到着
「相変わらず、規模が桁違いですね」
コルタは馬車の窓から、目の前にそびえ立つ学園を見上げた。様々な装飾のあしらわれた塔や、ガラスのドームがたくさん造られている。周りは巨大な森に囲まれていた。
「一応、東西にとって大切な建物なので。そうだ、うっかり遭難しないでくださいね。まぁ、言っても無駄だと思いますが」
悔しいことに、言い返せない。コルタはアレキサンドラの屋敷にいた頃を思い出した。結局、屋敷を出発するまでずっと、迷子になり通しだった。屋敷以上の大きさを持つこの学園で暮らすなら、遭難はまず免れないだろう。
「あと、友達をたくさん作るんですよ。あなたの交友関係は、広ければ広いほど良い。仕事だと思って、頑張ってください」
「…善処します」
「何度も言いますが、子ども同士での交友関係というのは、早いうちに決まってくる。その機会を逃さずに、何人か捕まえてください。人脈の広い親を持つ子なら、なおさら良い」
どこの親も言っていそうなことなのに、この人が言うとやけに物騒に聞こえる。コルタはしぶしぶうなずいた。果たして、自分に友達というものが作れるのだろうか。バイオリンを上手に演奏する方が、まだ簡単に思える。あーあ、友達が無からにょっきりと生えてきてくれれば良いのに。
「あと、クーゲル師からの伝言です。魔法を使うときには、くれぐれも注意しろとのことです。言われなくても、あなたはわかっていると思いますがね」
「…知ってたんですか?」
考えてみれば、自分のことを知っていた時点で、あの事件のことも認知していたのは当たり前だ。その考えに今になってたどりついた自分が馬鹿のように思えて、コルタは軽くため息をついた。
「まぁ。どうして、そんなあなたを選んだのかって?」
コルタは無言でうなずいた。普通に考えたら、心の声を聴くことができるという利点よりも、遥かに悪い点の方が勝っているではないか。
「あなたは勘違いしているかもしれませんが、心を読むことができるというのは、とてつもない力です。だからこそ、役立ててもらおうと思いました」
「わたしの監視も入っているんじゃないですか?クーゲルさんはいい人だけど、あまり国からも、あなたからも信用されていないみたいだったし」
コルタは薄々感じていたことをつぶやいた。何にしろ、理由がそれだけであるはずがない。図星だったのか、アレキサンドラは微笑んだ。
「細かいことはいいじゃないですか。あなたはただ、私たちのために働けばいいんですよ。じゃあ、行きましょうか。アスコルターレ・クオーレ?」
はぐらかされた。丁寧な口調だが、お前に教える気はないと言っているのと同じだ。まぁ、いいか。こちらとしても、教えてもらえるかもしれないという期待はあまりしていなかった。
「わかりました、大叔父殿」
「いやみったらしく言わないでください。仲が悪く見えますよ」
馬車から外に出ながら、アレキサンドラが片眉を上げた。秋風の肌寒さを薄手の上着の上から感じながら、コルタは鼻を鳴らした。
「初っ端から拉致しようとしてきた人間と仲良くできる人だらけなら、わたしも、この学園も必要ないんじゃないですか?」
「それなら、私の仕事も多少は減ったでしょうね。でも、あいにく、そんな世界は存在しない。ということで、国のために頑張ってきてください」
自分の故国でもないのに、なぜこんなことを言われたりしなくてはならないのだろう。あの森の小屋に帰りたい。でも、そんなことをしたら、永遠にこの人に追われ続けそうだ。コルタは憂鬱な気持ちで、アレキサンドラと校門に向かって歩き出した。




