さな剣が付いている首飾りだ。
値段は38万ルク。
「妹とは仲良いのだから、似たようなのでお揃いの感じを出したらいいだろう。母親はさすがにわからんから、ルルカのお母さんに選んだ系統ので一般的な物でいいんじゃないか?」
「わかりました。あの、ティリアにも贈られるのですか?」
「ほら、俺の不在時にルルカは王都のティリアさんではなく実家に帰ることになったのだから、その埋め合わせかな」
「はぁ……(じぃーーーーーー)」
「な、なに?」
「ツトムさんはまたティリアを口説くつもりですか?」
「ティリアさんはルルカの親友で人様の奥さんだぞ。そのようなつもりは一切ない!」
大体またってなんだよ、またって。
1度もそんなことしたことないって。
ティリアさん以外には良からぬことを考えたこともあったかもしれないが……
「(じぃーーーーーー)」
「ほ、本当だぞ」
もう少し主を信頼してもいいだろうに。




