ユニット仲間
あれ、〈ユニット〉とはどういう意味だろうか。コルタは首を傾げた。アレキサンドラからは、何も聞いていない。
「〈ユニット〉ってどういう意味なの?」
驚いたように周りから見られて、コルタは逆にびっくりした。
「知らないの?同じ小船に乗った者は、五年間、同じ〈ユニット〉として行動する。入学書に書いていなかった?」
少女にたずねられて、コルタは心の中でため息をついた。アレキサンドラにしごかれていたせいで、入学書のことなど忘れていた。一応、言われたから鞄の底に押し込んでおいたが、今まで見る暇もなかった。
「読むのを忘れていて」
「入学書を?君、変わってるね」
驚いたように金髪の少年が言う。二週間で貴族になりきれという無茶振りを受けていて、忘れていたんだ、と大声で言いたいのをコルタはこらえた。貴族たちから見て、自分が変わっているように見えるのはあながち間違いでもないだろうし。
目の前にそびえ立つ城に向かって歩き出しながら、コルタはたずねた。
「ちょっと忙しかったんだ。それより、〈ユニット〉って、具体的に何をするの?」
「えぇっと、いろいろらしいよ。実習を一緒にしたりとか」
少し自信なさげな口調で、眼鏡の少年が言う。ずいぶんと具体的な説明だ。それに、少女がふんと鼻を鳴らした。
「どうせ、大したものじゃないわよ」
まずい。空気が悪くなった。お前はもう余計な口をこれ以上叩くな、と少女に念じながら、コルタはにっこりと話を変えた。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったね。わたしはアスコルターレ・クオーレ。息が続かないと思うから、コルタでいいよ」
空気が和んだことにほっとしたように、眼鏡少年も口を開いた。
「僕はファレン・ティエラ。オヴェスト地方の北側から来たんだ。よろしくね」
「あたしは、ローサ・アヴァイン。エスト地方の海沿いから来たわ」
そっけなく少女も答えてくれた。簡単な会話が成り立っただけだが、コルタはほっとした。
「僕は、ミロワール・ジュインキリア。ミロと呼んでくれ。よろしく、僕の友達諸君」
しばらく無言の間が続いた。
勇敢にも、ローサがそれを破った。
「それより、あなたクオーレの人なの?似てないわね」
一瞬、自分に聞かれているのがわからなかったが、コルタは慌ててうなずいた。危ない、気をつけなければ。
「うん、遠縁だからね」
こういうときのための言い訳を用意しておいてくれたアレキサンドラに、少しだけ感謝しながら、コルタはうなずいた。まだ不思議そうな表情のまま、ローサが首をかしげる。
「それでも、国内でしょう?どちらかと言えば、あなたの顔立ちとか目の色は、東海寄りだと思うのだけれど」
あぁ、もう、この子は本当に面倒くさい。貴族の子どもたちの中の独特な空気に慣れなければいけないのに、答えに困る質問をどんどん浴びせられるこちらの身にもなってくれ。コルタは必死で答えをひねりだした。
「よくわかるね。実は、私の祖母の叔母は東海出身なんだ。それに似たんだと思う。そういえば、叔父にも、なぜお前は東海風の顔立ちをしているのか、って初めて会ったときにたずねられたな」
コルタは驚いたような表情をしてみせた。相手を褒めたり皮肉ったりしながら、しれっと論点をずらす。嘘の中にちょっとした真実を混ぜて、わかりにくくする。どちらも、クーゲルによくやられていたことだ。クーゲルいわく、単純な相手ほど通用するらしい。
その「単純な相手」の模範解答的な人物だったのか、ローサは嬉しげにうなずいて、
「私、お父様と参加した交流会で、たくさん東海の人たちと文化や学問についてお話したの。だからかもね。あのときの経験は、エストの貴族として成長するための大切な糧だったと思うわ」
と、聞いてもいないことを語りだした。最初の頃は、東海語も話せるのかと少し感心していたコルタだったが、段々と飽きてきた。とにかく長いのだ。これに尽きる。
皆も感じることは同じだったようで、ファレンは小さな本をどこからか取り出して読み出しながら、ミロは手鏡をどこからか取り出して眺め出しながら、このとても興味深い時間を過ごしていた。ローサも、絶望的な鈍さのせいか、それに気づいていないようなのが相まって、気まずいというよりもなんだか面白い。
だから、
「城についたよ」
というファレンの言葉がもったいないくらいだった。




